転生村   作:もつ煮トリガー

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第12話:弟子入り前の洗礼

 災害のように突如襲来し、リムを叩きのめし、トリアと激戦を繰り広げ、ホムラを打ち負かしたウルティマは、流石に魔力を消耗しすぎたため休眠状態になりトリアに転生村の更に奥地へと封印された。リムとホムラの負った傷はウルティマの使った《紅創の呪い》という魔法によって治療が困難な状況となっていた。通常の呪詛魔法であればシエラやトリアが簡単に解呪して傷を癒すことができるのだが、魔王の魔法は特別で、異界異能(アルシア)のように原理の把握が難しく、彼女たちでも対症療法を施すのが限界だった。

 

そして、師範であるリムの一時離脱によりシュウの訓練は3日目にして休業となった。

 

「なあザックさん。」

 

 シュウは居間のソファにうつ伏せに倒れて言った。リムの訓練は厳しい物だったが、彼にとってはかなり楽しいものだったのだろう。かなり落ち込んでいる様子だ。

 

「なんだ。」

 

 居間の奥にあるキッチンで、何かを強く打ち付けながら小汚いエプロンみたいな布切れを身にまとったザックが短く答えた。

 

「今日暇なんだよなぁ…」

 

 気だるげに、ちょっと間延びした感じで、シュウが呟く。ザックもどう答えればいいかわからないので、とりあえず耳を傾けておく。そんな感じで、しばしの静寂が流れていった。

 

「料理できる人に憧れてるんだけど、教えてくれない?」

 

 寝返りを打ちながらシュウが静寂を破って言った。ザックは何かを強く振りながら言った。

 

「そうか。ビリーに教えて貰えばいい。俺は教えるのがあまり得意じゃない。」

 

 そうだな、と、ソファからゆったり降りる。寝巻から着替えて、玄関を出る。

 

「行ってくるよ。あっちだよな。」

 

 オーケーのハンドサインが奥の方に見えた。

 

「曇りか。気分も曇るな。」

 

 シュウは灰色の空を見上げ、ほんの少しの憂鬱を味わいながらビリーの家へと向かった。

 

 ビリーの家はレンガ造りで、『Billy's Kitchen』という看板が掲げられていた。もくもくと煙を吐き出す煙突を備えたこの家は、高級レストランのような雰囲気を醸し出していた。精巧な意匠の施された呼び鈴を鳴らすと、入っていいぜという声が聞こえた。シュウは扉を開けて中に入り、気配を辿ってビリーの所へ向かった。

 

「ビリーさん!?鍋から炎が!!消火しますか!?」

 

 ビリーが手にもつフライパンからは身長を超えるほどの高い炎が上がっていた。シュウは料理に対して無知であったため困惑していたが、すぐに火は収まり、ビリーがフライパンの上のステーキを皿に乗せて差し出してくれた。丁寧な付け合せも手早く用意してくれている。どうぞ召し上がれと言うので少し遠慮しながらもシュウはナイフとフォークを使ってそのステーキを口に運んだ。

 

「お、美味しい…」

 

 その言葉は遠慮も緊張も解いてシュウの口から零れ出た。見た目はごく普通のただ焼かれただけの肉だったそのステーキは、これまでに感じたことのない絶妙な食感と素朴だが香り高い風味を持っていて、落ち込んだシュウを元気づけるのに充分な幸福をもたらした。ステーキが半分くらいなくなったところで、シュウが手を止めた。何かを思い出そうとしている様子のシュウを見て、ビリーは口ひげをつまみながら言った。

 

「料理を教わりに来たんだろう?」

 

 まだ口に肉の入っているシュウは黙って首を縦に振った。

 

「おっと失礼した。まだ噛んでるのに話しかけてしまったな。まあ、食事会で美味しそうに、不思議そうに俺の飯を食べていた時から何となく予想はついてたさ。さっきの炎はフランベって技術だ。結構前に君のいた王国にも伝えたはずだが、見たことはあるか?」

 

 シュウは首を横に振った。ビリーはそれを聞いてもう途絶えてしまったのかと肩を落としたが、実際はシュウが知らないだけで、ビリーが伝えた数々の画期的な料理法はそれぞれの店でしっかりと受け継がれている。口に入っていた分をよく噛んで飲み込んだシュウは口を開く。

 

「この肉はすごく美味いです。残りも食べていいですか?」 

 

 ビリーは当然だと頷き、その間に俺のこれまでの事でも話そうかと言った。シュウとしても、同じ村に住む者としてある程度他の住人のことを知っておきたいと思っていたのでそうしてもらうことにした。ビリーは得意げにゴホンと咳払いをして、意気揚々と語り始めた。

 

「昔昔、ここではない別の世界で、世界中の美食や奇食を制覇するという夢を掲げた男がいた。彼はとにかく料理が好きで、恵まれた家柄や才能は全てそこに費やした。しかし、極東に存在すると言われる未開の国に向かう旅路の中、嵐に遭いその夢は完遂されることなく幕を閉じた…そう思われたが神は私を…いや、男を見放しはしなかったのだ!」

 

 ビリーは興奮して立ち上がる。最初から自分の話をすると言っているのに、何故か三人称での呼び名に拘るのも不思議だが、それでもシュウはもぐもぐ食べているし、ビリーはペラペラと語っている。

 

「未知の世界で男は二度目の生を受け、この世界に降り立った。今でも鮮明に覚えている。あの時代の飯はとても不味かった。男が産まれる5年前に終わった人間同士の醜い争いにより世界の多くの人々が貧困に陥り、美味い食べ物のレシピも失われてしまったのだ。そこで私は立ち上がり、世界中の人々を助けながら失われたレシピたちを復元し、また前世の効率の良い調理法を世界に伝えたのだ…最近は未知の料理を只管に研究している。そんな感じだ。丁度食べ終わったようだな。君はかなりテーブルマナーを気にしているようだったが、別に俺の飯を食べる時はそんなに厳格にしなくていいさ。ともかく、気に入ってくれたようでよかった。」

 

 ビリーは嬉しそうにしているが、美味しいご飯に気を取られていたシュウはやっぱり内容がほとんど頭に入っておらず、よく喋る人だなという感想しか無かった。




 料理詳しくないのになんでこんなことを始めてしまったんだろうか…次回まではお料理回続くので、ちょっとしっかり調べて見ます!
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