十二支史 召喚獣が獣耳少女で困る   作:佐藤 白

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昼飯と午後茶の芳香

 ナルカミの話を聞いた一行は港町まで来ていた。

 なんでも昼に向かう店の主人が食材を仕入れに市場へ向かった所、その道中で魔獣に襲われてしまったらしい。幸いにも護衛を雇っていたため、港町まではたどり着けたものの護衛の人は負傷して車は大破。新たな護衛と運搬方法を工面しようとしたが見つからず、予約していたナルカミに断りの連絡を寄越したのだという。

 そこでナルカミは護衛と運搬を自分たちで請け負うと店主に提案したそうだ。ナルカミとサイバネの顔見知りでその実力と家格も知っていた店主はそれを承諾。朝食を終えた三人は港町で店主と合流し、食材を屋形車に積み込んで出発という流れ。

 現在は港町から店のある町へとつながる街道の上空を移動中である。

 

「漁業の方は無事に終わって良かったよな。まぁ、海には魔獣もそんな出ないらしいけど」

「なんでかは知らないけど基本的に魔獣は陸上の動物だからね。それでもたまに海で見つかるようなのは強力な個体が多いけど」

「同じく虫に類する魔獣も稀だ。ただ、こちらは個より群体としての脅威であり、時に壊滅的な被害をもたらすこともある」

「へぇ、言われてみればその二つは話でしか聞いたことないな」

 

 三人が魔獣談義に花を咲かせていると、運転手との相談を終えた店主がやってくる。

 

「この度はお手数をおかけして真に申し訳ございません」

「お気になさらず。美味しいご飯のためですから。それに今の僕たちの関係は雇い主と労働者。過度に畏まった言い回しは不要です」

「なるほど。でしたら本日のまかないは腕によりをかけねばなりませんな」

「ふふっ、それはいいですね。楽しみにしています」

 

 先日、修羅の如き面を見せたとは思えぬ朗らかな対応をするナルカミの姿があった。

 

「おーなんか大人な感じだ」

『大人な対応ならお姉さんが教えてあげるわよ』

『お前らの大人っぽさは人前に出せないからいいや』

『もぅ、そんな言い方酷いわマスター君。私達はいつだってあなたのために』

『えーと、ごめん』

 

 鋼天丑チウの拗ねたようで何処かしおらしい態度にエトは思わず謝った。すると、チウは舌を出して笑顔に戻る。

 

『うふふっ、冗談よ』

『……そうかよ』

「巧みなものだ。私の場合はどうも相手が委縮してしまう」

「真顔なのがいけないんじゃねえの? もっと笑顔を見せるとかさ?」

「笑顔か、……フッ」

 

 サイバネは冷笑、あるいは嘲笑と捉えられかねない笑みを見せた。これにはエトも苦笑い。

 

「うーん、要練習だな」

「中々に難しいものだ」

 

 雰囲気だけしょんぼりとしたサイバネが街道に近寄って来る魔獣をミサイルで爆撃した。効果的なのは間違いないが、牧歌的な風景を台無しにする絵面である。

 

「これって大丈夫なのか? 色々と」

「問題ない。今の私たちは運転手のタジマの助手ということになっている。また、火急の事態での召喚獣の使用は許可されており、魔獣への対処はこれにあたる」

「火急って感じは全く無いけどな」

「その視点は召喚士特有のものだ。一般の民は遠目に魔獣の姿を見かけただけで道を引き返すと聞く」

「ふぅん、そんなもんか」

「それにしても魔獣が多い。何か原因があるかもしれん」

「なんかここ一か月の間に増えたらしいよ」

「ええ。今の国主様が即位なされてから最近まではこの街道で魔獣の被害を受けることなど滅多にありませんでした」

「そうなのか? 初等部の頃は狩りでよくこの辺りに来てたけど、魔獣を見つけるのに苦労したことなんかなかったぜ?」

 

 何の気なしに発せられたエトの言葉で場に沈黙が降りる。

 

