「今日の練習終わり!」
「おつかれさまです〜、あっ、伊地知先輩いいカフェ見つけたんですけどこの後……」
「リョウ、明日貸した漫画絶対持ってきてよ!売るなよ!」
「じゃ」
「あのカフェ皆で……」
「あっぼっちちゃんばいばい!知らない人についてっちゃダメだよ」
「あっさよなら……」
「ん?喜多ちゃんなにか言った?早くでよ」
週末のSTARRY、練習終わりの三時半、変人の中に放り投げられた喜多は珍しく意見がスルーされ続け、悲しげに呟く。
「女子高生感が足りない……」
次に内から来る欲が喜多をゴリラへと昇華させる。
「毎日学校練習バイトの繰り返し!たまには女子高生っぽい事もしましょうよ〜〜!きらきらきららしたくないですか!?」
悲しみの涙を流しながら吼える姿に気圧され、結束バンドの面々で下北の散策へ行くことになった。
「リョウ散歩」「in下北沢〜!」
案内役を任されたリョウが番組の真似をして、喜多が乗っかって、下北がサブカルの街という雑学を話しながら巡っている一行の目に見慣れた後ろ姿があった。
男にしては長い薄紫の髪、音楽のために鍛えて、オーチューブ視聴者の無茶振りに応えて仕上がった体。
咲良湊だ。そしてその隣を歩く緑色の髪をしたショートカットの少女もまた、結束バンドのうち二人には見慣れた人物だった。
「湊くんと……誰?」
「さっつーよ!二人で何してるのかしら!」
「クラスメイトで……いいひとです」
「前にライブに来てくれてた」
「え、リョウってそういうの覚えてるタイプなんだ」
「タオルにガンバレって書いて広げてた」
「それは忘れてる私が悪いわ」
二人の姿を見てリョウは少し考える姿を見せると、二人を指差しながら喜多の方を見た。
「郁代、二人をつけていくのはどう?」
「いいですね!」
女子高生らしさに飢えている喜多にとって、最近湊相手に気があるそぶりを見せているさっつーの後を追うのは最高の娯楽だった。
湊に彼女がいるし、なんならその彼女を応援してたのにいいのか?という疑問はきらきらきららの前に無力。そもそも彼女を一人に絞らなければならないという考えは湊に無く、あの廣井きくりの弟分にだらしない要素が無いはずが無いのだから。
「学校での湊くんってどんな感じなの?」
「中学時代の事もあって友達が少ないって言ってたけど」
違う高校に通う二人は湊本人の話を聞いてはいたが、彼の性格から考えて友達は多そうだし、実情が合っているのか気になった。
「んー、女子と仲がいいせいで男子とよく命のやり取りしてますけど、普通に仲良いですよ?」
「あっ、で……でも、周りの目が他の友達に向けるのと違ったり、ゲームとか部活の話になると湊くんはあんまり入っていけてない気が……するというか……私の方がダメですね、すみません」
「ぼっちちゃんよく見てるねー」
「やはり天才は孤独……」
「リョウは自分から一人になってるでしょ、ていうか私がいるし」
「まあ湊くんも見ての通り私やさっつーがいますし、孤独ではないと思いますよ?毎日違う女の子を連れ歩いてるとか、女の人を酔わせてお持ち帰りしてたとか、外国人に道教えるふりして家に連れ込んでたとか、かっこいいお姉さんに甘えて取り入ってるとか、根も葉もないような悪い噂が立ってるのも気にして無さそうですし」
「思いっきり根も葉もあるよ、ごん太だよ」
「湊の動画を見てたらわかるはず、噂を流してるのは見てなくて悪意のある人か……逆にファン」
「確かに、湊くんの視聴者ならそういう弄り方するね」
「そういう事ならやっぱり人気者ですね!ちょっと遠巻きに見られてるだけで!」
一行が学校での湊について話してるうちに湊とさっつーはカフェに入り、変装グッズを買った四人も同じカフェに入ったはいいが、スイーツが提供されるまでの時間に差があり、急いで食べるも見失い、気を取り直して古着屋を楽しんでからハードオプに行くと、見失った二人の姿があった。
「おーっす、喜多に後藤じゃん、こんなところで奇遇って思ったけど下北だしそりゃいるか」
「いつもこの辺に来てるからね、さっつーは湊くんと何してたの?」
