十二支史 召喚獣が獣耳少女で困る   作:佐藤 白

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深淵から覗く者たち

『頭の中で舌打ちは止めてくれ』

「そんなに顔を顰めてどうしたエト? 再会が嬉しくないのか?」

「いえ、ちょっと頭痛が」

「ひょっとしてこの前言ってた初恋の先生?」

「なるほど、これは運命的というべきか」

「言うんじゃなかった」

 

 エトは先の宿泊時に赤裸々な語らいをしたことを少しだけ後悔した。まさかこんなに早く再会することになるとは夢にも思わなかったのだ。

 

「ほう、そんなことも話したのか。そうだ、私がエトに告白された先生だ」

「勘弁してくれよ先生」

 

 エトはうめき声を上げて机に突っ伏す。

 

『『『『『『『『『『『『ペッ』』』』』』』』』』』』

 

 十二支たちが一斉に唾を吐く音が頭に響いた。

 

「脱線したな。紹介を続けよう。以前は初等部の教員でありその前は軍人だったが、特別クラスを新設するにあたり国からの要請があったため赴任してきた。かなり急な話で憤りもあるが、これも社会人の務めというやつだ。大人になるとこういう事もあると知っておけ」

 

 ヒノヤビが目配せするとフジが一歩前に進み出た。

 

「改めまして副担任のフジです。ヒノヤビさんと同じく国からの要請で赴任しました。免許はあっても実際に教職につくのはこれが初なので至らない所もあるでしょうが、どうぞよろしくお願いします」

 

 フジは営業スマイルのような笑みを浮かべながら丁寧に腰を折った。

 

「我々の紹介も済んだ所で特別クラスについて説明しよう。大まかに聞いているとは思うが、そもそも特別クラスが新設されたのはお前たちのやらかしが原因だ」

「だよねえ」「返す言葉もない」「俺は被害者じゃね?」

「お前たちの実力は既に中等部はおろか高等部を超えて召喚士全体で見ても上の方だろう。それ自体は喜ばしい。だが、他の生徒と一緒くたに学ばせるのは双方のためにならん。そこで特別クラスという名の隔離措置であり優遇措置というわけだ」

 

 フジが特別練の案内が書かれた冊子を三人に配る。

 その中に書かれた施設全体の見取り図を見れば、三人のために用意されたにしては相当広く、分厚い壁で幾重にも仕切られ、本校舎からかなり離れていることが読み取れる。

 

「分かるか? この施設と私達二人こそお前たちへの期待と不安を示していると」

「明らかにやり過ぎだろ」

「あまり有意義な公金の使い道とは思えないが」

「うちの爺さんたちもどれだけ出資したことやら」

 

 三人は特別クラスの新設についてはともかく特別練まで新設することに否定的だった。

 

「お前たちの認識が甘いことは分かった。だが、私もその実力をこの目で見たわけではない。ならばよかろう、ついてこい!」

 

 ヒノヤビに連れられて一同がやってきたのは、やはりというべきか新しい演習場であった。

 とにかく広い新演習場は施設というより野原である。だが、周囲を囲む外壁は高く分厚く、以前三人が破壊した演習場と比べてより強度の高い素材が使用されて頑強になっていた。まるで危険物を取り扱う実験場である。

 

「記念すべき最初の授業だ。全力でかかってくるといい」

 

 ヒノヤビを中心として火の玉のような鼠が大量に現れる。それらの一部が抜き放たれた軍刀に宿って刀身を赤熱化させ、また別の集団が燃え盛る緋色の外套となって彼女に纏われた。

 だが、変化はそれだけに留まらない。辺りを覆いつくすように侵略した鼠たちは地面を溶岩のような環境に変えてしまった。

 

「おいおい、あんなの初めて見たぞ」

『融合召喚 氷天戌』

 

 犬耳と尻尾を生やしたエトの周囲にいくつもの氷塊が浮かび上がる。

 

