連れ去られたリムを除く捜査チーム4名は、少々強引なウォンロードへの侵入を決定した。まず、体が小さく動きの素早いリーランが先ほどと同様に"しびれ針"で衛兵を一人ダウンさせる。タイミングを見計らってシュウがリーランを踏み台に、外壁を一息に駆け上がる。近くに見張りの衛兵などはいない。魔力探知をし、魔力の流れが阻害されたことから拒絶結界の存在を確認する。村のものと違い、大きな板状の魔力の壁を壁沿いに連なるよう展開して結界にしている。こういった場合、結界維持の魔導装置は壁の内部に埋め込まれていることが多い。それを破壊するなりして機能停止させれば全員問題なく壁を越えられる。
シュウは魔力を分離して拒絶結界を通過する。ここからは身体強化すらない状態での行動になる。ソウジロウがくれた"強靭な縄"を使って外壁を降りた。落ちれば即死とはいかないまでも重傷は免れない高さだが、暗殺者時代にも似たような経験があるため恐怖もなく無事に降りた。周りを見回すと、少し離れたところに木製の扉があった。他に壁に入れそうなところはないのでそこに拒絶結界の起点あるのは間違いないだろうと確信した。
扉に短剣を突き立てるが、やはり防御魔法がかけられていて歯が立たない。しかし、こんなこともあろうかとソウジロウが"万能ナイフ"を渡してくれた。このナイフ、魔法を使っていないのに万能とかいうレベルではなく、どう考えても質量を無視しているが斧に変形する。すごい技術であるが今はそれを考える余裕は無い。大きく振りかぶり、防御魔法の薄くなりやすい扉の端、蝶番周りを狙って振り下ろす。流石に一撃で破壊とはいかないが、かなり深く抉れた。
5分ほど"万能ナイフ"を振り下ろし続け、ようやく蝶番が一つ外れる。丁度その時、見回りの衛兵がやってきた。逃がしても襲われても問題だ。魔力もないため"しびれ針"を使おうかとも考えたが、刺す度に効き目が弱まるらしく少しもったいないと考え、下級の兵くらいならなんとか勝てるかもしれないと判断して地力での応戦を決めた。
シュウを確認した衛兵はすかさず通信用と思われる
壁に寄りかかって座りながら、容易くこの危機を逃れられたことに少々驚いていた。3週間前の殺し屋でしかなかった彼では、例え相手が雑兵であろうと魔力無しの正面戦闘で勝つことは困難を極めただろう。シュウは湧き上がる大きな感情に身を震わせる。純然たる成長への喜びなど、幾年ぶりのものであろうか。年相応の激しい感情を噛み締めながら、シュウは空を見あげていた。
重ね重ね綴り続けていることだが、彼の人生は不満に満ちたものだった。物心ついた頃に親はなく、無法の土地で育ち、気づけば見知らぬ国の見知らぬ大人に暗殺の技術を叩き込まれ、しかしその全てはシュウが望んだことではなかった。何にも満たされることない人生だった。あの時村でウーナに誘われ、生まれ変わるまでは。
「さあ、再開するか。」
落ち着いたシュウは立ち上がり、
無事、任務を遂行し終えたシュウはメモリアから借りた連絡用の術板を起動してそのことを伝える。扉の外で壁の上の方を眺めて待っていると、メモリアとリーラン、リーランに抱えられたソウジロウが見えた。“強靭な縄”を伝って降りてきた3人はシュウを褒めた。
「ふーん。自ら魔力を分離するって話には聞いてたけど、完全に外れるんだ。私にも覚えがないよ。」
「“しびれ針”、使わなかったのか。替えなら幾らでもあったんだが。」
「そこの衛兵はもしかして魔力使わないで倒したの?凄い!もう僕より強いんじゃない?」
長く生きて精神的に成熟しきっているメモリアとリーランにとって、シュウという真っ当に生きようとする若者は懐かしい記憶を蘇らせてくれるものだ。より一般的な例えを出すとすれば、お爺さんやお婆さんが小学生を見るようなことである。見た目が若く子供にも見える2人とは対照的に、ソウジロウはそれなりの歳に見えるが自分の作品が使われなかったことで不機嫌になっていた。
「ありがとう。“しびれ針”はこのあと使ってみる。じゃあ、行こう。」
人に感謝されるのはとてもいい気分だった。
そうして4人はようやく、本格的なウォンロードでの詠唱魔法装置破壊事件の犯人捜しを開始することになる。
説明は本文に入れる主義なのですが、今回は難しかったので後書きで書かせていただきます。昨日の夜書けなくて焦りました〜。