翌日も、シュウはリムへ挑んでいた。フレームレートという概念を学んでまだ一日であるにも関わらず、既に自らのFPSをかなり正確に分析できるようになっていた。120分の1の世界を意識的に見て、自分と相手の動きを1フレームごとに当てはめていく。その過程で肉体の動きも自然と最適化され、シュウの戦闘速度は格段に向上していった。一方のカンナは、空気抵抗を無視し加速度を増大させる速度特化型の魔剣《飛燕の剣》の力をひたすらに高め、動きの高速化を突き詰めていった。
午前の3時間ほどの訓練が終わり、ビリーが食事を振る舞いに来た。食事会の大量の食事もほぼ一人でったと言っていたし、本当に食べさせるのが好きなのだろう。リムの家での食事は、とても静かだった。リムが一番に食べ終わると、お前らで手合わせでもしたらどうだと言ってどこかへ行った。その後しばらくは、ただ静かに昼食を摂るのみだった。
それぞれの皿が空になり、おもむろに席を立って裏庭へ向かう。昨日からの訓練でなんとなく決まった基本位置に自然と向かう。向き合って、構える。暫しの静寂の後、先に動いたのはシュウだった。相手の視界から外れるように斜めに動き距離を詰める。シュウの刃がカンナの足を狙う。
これまで一撃必殺を狙い続けていたシュウはリムの教えにより、“HPを削る”という考え方を知った。シンプルなことだ。一撃で倒せない相手は何撃でも入れて倒す。殺し屋としての経験が一撃必殺を狙う癖になっていたが、こと1体1の戦闘において、一撃必殺を狙うのは失敗しやすいというだけでなく、リスクのある行為だ。だから、相手に傷を負わせ、体力と精神力を削って追い詰める。
だが、カンナがそれに気づかないわけはなかった。圧倒的な剣速で牽制し振り払う。シュウが回避のために仰け反ったところに、返しの一撃を喰らわせる。防御魔法を使えないシュウは魔力を纏わせた左手を剣にぶつけて勢いを弱めたが、それでも頬にかすった。カンナは飛び退いたシュウを追撃すべく1歩踏み込む。それを読んだシュウは、ザックに借りた
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「勝った…」
一瞬の出来事だったが、一挙一動が自分の死に繋がるカンナとの手合わせは非常に神経をすり減らした。リムの
落ち着いた頃、未だ地面に倒れているカンナが心配になり話しかけようとすると、すっと立ち上がりリムさんを呼んできますと言って去った。訓練や戦闘の中で多少は心を開いてくれているつもりでいたが、気の所為だったようだ。シュウはちょっとしょんぼりした。そこに、爆音とともに何かが飛んできた。
「シュウ!トリアを呼んでくれ…あいつ知ってるくせに…!」
砂煙の中から、かなり焦ったリムの声がした。状況を飲み込めずにいたシュウは何も出せず声の方向を見ていたが、砂煙が収まるにつれ事態の重大さを理解せざるを得なかった。あれほどの強さを持つリムが、出血していた。一箇所じゃない。頭と左腕、右脇腹に左ふくらはぎから赤い血が流れ出ている。シュウはすぐに全力で駆け出した。トリアの家は少し遠いが魔力強化をすればすぐだ。尻目にリムを見ると、何者かと戦闘しているようだった。辿り着いた小さな家の戸を叩きトリアを呼ぶ。が、返答は冷たかった。
「知ってるけどさ、面倒だよ…
あいつというのは、リムが戦っていた謎の人物のことだろう。殺す気がないと言うが、リムの出血は酷かった。相手をするにしても、リムがああなる相手にシュウができることなんて何も無い。一撃でも耐えられたら御の字だ。説得しようと声を張り上げるが、取り付く島もなかった。そうこうするうちにリムが飛ばされてきてトリアの家にぶつかりシュウの隣に倒れる。傷が増えていて、吐血までしていた。
「トリア!あの気狂いどうにかしてくれ!自分ちだけ結界で固めやがって、お前も手伝えよ!」
訓練中の飄々とした立ち振る舞いからは想像できないほど焦り声を荒げているリムから、シュウは本気で恐怖を感じた。そしてとうとう、それは姿を現した。意外にも背丈が低く顔立ちも幼かったが、その表情は何かに取り憑かれたような笑みに満ちていた。長くボサボサした紅黒い髪を揺らしながら歩く様はさながら悪魔のようであった。姿、気配、魔力、その全てが放つ強烈なプレッシャーに当てられ、シュウは膝から崩れ落ちた。
「あいつはウルティマ=“クラシス”=ティグリス。かつて最強の魔王と呼ばれた3番目の転生者であり、世界中の誰よりも戦いを愛した男だ。」
完全新キャラ登場!!昨日今日と忙しかったけど、ギリギリ間に合わせました。連載開始から3週間経ち、記念すべき第10話です。もう暫くは週3投稿で頑張ります!!