転生村   作:もつ煮トリガー

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第9話:レベルアップ

 シュウは、リムの仲間になった。

 

「じゃあ訓練(レベリング)、始めるぞ。」

 

 リムは何も説明せずにゆったりと歩いて距離をとる。10mほど離れると、シュウの方へ振り向いた。

 

「かかってこい。」

 

 リムの重心が僅かに落ちたのを見たシュウは、言葉が届くよりも早くその意味を理解しリムに仕掛けていた。手に持った短剣は鋭く首筋を狙う。しかししかし、リムはほんの一瞬だけの、限界まで小さくした防御魔法によってそれを完璧に弾いた。反撃の隙を与えまいと追撃するも、また弾かれる。そして、リムは緩慢な動きで無いはずの隙を突いた。シュウが高速で攻撃を繰り出すのに対し、緩やかな動きだけで対応し隙さえ突いてみせるリム。10秒にも満たない応酬の中、シュウの隙は長く重くなり続けていき、終いには回し蹴りを食らって吹き飛ばされた。その直後、カンナが巨大な火焔の剣でリムへ斬りかかった。拡散する爆炎は吹き飛ばされたシュウには届かなかったが、熱気だけでも火傷しそうだった。もし、リムが蹴り飛ばしていなければ、シュウはカンナに殺されていたかもしれない。酷い話である。

 

「ストップだ。」

 

 再びシュウがリムへと向かっていこうとしたとき、号令がかかった。二人はその場で止まる。そして、シュウの方へ歩いてきた。そして、シュウに手をかざした。

 

「"メニュー" "ステータス"」

 

 そう言うと、暫くの間指を動かしたりしながら空中を見つめていた。シュウはその指を目で追ったりしながらその虚無な時間を過ごした。20秒くらい経った頃、リムが口を開いた。

 

「やっぱりか。お前、FPSが120ある。」

 

 何を言っているのか、シュウにはさっぱりわからない。当然だ。これはリムの前世の知識とそれから派生した異界異能(アルシア)によって示される情報なのだから。

 

「ああ、FPSっていうのは、1秒を何分割して見ているかっていうことだ。この数値が高いほど、より速く細かい動きを見切ることが出来る。お前のは異常な高さだ。これを活かすなら、相手の行動にかかる時間を観察しろ。」

 

 一通り説明し終わると、元の位置に戻ろうとした。そのときシュウは頭に浮かんだ素朴な問いを、思いつくままにリムの背中に投げかけた。

 

「リムは、それいくつなんだ?」

 

 その問いに対して、リムは僅かに振り返り、少し自慢げな笑みを浮かべて言った。

 

「150。異界異能(チート) 込みなら240だ。」

 

 その後、9時間に渡って訓練は続いた。シュウとカンナはリムに挑み続けたが、左手を彼がスマホと呼ぶ物から離させることは結局できなかった。

 

 だが、進歩もあった。まずカンナが会話はしないまでも、攻撃のタイミングを少し合わせてくれるようになった。これは凄い事だ。

 

 また、シュウは自分の中で1秒を30程度に分割して考えることができるようになり、その場合カンナの構えから斬り付けるまでの動作が8フレームほど、リムの防御は1フレーム未満、自分の攻撃がだいたい10フレームほどであると分かった。リムとの絶望的が浮き彫りとなったが、その差を理解できただけ成長だろうとシュウは自分を奮い立たせた。

 

 最も重要なことは、シュウが戦うことの楽しさを知ったということだ。命を獲るためでない自由な戦いは新鮮で、それが自分にとって幸せなことであると彼は理解したのだ。それと同時に、リムが訓練中、好きならいくらでも上達できると言っていたことを思い出した。

 

 午後5時になり、家に帰るとコック帽を被った長身の男がいて、ザックと一緒に料理を作っていた。芳しいスパイスの香りが部屋の中に広がっている。カレーの匂いだ。シュウの記憶によれば彼はビリー、新入りの好きな料理を知りたがっていた奴だ。まだ彼に直接好物がカレーライスであることは伝えていないが、ザックには話したのでそこから伝わったのだろう。

 

 ザックがこっちを見て、帰ったか、これを見てくれと言って鍋を差し出してきた。中には少し焦げているがとても美味しそうなカレーが満ちていた。ザックの表情は固くほとんど変わらないが、そこはかとなく嬉しそうな雰囲気が漂っていた。

 

「久しぶりの料理だったから少し焦がしちまったが味は美味いぞ。ビリーがデザートを作ってくれてるから、これ食って待ってろ。」

 

 よく動き叩きのめされた体にカレーはよく沁みる。程よいスパイスの刺激が疲労から肉体を解き放ち、とろけた野菜と肉は豊かな栄養を満遍なく体に行き渡らせる。貴族の残飯ですらこれ以上ないほどの美味さだと思ったが、このカレーはそんなものとは比較にならない風味と食感の完璧なバランスを持っていて、焦げ付きさえも香り付けとなった。

 

「ザックさん。とても美味しいです。」

 

 あまりの美味と、人に料理を作ってもらえることの喜びに涙が零れた。ザックが幾らでも食え食えとどんどんおかわりをくれるので、あっという間に鍋は空っぽになってしまった。さすがにもうデザートは食べられないかと思ったが、運ばれてきたタルトから溢れ出す香りと食欲に満腹なんてものでは全く抑えが効かなかった。そのままデザートまで完食してしまう。

 

 さすがに食べすぎてもう動けなかったので、その日は居間のソファで寝た。




タルトには異界異能(アルシア)可食化(イータライズ)》で食べられるようになった宝石のトパーズが使用されています。清涼感のある風味と刺激的な酸味があって美味しいらしいです。
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