「見りゃわかんだろー?デートだよデート」
ぎゅっとさっつーが湊の腕に抱きつく。彼女持ちの湊相手にあまりにも堂々とした姿と発言にさっつーを除くその場の全員が驚いた。
結束バンドも、湊も、近くを歩いてたモヒカンも、散歩をしてたヨークシャテリアも、驚きのあまり動きを止めた。
「ってなんで湊くんも驚いてるのよ!あと知らない人も止まりすぎじゃない!?」
「荷物持ちって聞いてたから……道理でまだ荷物持たされてないわけだ、デートだったんだ……」
「ああ、まさかデートだったとはな」
「ワンッ!ワンッ!」
「デートだってわかってれば……何ができたんだ?」
「その前にナチュラルに話に入ってきてるモヒカンの人と犬はなんなの!?」
湊に「今からでも間に合う、大事にしてやれよ」「わんわん!」と声をかけて立ち去る一人と一匹の姿に釈然としないものを感じながらも、喜多は何も考えない事にした。
湊や周りで起こることに一々反応してもいいことはない。結束バンドの面々も人の事を言えない程度に変なことを起こすのだから大事なのはスルースキルだ。
「デートかどうかに関わらずミナちゃんてば私のこと大事にしてくれっしょ?」
「大事だからね」
満足そうにムフーと鼻から息を吐いてさっつーが湊の腕に頬を擦り付ける姿に虹夏は胸焼けしそうだし、ひとりは溶けていた。こうならないようにモヒカンとヨークシャテリアは必要だったのかもしれない。
「でも、ハードオプは確かにデートっぽく無いかもね」
この空気から抜け出したい一心で虹夏が放った言葉が、湊とリョウの心に火をつけた。
湊の彼女は機材好きのPAさんにベースの幽々、となるとハードオプも当然視野に入るというか、掘り出し物を探して話すのも楽しい時間だったりする。
リョウとひとりも機材の楽しさを語り、デートにどうかとは思うが場所としては好きな虹夏も、楽しいことを共有できるのなら、かなりいい場所なのでは?と思考が染められ、いつの間にか皆で機材の発掘を楽しみ始めた。
「ウチらアウェイだー」
「こんな気持ち初めてだわ」
「しゃーないから喜多で我慢しとくか」
そう言って抱きついてくるさっつーに「誰でもいいの?」なんて返しながらも、結束バンドだけで来て三人がはしゃぐ中で一人になるなんて状況にならなくて良かったと、喜多もそれを受け入れた。
その後、放置された二人のご機嫌取りにクレープを食べたり、ビレパンに行ったりと楽しんだ帰りの駅前。
「ごめんねさっつー、せっかくのデートだったのに」
「今日一日、ミナちゃんに一番大事にされたのは私なのに免じて許してやろう」
「ありがたき幸せ」
なんてふざけながらも、きらきら成分を補充できた一日だったと綺麗に締めくくれそうなところに、倒れている人を心配する声と、酔っぱらいのうめき声が聞こえてきた。
「あっ……」
誰もが目を逸らしたくなるような光景だが、その酔っぱらいに見覚えがありすぎた。そして、誰よりも早く、湊は酔っ払いの元へ駆けた。
「姐さん、またこんな所で寝ちゃって……」
「んぁ……さくらちゃんだー、今日も私に会いにくるとかどんだけ私のこと好きなんだよ、可愛いなぁよーしよしよし」
心配で声をかけた湊を見るなり、抱きつき……というかもたれかかっていく。
「めちゃくちゃ大好きですよ」
「私も好きーちゅっちゅー」
さっきまで地面に寝ていた人間がもたれかかって頬にキスをしてくるのも甘んじて受け入れるその姿に、周りの人は衛生観念がどうなってるんだと驚愕するも湊は気にしない。
「ごめん、俺ちょっと姐さんを介抱してから帰るわ」
そう言ってきくりをお姫様抱っこして立ち去る湊の姿を見てプルプル震えるさっつー、結束バンドも残念な生き物を見る目で立ち去る湊の姿を見送った。
「私より大事にされたあの人を許す道理は無い」
「「「「それはそう」」」」
さっつーの廣井きくり許さない宣言は全員に同意を得た。
お礼です!
田中読者様、なまこな様
感想ありがとうございます!
皆様に幸あれ!
具体的にはざぶとんめんまとかいうめちゃくちゃうめーもの食えるくらいの幸あれ!