「へぇ、中々期待できそうだね」

『雷轟夜叉 雷轟爪槍』

 

 雷の鎧を纏ったナルカミの左右に爪のような雷槍が並び、籠手と電流で繋がれる。

 

「凄まじいものだ」

『リミッター解除 形態変化・八岐大蛇』

 

 サイバネの機械竜がけたたましい駆動音とともに変形し、新たに七つの首が生えてくる。

 

「ほう、その歳で見事なものだ」

 

 凄まじい熱気に打ち上げられるように空中へ退避した三人が戦闘態勢に入る。その威容はヒノヤビに勝るとも劣らない。

 

「フジ、予定変更だ。お前も参加しろ」

「えぇ……事前に話していた通り戦闘は苦手なのですが?」

 

 溶岩の上に突っ立っていたフジは戸惑いの声を上げながらも笑顔を張り付けたままヒノヤビの隣に並んだ。

 

「防衛と遅延は得意だろう? 分断して私がエトの相手をするから、他二人のサンドバッグになれ」

「普通逆では? いえ、そもそも一人ずつ相手すれば良かったのでは?」

「それでは恰好がつかんだろう」

「えぇ……」

 

 フジが再び戸惑いの声を上げる一方で、三人はエトの周囲に浮かぶ氷塊の周りで寛いでいた。

 

「その形態は涼しくていいね」

「熱による影響が抑えられるのはこちらとしても有難い」

「最初は耐性を考えて炎にしようかとも思ったんだが」

『ちょっと! なんでそのままアタシを頼らないのよ!』

『ご主人はヒヨの方が好きだもんね』

『なんですってこの駄犬!』

『おいおい、喧嘩は止めてくれ』

 

 エトは脳内で喧嘩する炎天申エンとヒヨを宥めた。

 

「あー、それはチームプレイだと許されざるね」

「そういう考えもあるか」

「つーか、早く始めてくんねーかな。このままだとまた」

「準備はいいか? 始めるぞ!」

 

 ヒノヤビから声がかかり、三人は再び構えをとった。

 

「じゃあ、僕から行かせてもらおうか」

 

 言うが早いか、予備動作もなく一本の薙刀が一筋の稲妻となって地に落ちる。だが、稲光と雷鳴の後にはまるで変わった様子のない二人と大地が残っていた。

 

「何あれ? 全然効いてないんだけど。雷もまるで溜まってないってことは届いてもいない感じかな?」

「たぶんフジ先生の方だと思う。ヒノ先生は自分だけならともかく周りの被害を抑えるのは苦手らしいし」

「なるほど。私も少し試してみよう」

 

 サイバネの機械竜が八つに増えた首から眩い光線を吐き出す。それらは噴火するような勢いで上昇する溶岩の壁に阻まれた。

 

「げぇ!? これ演習場から逃げちゃダメか!?」

 

 巨大な氷塊を落とし、風と重力で押し込みながらエトは叫んだ。

 

「それは演習の趣旨に反するだろう」

「雲の上まで上がるかい?」

「呆れたな。ここまで緊張感がないとは」

「「「!?」」」

 

 上空から急降下して来たヒノヤビに掴まれてエトが墜落する。さらに、追いかけようとしたナルカミと追撃しようとしたサイバネを透明な結界が阻んだ。

 

「申し訳ありませんが、お二人の相手は私が務めさせて頂きます」

 

 気づけば周囲を透明な箱のような結界に囲まれ、その中心にフジが立っていた。

 

「はぁ、油断大敵ってことかな」

「どうやら知らず知らずの内に驕り高ぶっていたようだ」

 

 二人は気を引き締めて本気を出すことを決めた。その姿勢が二人の獣装と召喚獣にも表れる。

 

「ヒノヤビさんと違って戦闘は苦手なので可能であれば加減して貰いたいのですが」

「それは無理がないですか?」

「ご謙遜を」

「えぇ……」

 

