敵の増援を待つ間、シュウは今後の立ち回りについて考えていた。特に強そうな1人を“しびれ針”で気絶させれば残りが残党を呼ぶかとも考えたが、あまりにすぐ倒し強く思われると下にいる大勢が一斉に来てしまうかもしれない。強くなったとはいえ広範囲攻撃を持たないシュウにとっては対多数戦は危険が伴うものだ。では常に「あと少しの増援で勝てる」と思われる程度の強さで相手し続ければいいのでは無いかとシュウは考えた。それなら一気に人数が増えることは無いだろうし、いい感じに時間も稼げそうだ。そして彼は、魔力を隠蔽して一切音も出さずにそれらが自分を見つけるのを待っていた。何を勘違いしているのかは知らないが、彼は今陽動をしているのだ。せめて魔力くらいは解放した方がいいと思う。そうして、敵は群れて階段を上がってきた。メモリアは既に地下の奥の方へと進んでいる。
「いたぞ!撃て!」
リーダーらしき者の号令で4人の戦闘員が魔法銃を構え、一斉に引き金を引く。合図の後に放たれる魔法の回避は、例えそれが魔法銃であってもシュウにとっては造作もないことだった。回避して一旦物陰に隠れたシュウは天井を見上げる。そこに弾痕はなかった。魔法兵器が大量に置いてあるため、それを破壊したり、誘爆させたりしないように精神干渉系の魔法を発射しているのだう。ここでシュウは"万能ナイフ"を階段の踊り場にいる敵に見えるように投げ出した。それに反射的に反応した誰かが"万能ナイフ"を射撃する。次の瞬間にシュウが飛び出し、愚かにも銃口を上に向け迎撃手段を失った戦闘員に《影断ち》を見舞う。残り3人。急激な体内魔力圧の低下により気を失って崩れ落ちる戦闘員の陰に隠れるようにして他の射撃を躱し、最も戦闘能力の高いリーダーに"しびれ針"を打ち込む。魔法に拠らない"しびれ針"の効能は瞬く間に敵を沈黙させる。残り2人。続けざまに3人目を倒しながら、全滅させてしまっては増援を呼ぶ人がいなくなることに気が付いたシュウは、最後の1人の射撃を受けてみた。魔法弾に接触する寸前、軽く魔力を衝突させて魔法の構造を崩したためその魔法弾が本来持つ「気絶する」効果は発動されなかったものの、その影響は0ではない。
「おえっ。」
シュウは眩暈と吐き気、頭痛に襲われた。少し与える衝撃が弱かったかと悔やみながら階段をうまく転げ落ちた。その先にシュウは「緊急集合ボタン」を見つけた。よくわからないけど、これを押したら人が来そうだと判断してガラスを突き破りボタンを押し込んだ。メモリアはというと、ここからさらに2階層ほど低い位置にいた。メモリアの周りに他の魔力反応はなく、極端に小さい非戦闘員らしい魔力以外はこちらに向かってきている。グダグダだったが、何とか陽動は成功したようだ。
「しかし随分強力な魔法だな…」
中途半端に構造の崩れた精神干渉魔法はシュウの自律神経系を著しく狂わせていた。そして不幸なことにその効果はだんだんと強まっていた。心拍数が急上昇し、呼吸が速まる。シュウはこの魔法を喰らう前、肉体に魔法回路を刻み込む呪詛魔法の類だと予想していた。呪詛魔法に魔力を特定の波長で発信する効果もつけて、万が一逃げられても追跡しやすくするのが主流の精神干渉魔法だからだ。もし呪詛魔法であれば、シュウはその魔法回路に魔力が流れないように操作して効果を弱めるか完全に無効化することもできたのだが、その予想は残念ながら外れていたようだ。
この状態ではリーダー格はおろか普通の戦闘員にも負けるかもしれない。しかし、このタイミングでの撤退はメモリアに危険が及ぶ可能性がある。既にメモリアは引き返してきていて目標は達成したようだ。そして今、人員はほとんどこの階に集まっていて、しかも最初の陽動であまりに正確にシュウが魔力を隠蔽していたため魔力探知に頼らない捜索が行われているのだ。シュウの行動がここにきて裏目に出ていた。シュウはメモリアがどのように侵入しているのかは知らないがそれでも虱潰しに探されれば見つかってしまうだろうという焦りを抱えていた。普段は冷静なシュウだが魔法の影響で激しく感情が揺さぶられていた。そこで、シュウを更に恐怖させる出来事が起こった。リーダー格として目星をつけた3人のうち、最も強い魔力が自分の背後にある。もう終わりかと、そう思った。
「お前、シュウか?」
名前を呼ばれ、驚いたシュウは声のする方へ振り向いた。はっきりとは覚えていないが、その顔には見覚えがあるような気がした。相手が覚えてくれているのにこちらが覚えていないのは何ともばつが悪く、思い出そうと少し頭をひねったがその時間も無礼な気がし、いっそ聞いてしまおうと考えた。
「えっと、そうですけどあの、誰、でしたっけ。ちょっと思い出せなくって…」
「セキだよ。ほら、一緒にスラム街から拾われて暗殺者の教育施設で育てられた。俺、お前に救われたんだよ。あ、あと拾われる前はずっと赤い帽子かぶっててさぁ。」
シュウは驚いた。一緒にスラム街から拾われた人なんて記憶にないからだ。もう10年も前のことなので忘れているだけかもしれないが、それにしても今言われた全てに思い当たる節すらない。これだけ覚えていないのだから深い関わりがあったとは思えないが、そうするとなぜこんなにフレンドリーなのかという疑問が湧いてくる。思い出す手がかりすら無いシュウはこう言った。
「あ、ああ。思い出したよ。セキだよな。」
今週分完遂しました〜。
あと、プロローグから前話まで、ルビや誤字を見直しました。内容は大きく変わってないので読み返さなくても問題ありませんが、時間のある方は読み返してくれると嬉しいです。誤字報告も待ってます。