「あれ? どうした? なんか不味いこと言ったか?」

「ちなみになんで狩りなんかしてたんだい?」

「修行だよ、修行。召喚獣無しで戦えるようになるためにも実戦が一番だからな。街道から少し離れれば人も滅多にいないし、飯の調達にもなって一石二鳥だろ?」

「なるほど、把握した。力ある召喚士が周囲に与える影響とはかくも大きいものなのだな。しかし、こういった類の話は何かしら噂になるものと認識していたが」

「普通の人は街道の外に出ないからね。空も飛べないし」

「それが……我々の間では国主様の威光と話されておりました。ですが、その実態は知らず知らずのうちにエトさんに守られていたわけですから、恥じ入るばかりです」

「恥じることなんかなんもないですって。俺が勝手にやってたことですから」

「そうですよ。あまり褒められたことじゃありませんから。僕も似たようなことをしてこっぴどく叱られたことがありますし」

「私もそのような経験がある」

「考えることは同じか。でも、お前らと同じってのはなんか複雑だ」

 

 自分は戦闘狂でも天然でもないのにとエトは思っていた。しかし、日々魔獣狩りに精を出すなど、世間一般では修羅の所業である。

 

「これはこれは頼もしい限りです。国の未来は明るいですな」

 

 店主は朗らかに笑っているが、エトはこんなので大丈夫なのかと疑問に思う。

 外からは未だに爆撃音が響いていた。

 

 

 

 

 その後、三人は無事に店へと到着して食材を運び込んだ。

 

「それじゃ、仕込みやら開店準備やらあるだろうし、僕たちは予約の時間までその辺をブラブラしてようか」

「いいぜ」「承知」

 

 ナルカミの提案に二人は賛成したが、店主が待ったをかけた。

 

「お待ちを! ぜひとも座って待っていて下さい。出来次第すぐにお持ちしますので」

「いやいや、予約の時間までまだまだありますし、遅れからして後ろ倒しになってもおかしくないでしょうに」

「予約? はて? 本日の予約はキャンセルとご連絡差し上げたはず。今から私どもが提供するのはただの賄いです。なにせ、今の私とあなた方の関係は雇い主と労働者ですから。飯屋の店主として賄いも出さないのでは沽券に関わります」

「あはは、なるほど。これは一本とられましたね。そういうことでしたらこちらで待たせてもらいます」

「ならばタジマも呼ぶとしよう。今回の仕事で最も働いたのは彼だ。その賄いを食す権利がある。ただ懸念があるとすれば、私に委縮しているのかいつも断られてしまうことだ」

「サイバネ関係無しに普通は断るでしょ。仮に誘うなら同席じゃなければ受け入れてくれるんじゃない?」

「別室に食事を用意しといてそこに案内するとかはどうだ? なんかドッキリみたいであれだけど」

「名案ですね。そのように手配しましょう」

 

 エトの案が気に入ったのか店主はノリノリで従業員に指示を出し始める。

 それからしばらくして、三人は港で仕入れた魚介をふんだんに使った昼食を頂いた。

 海は魔獣や召喚士の影響が少ないためか、王道的な刺身に天ぷら。そして、辛味大根とつゆで味わう手打ちそばを三人は心ゆくまで堪能したのだった。

 

 

 

「もう少し時間を置いた方が良かったのではないか?」

「うん、そうだね。大して動いたわけでもなかったし」

 

 サイバネとナルカミが膨れた腹を抑える一方で、エトはまだまだ余裕がありそうだった。

 

「で、次はどうするんだ?」

「場所は港を挟んで反対側だから結構距離があるね」

 

 ナルカミは地図を広げながら言った。

 

「しかし、夕食までには余裕をもって着くだろう」

「昼が早めになったわけだし、そりゃそうだ。ん? この辺りって」

 

 地図を見たエトは目的地の店がある田舎町に覚えがあった。正確にはその町の外にある山岳森林地帯を一度だけ訪れたことがある。

 

「ああ、そういえばその辺りでこの前事件があったね」

「二ヶ月ほど前に発生した謎の破壊痕のことか?」

「隕石が落ちてきたなんて説もあるね。時間も余ってるし上から見てみるかい?」

「い、いやー、別に見てもそんな面白いことはないんじゃねえかな」

 

 エトは冷や汗をかき、その目はバタフライしていた。

 

「何その反応? えっ、まさかこれも君が関係してたりする?」

「な、なんのことだ? 事件だなんて今始めて知ったし」

「そうか。何か情報があれば知りたかったのだが」

「いや、明らかに嘘吐いてるでしょ」

「うっ、いや、なんつーか中々強いキメラみたいな魔獣が出てきて死にかけたというか、ちょっと本気出したというか、新技を試したというか、自爆したというか」

 