 フジは苦笑いを浮かべながら二人の攻撃を受け止めた。

 

 

 

 

 氷を纏って溶岩の波を突破したエトは地上にてヒノヤビと対峙していた。

 

「随分と舐めた真似をするようになったものだ。以前のお前ならもっと必死に足掻いていただろうに」

「成長したとは言ってくれないんですか? 一応、かなり強くなったんですけど」

 

 足元と周辺の溶岩をただの地面に戻しながらエトは言う。それを見て多少感心しながらもヒノヤビの目は冷たい。

 

「なるほど。最後に手合わせした時と比べて出力は桁違いに上がっている。だが、腑抜けたな」

 

 一瞬で再び溶岩と化したエトの足元から火柱が上がった。

 溶岩混じりのためか、纏わりつくように拘束してくる炎の檻。そこから咳き込みながらも脱出したエトに軍刀を構えたヒノヤビが切りかかる。それをエトは氷風の槍で受け止めるが鍔迫り合うこともなく弾き飛ばされた。

 召喚士の体格は当てにならないとはいえ、その小さな体のどこにこんな怪力が秘められているのかとエトは疑問に思った。

 続けて弾かれた先で噴出する溶岩を星空の盾を足場とすることで乗り切るも、背から炎を噴射したヒノヤビが凄まじい勢いで突進してくる。その剣戟を今度は受け止めず、盾に乗ったまま宙を滑るように後退しながら受け流し続けた。

 

「相変わらず器用なことだ」

 

 ヒノヤビの苛烈な攻撃に対処するのに精一杯のエトには返事をする余裕が無い。初等部の頃は相当手加減されていたのだと痛感していた。

 軍刀に宿る召喚獣を還そうとも軍刀そのものが消えるわけではない。おまけに何か特殊な素材で出来ているのか超高温でも溶けず、怪力で振り回しても欠けることはない。おまけに土の力で脆くすることも出来なかった。それに加えて周囲から火鼠の召喚獣が津波のように次々と宿るせいで、還すのも打消すのも間に合わない。

 エトは押し切られる前に盾が宿す引力と斥力を用いて距離を取り、退路を断つ炎の渦を槍から発生させた吹雪で弱め、体表を岩と氷で覆いつつ薄くなった箇所から強引に突破した。

 

「少しはらしくなってきたが、随分と後ろ向きになったな。本当にそれで全力か?」

 

 ヒノヤビはエトが実力を隠していることに以前から気付いていた。

 必死に戦っているのは本当だろう。だが、それは制限されている中で全力を尽くすように窮屈そうなもの。出会った当初からそんな戦い方をしていたが、それがより顕著になったのは己に告白してからのことだった。

 なにか事情があるのだろう。その発端は己の可能性が高い。それでも結局は何も聞けず仕舞いの内にエトは初等部を卒業してしまった。

 だが、連続失踪事件に関わったとみられる組織の拠点で発見された僅かな資料と学園長が知る獣化にまつわる話を伝えられた今、他人に任せるのではなく己の目でそれを確かめるために今回の話を受けたのだ。

 

「事ここに至ってまだ手を抜くというなら相応の覚悟はあるんだろうな?」

 

 そんなこと言われてもとエトは思う。ヒノヤビだけには十二支たちは勿論のこと、融合召喚深度2の女体化姿も絶対に見られたくない。時間経過で深度2まで達しそうな場合、溶岩の上で土下座してでも降参する所存であった。

 そんな考えが透けて見えたのか、ヒノヤビが持つ軍刀に宿る火鼠が数を増し、灼熱の炎でその刀身が見えなくなる。

 

「お前の覚悟を見せてみろ」

 

 その一閃はエトが持つ槍と盾を両断し、その体に深い傷を刻みつける。

 

 

 そして、大きく開かれた傷口の奥深くで何かが蠢いた。

 

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