十二支史 召喚獣が獣耳少女で困る   作:佐藤 白

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辰が通ります

 その後、実の父の前でディープキスをかましたナナヨはムラクモの手でエトから引き離され、彼の妻の元へと引き渡された。しかし、上の空で余韻に浸る彼女には厳しいお叱りもどこ吹く風である。

 一方で感謝と共に今日は家に泊まっていかないかと提案されたエトであったが、嫌な予感がしたので丁重に辞退した。それならばせめてものお礼にと、町でお高い食事を奢ってもらったエトは上機嫌で帰路につく。

 

『ご主人ご主人』

『どうした?』

『十三支って語呂悪いよね?』

『んー、たしかにちょっと言い辛いな』

『だよね!』

 

 ヒヨは嬉しそうに尻尾を振りながらうんうんと頷いた。

 

『じゃあ入れ替えにしちゃう? ユウちゃんはクビで』

『ふふっ、流石にその発言は限度を超えていますね』

『じ、冗談だって』

 

 かつてなく暗い笑みを浮かべるユウを前に十二支最強であるはずのボンは一瞬でへたれた。

 

『おいおい、入れ替えもクビもするわけないだろ。まだ半年程度の付き合いだけど、お前らのことは好きなんだ。勝手に消えられたら困る』

『『『『『『『『『『『『はぅ!?』』』』』』』』』』』』

 

 突然のエトの告白に十二支たちは射抜かれたように豊満な胸を手で押さえた。

 

『床の上でもないのにマスター君がデレるだなんて』

『その言い方は酷くないか? 部屋は実質床の間だし、外じゃ物思いにふけってばかりもいられないんだから』

 

 それではまるで男娼みたいではないかとエトはチウに反論する。ある種間違ってはいないのではないかとチウは思った。もっとも、彼女はどちらかといえば姉と自認しているが。

 

『えへへ、主様。帰ったらお口直しに沢山口付けを交わしましょう!』

『今日は出禁だから駄目だ』

『そんな~』

 

 すげなく断られたネネは落胆の声を上げた。

 

「お兄様~!」

 

 その時、後ろからナナヨの声が聞こえて来た。

 

「(お兄様? 幻聴か?)」

 

 しかし、周囲の人々がざわつき始めたので現実のものと思い知らされる。

 

「ハァハァ、お別れの挨拶も無しだなんてあんまりではありませんか」

「それは済まなかった」

 

 息を乱して駆け寄るナナヨにエトは頭を下げた。

 

「まあ! 頭を上げて下さいな。私はお礼を言いたくて抜け出してきたのですから」

「抜け出してきたのかよ」

「今の私はどんな障害も意に介しませんもの」

 

 今のナナヨには鹿のような角も生えていない。獣化をせずとも楽に動けるようになったのだ。

 

「それはそれでどうよ。しかし、お礼だなんてなー。余計にキスしてくれたもんだから、飯と合わせて貰い過ぎなくらいだってのに」

『真に、真に余計な接吻でありました』

 

 ミミが嫉妬の籠った目で睨みながら言う。エトはどうどうと彼女を宥めた。

 

「お食事……お父様ばかりずるいです!」

「あー、なんも食ってないなら、なんか食いに行くか?」

「よろしいのですか?」

「まだまだ食えるからな。とはいえ、この辺りのことはなんも知らねえから、どこか案内してくれると助かる」

「お任せください、お兄様!」

「聞き間違いじゃなかったのかお兄様」

 

 千里眼を使ったわけでもないのにエトは遠い目になった。

 

「あら? お父様のお話では婚約者ではなくとも親類にあたると聞いたのですが」

「親類っていつの時代の話だよ。遠縁にしたって遠すぎるだろ。こっちは断絶してるから祖先のことも知らねえし」

 

 天涯孤独で前世の記憶もないエトにとってはそうだった。実際は断絶どころか、前世以前からの因縁まで絡み合って雁字搦めであったが。

 

「そんな!? 前世で将来を誓い合った兄と妹であることも覚えていらっしゃらないと?」

「またそんな知らない上に訳の分からない話を。勘弁してくれ。もう腹いっぱいなんだ」

 

 新情報を食わされたエトは先ほどと真逆のことを口にする。

 

「どうせなら祖先じゃなくてナナヨのことを教えてくれ。そしたら俺のことも教えるからさ。前世でなく、今生のな」

「今生の……はい! 何でもお聞きになって下さいませ! わたくしもお聞きしたいことが沢山ありますので!」

「さ、さすがに何でもは答えねえぞ」

 

 結局、二人は食事も兼ねての観光デートに興じることとなる。

 

「龍門町は所謂門前町。風龍大社と呼ばれる社を中心として栄えたのです」

「へぇ、風龍大社か」

『案外、フウが祀られてるかもな』

『うむ、あり得なくはないぞ、あるじよ』

『えっ、マジで?』

『もうほとんど覚えとらんが、前々世では真っ当な龍じゃったからのう。妾の知ったことではないが、勝手に崇める者がいてもおかしくはないであろう?』

 

 そう言ってフウは得意気な笑みを浮かべる。エトは驚きながらも、そんなものかと納得した。

 

