転生村   作:もつ煮トリガー

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第15話:蛇の導き

 夜、魔物が村に入らないように罠を張り駆除をするという仕事を手伝うことにしたシュウは、絶賛迷子中だった。ノットはこの辺りの山々を熟知していて魔物たちを従えているため少しも迷いなく、シュウを置いて進んでいく。まるでシュウを撒こうしているかの如く細かく方向転換をしながら爆速で進んでいって、終いには逸れてしまった。耳を澄ませると木が軋む音や枯葉を踏む音が聞こえるが、ノットのものではなさそうだ。どうしたものかと思案に暮れているところに、黒い影が頭上から迫っていた。影は音もなく近づき、その長い体をシュウに巻き付けた。咄嗟に短剣を構えるが、巻き付いたそれの首輪に気が付いた。

 

「お前、ノットのペットか。」

 

 それは小さな蛇だった。黒く艶やかな体と蒼白の瞳を持つその蛇は、道を指し示すように鎌首をもたげた。蛇には人に見えないものが見えるという噂を思い出したシュウは、導かれていると感じそれに従った。歩く中、急に体を強く締められた。最初は攻撃されたのかと思い焦ったが、噛みついてきたりしないことから別の理由があると推測し魔力探知を行う。そして、それが魔物がいることの合図であると理解した。魔力探知は少量だが魔力を消耗し集中力も割かれるので常時発動は負担が大きい。別の索敵手段があるのはシュウにとってかなり心強いことだった。

 

「とりあえず動きを止めて、首輪を確認し、無ければ拘束だったな。」

 

 ノットに言われたことを小さく復唱し確認する。魔力探知で相手の様子を探る。警戒するような動きを見るにシュウの存在には勘づいているようだ。殺傷できない以上術札や短剣は必要ないと判断したシュウは荷物を置いて木の枝に跳び乗った。月明かりの入らない深い森ではその魔物をはっきり視認することはできなかった。音と魔力探知だよりで相手の様子を確認すると、どうやらシュウを見失っているようだった。魔物がうろついて真下に来たその瞬間、乗っていた太い枝が折れるほど強く蹴って魔物を押さえつける。強い衝撃に驚き魔物が動きを止めた一瞬のうちに首輪をつけていないことを確認したが、そこで自らの大失敗に気が付く。拘束用の道具を荷物と一緒に置いて来てしまったのだ。

 

「まずいな…」

 

 不意を突いて抑え込んだが、相手はかなり大きい熊型の魔物だ。《影断ち》を使えば魔力で活動する魔物は死んでしまうし、一度離れてしまえばまた捕まえられる保証はない。子の魔物を逃がさずに捕縛する方法をあれこれ考えているうちに、魔物が立ち上がり、暴れ始めてしまった。だがその直後、魔物は少し痙攣してから地に伏した。落ち着いて見てみると、さっきまで自分の体に巻き付いていた黒蛇が魔熊の太い首に噛み付いていた。

 

「あ。」

 

 シュウはとても焦った。これが死ねば魔物なんかよりもよっぽど怖いあの魔物おじさんを怒らせてしまうのだから当然だ。焦りすぎて逆に落ち着いてしまったシュウは、一応魔力探知で魔物の生存確認をしてみた。すると驚いたことに魔物の体内には通常時と同様に魔力が満ちている。魔物が瀕死の状態にあるとき、その体からは魔力が漏れ出していくというのは常識だ。ということはつまり、あの蛇は魔物を生きたまま無力化する何らかの手段を持っているということだ。きっとノットが自分を気遣ってよこしたのだろう。魔物を縄で縛りながらそう考え、少しノットを見直した。

 

「あれで意外と気が回るんだなあ。お前も凄いよ。」

 

 その後、黒蛇に誘われるままに山中を徘徊し、魔物を見つけてシュウが抑え、蛇が動きを止めて捕縛する、スムーズな連携で次々と魔物を捕縛していった。魔物を捕まえながら進んでいくと、暗い森の中に光を見つけた。駆け寄ると、その正体はノットの松明だった。松明に照らされたノットの目はまっすぐこちらを見ていて、怒りを孕んでいるように見える。それに気づいたシュウは焦って弁明を始めた。

 

「すみません、ノットさん。あの、はぐれましたが、魔物は傷つけてないです、この、こいつが手伝ってくれたので…」

 

 黒蛇を指しながら早口で話したが、結局ノットはブチギレた。大声を出していないのは魔物を逃がさないためだろう。しかし、怒りながら話した内容は意外なものだった。

 

「こいつ、じゃねえ!その蛇にはノブって大事な名前があんだ。首輪にあるだろ!」

 

 そう言われてみれば、首輪に何かにょろにょろした線があった気がする。シュウには到底、意味のある文字には見えなかったが。しかし、ノブがシュウのことを気に入っている様子を見たノットは怒りを収めた。魔物というのは基本的に魔力を欲して人を攻撃するもので、ノットの連れている魔物達は彼の異界異能(アルシア)害獣(ヴァーミン)テイマー》によって凶暴性は抑えられているが、それでも群れを成さないという魔物の性質上人間に対して友好的に接するというのは中々起こり得ない事だ。これはシュウの魔力操作が緻密で魔物に対して不快な思いをさせづらいために起こっていることなのだが、2人には知る由もないことである。

 

 その後、特にノットに責められることも無く長い間魔物を探し続け、いつの間にか空が仄かに明るくなっていた。

 

「終わりだな、ノブ。」

 

 まだ昇らない太陽の方を眺めそう言って、シュウは小屋へ向かった。蛇というのは表情がわかりづらいものではあるが、その時シュウはなんとなく少し心を許して貰えたような感覚を覚えていた。




今週1発目は余裕を持って書き終わりました!明後日も頑張ります!
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