 事件当時、十二支たちが覚醒してからより人目を気にするようになったエトはより人気のない場所を求めていた。そして、人の生活圏から外れた場所を探索する内に強力な魔獣と遭遇。これも修行の内と十二支たちを召喚せずに戦うも、致命傷を受けたことで十二支たちは強制召喚を発動。魔獣と共に周囲の土地も破壊した。

 つまり、この事件はエトが犯人といえる。

 

「それほどの魔獣が生息しているとは。仮に繁殖していたとすればかなり危険だな」

「次に行く店って知り合いの魔獣ジビエのお店なんだけど、店主は腕の良い召喚士でもあってね。自分で狩猟した魔獣を店に出してるんだ。でも、今の話を聞いてちょっと心配になってきたかも」

「じゃあ、寄り道しないで早めに行っとくか? なんもなきゃその町を観光する感じで」

「私はそれで構わない」

「うん、そうだね。そうしよう」

 

 こうして一行は直接次の店に向かうことにした。

 そして案の定、店では問題が発生していた。

 

「いつもなら既に仕込みを始めている時間なんですけど、今日はまだ戻ってきてないんです。

 ただ、あの事件があってから町の近くには魔獣がいなくなってしまったらしくて。それ自体は良いことなんでしょうけど、それ以来主人はより深い所まで行って狩りをするようになってしまって。それで帰りが遅くなっているのかもしれません。

 もしも仕込みが間に合わないようでしたら連絡致しますので、どうぞ町を散策なさっていて下さい」

 

 エトは顔を青くした。まさか自分の行いがこのような事態を招くとは思ってもみなかったのだ。

 そんなエトの肩をサイバネとナルカミが叩いた。

 

「まだ何かあったと決まったわけではない」

「すみません、ヤツフサさんが店を出る前にどの辺りを目指すか言っていませんでしたか?」

 

 ナルカミの問いに店主の妻フセは店内に張られている地図を用いて簡単に説明した。

 

「そんなに心配なさらずとも主人はあれで凄腕のハンターと呼ばれてますから、そのうち戻ってくるでしょう」

「僕もヤツフサさんに狩りを教わったことがありますし、彼の実力は疑う余地もありません。ただ、事件の跡地を見に行くついでに合流できたらまた一緒に狩りをできないかと思いまして」

「あら、そしたら余計に遅くなっちゃうわね。ふふっ、今日は貸し切りだからゆっくりでも大丈夫よ。気を付けて行ってらっしゃい」

 

 夫を心から信じているのだろう。フセは笑顔で三人を送り出した。そのおかげで事態を深刻な方へとばかり考えていたエトも気を持ち直すことが出来た。

 

「ヤツフサさんが向かったのは例の跡地の先にある山みたいだ」

「何事もなければいいが」

「そうだな。すぐ出発しようぜ」

 

 

 

 

 そして、一行が目指す山の裏側にて。目立たないよう入口を隠された拠点の中の一室で人型の狼のような魔獣が妖しい光を放つ鎖で拘束されて檻に入れられていた。その前にくたびれた白衣の男が立っている。

 

「魔獣化は完了し、休眠状態に移行。急ごしらえだったが、成功するとは。やはり召喚士の質が占める割合は大きいな。これでキメラの大作を逃がした上に後を追って消えた前任者(バカ)の尻拭い程度にはなったか」

「報告します! 全ての作業が完了したことを確認しました!」

「では、手筈通りにこの拠点を放棄する。こいつの捜索隊が編成される前に撤収しろ」

「はっ! レジスタンスに栄光あれ!」

 

 部下らしき人物が部屋を出ると白衣の男は怠そうに溜息を吐いた。

 

「レジスタンスとはなんとも、旧体制の膿が随分と恰好つけたものだ。歴史に配慮して敗残過激派テロリストとでも名乗るべきだろうに。まぁ、隠れ蓑には丁度いい」

 

 そう言って白衣の男は檻を開け、鎖に手をかける。

 

「さて、刻んだ命令をどこまで果たせるか、お前にとって最初で最後の性能テストだ。私の休暇のためにもしっかり暴れてくれよ」

 

 鎖が光の粒子となって消え失せ、人狼の目が開く。赤黒い輝きを放つその瞳に正気は見えず、目覚めの咆哮が建物を揺らした。

 

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