「せっかくですからお参りして行きませんか? 社へと続く通りには色んなお店が並んでおりまして、食べ歩きやお土産選びにもぴったりです。それに私達の未来を願ってお祈りを捧げるなんて。あぁ、素敵でございます」

『本当に妾が祀られておったなら、そのような祈りなど吹き消してくれるわ』

「そ、そうか。まぁ、興味はあるし、行ってみるか。食べ歩きってのもしたことないし」

「あら意外。早速、お兄様のことを一つ知ってしまいました。かく言う私も食べ歩くのは小さい時以来ですので楽しみです」

「そりゃまた意外だな。俺がいた田舎と違って店には困らないだろうに」

 

 尚、エトが言う田舎は黄泉国や町の外を指すので、世間一般では田舎どころか秘境である。

 

「その、獣化した状態でなければ体調が優れなかったので」

「あー、そうだったな。悪い」

「いえ、獣化さえしていれば調子が良いくらいでしたから。ただ、角が生えた状態で往来を歩くのはちょっと」

「その気持ちはめっちゃ分かる」

 

 エトはナナヨに対し、初めて親近感を覚えた。

 

 

 それから風龍大社の表参道である開雲通りにやってきたエトはその賑わいに目を丸くする。葦原建国初日の凄まじい行列を見ていなければ、腰が引けていたかもしれない。

 

「雲を晴らす龍の通り道ということで開雲通りと名付けられたそうです。後、開運とかけているのだとか」

「この龍紋焼きといい昔の人は掛詞が好きだよな」

 

 二人は龍門町名物龍紋焼きを食べながら通りを歩く。その和菓子の味と見た目は龍の焼き目が付いたどら焼きであった。

 

「それにしても活気が凄いな。建国祭も終わったってのに」

「ひょっとして、お兄様はずっと山奥に籠っていらしたので?」

「籠っちゃいないが、町中より町の外にいた時間の方が長いのは確かだな。生まれは黄泉国で、一月も遡れば自分で狩った魔獣が主食だったし」

「それはそれは面妖な。さすがは一族の祖にございますね」

「そこまでか?」

 

 ナナヨは強く頷いた。都に程近いこの町で生まれ育った彼女はそこまで浮世離れした人間を見たことがない。まるでこの町で古くから伝え聞く仙人のようだと思った。

 

「建国祭は祖先の霊を祀る行事でもありますから。建国記念日から七日の間はお供え物をして祖霊を迎え入れ、それからまた七日の間にお参りをして祖霊を送ってもらうのが一般的な習わしです。ですので、後七日はお参りをする方々で賑わうでしょう」

「成程な。あれ? さっき二人の未来を願うとか言ってなかったか?」

「はい。ご先祖様にご報告をと思いまして」

 

 かつてナナヨの先祖が追い求めた悲願。その成就を誓う決意表明である。隣を歩くエトは不意に体を震わせた。

 

「どうかされました?」

「いや、分からん」

 

 祖霊を祀るというのもエトにはいまいち理解しがたい概念であった。

 

『主の先祖は主自身ですからね』

『まるで覚えてないけどな』

 

 そうして主に菓子やスイーツで小腹を満たした二人は通りを抜けて鳥居のような三門の前までやってきた。

 中央に一際大きな門があり、その左右に小さな門が連なっている。立派な屋根を支える太く丸い柱には龍の装飾が巻き付いていた。

 

「おー、でけー」

「町で一番有名な観光名所はおそらくこの龍門でしょう」

 

 ナナヨが言うように門の周囲では写真を撮ったり、絵を描いたりしている人々の姿が見える。

 

「ここから先が風龍大社にございます。ちなみに真ん中の門が龍の通り道、左右の門が人の通り道とされていますので、そちらから行きましょう」

「へぇ、それで三つあるのか」

 

 付け加えると左右で入口と出口まで決まっている。その厳格さに奔放なフウが祀られていることはなさそうだとエトは思った。

 

『あるじよ。妾と融合して中央の門を通るのだ』

『なんでだよ』

『お忍びというのも惹かれるが、今の状態で結界を無視するのはちと旗色が悪い。深度2までいけば問題無いが……』

『仕方ねえなぁ』

 

 女体化を引き合いに出されればエトとしては受け入れる他ない。

 

「悪い。龍が混じってるせいで結界に引っかかるみたいだから真ん中から通るわ」

「えっ?」

 

『融合召喚 風天辰』

 

 角と尻尾を生やしたエトが中央の門を通り抜けると同時に強い突風が門を吹き抜ける。それはまるで龍が通ったかの如く門を揺らし、その到来を告げるように門に備え付けられた鐘が鳴った。

 

「わぁ」とナナヨは感嘆の声を上げた。今ではもう嵐の日にしか鳴ることのない鐘は元々龍の往来を告げるための物であったという。

 いつ以来になるのか。その本来の役目を発揮したと思われる鐘の音はナナヨも聞いたことがないほど力強く、町の外まで響き渡った。

 

「……こんな派手に鳴るのかよ」

 

 誰もが驚きを露わにする中、一人恥ずかしそうに困惑するエトの姿にナナヨは思わず笑ってしまった。

 

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