転生村   作:もつ煮トリガー

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第25話:未確認飛行物体

「あれなんでしょう。私かな。」

 

 3人仲良くコーヒー牛乳を飲み干したとき、ふと沈む日の方を指してフーリがそんなことを言った。シュウとリーランはその方角に目を凝らすが、その目には赤く染まる空と幻想的に色づいた雲が映るばかりだった。

 

「いや、フーリはここにいるでしょ。」

 

 緩やかに流れる空気の中で、思い出したようにリーランが応答する。それを聞いてフーリはゆっくり首を傾げながら言った。

 

「でも、私くらい速いよ。」

 

 そう言ってフーリは再び視線を西へ向けた。そして数秒の沈黙の後、飛翔した。その初動はシュウの目にも追えず、後ろ姿さえすぐに点となり赤に飲まれてしまった。シュウは状況が呑み込めず、呆気にとられ直立不動のまま固まっていたが、リーランに肩を叩かれて我に返った。その様子を見てシュウの混乱を察知したリーランは、素早く、端的に自身の予想を述べた。

 

「聞いてシュウ。多分だけど、恐ろしい何かがここに向かってると思う。飛び立つ直前のあのかっこいい顔、あれは滅多にするものじゃないし、速さ自慢のフーリが『同じくらい速い』って言うくらいの速度でそれは移動してるんだ。」

 

 シュウは話を聞きながらフーリが飛び立つ瞬間を思い出し、リーランに従うことを決めた。そして2人が村の方へと駆け出そうとした時、大地が揺れるような衝撃が大気を突き抜けた。その後も似たような衝撃が大きさを変えながら非周期的に続いている。

 

「これは、戦闘の衝撃か?」

 

「たぶんね。」

 

 そう言って2人は再び駆け出した。しばらく離れてもなおその衝撃は止むことはなかったが、転生村の結界直前でピタリと止んだ。

 

「音が止んだ、ってことは戦いが終わったってことかな。フーリが勝ったと信じたいけど、万一もある。僕はレオの方へ行くから、シュウはウーナの社に。神託で皆に伝えさせて。」

 

 途中でホムラとメモリアの邸宅が目に入り、2人にも伝えようかとも考えたが、ウーナに神託をしてもらえば伝わるのだからと考え直して前を向く。そこから中央の広場を横断し、リムの家の横を抜ければ目的地はすぐだ。シュウが社の前に立つと大きな扉が重い音を立てて開き、ウーナの異様な魔力がシュウの魔力探知を刺激した。

 

「ウーナ!いるか!?」

 

 大声で呼ぶと、少しして返しの神託があった。

 

『迷える子羊シュウよ。私に何か用ですか...いや、知ってるんだけどね?47番目の右側の戸の奥にある瓶を傾ければ、我が部屋までの道は開かれるでしょう...』

 

「いや、急いでるんだけど!?」

 

 仰々しく無駄に手間のかかる道筋を示された。しかも、扉の番号指定である。当然これまでに過ぎ去った扉の数など把握しているわけもなく、すぐに引き返す。

 

『頑張れー。』

 

 直接頭の中に語り掛けてくる"ありがたい"神託は、受ける者の意思によって無視することはできない。シュウは胸に響かない応援をしっかりと理解させられながら扉を数えた。47番目の扉に到達し、ヒントの通りに瓶を倒すと、瓶が割れた。

 

「え」

 

 シュウの背筋は凍り付いた。しかし、無事仕掛けは何故か作動したようですぐにカラカラという音が鳴り始め、それと共に棚がずれて地下へと進む道が開いた。これでいいのかと困惑しつつも暗い道へ飛び込むと、体感10m近く落下して柔らかい地面に降り立った。とても暗く、しばらくは何も見えなかったが、だんだんと目が慣れてきた。そこでウーナがいきなり明かりを灯した

 

「っ...!!!!」

 

 急に目が眩み少し咄嗟に目元を隠したシュウを尻目に、ウーナは勝手に話を進めた。

 

「来たねえ。じゃあ放送するね。」

 

 まだ目がちかちかして顔は見えないが、満面の笑みを浮かべていることは容易に察された。そのままウーナは村の結界内にいる全ての人間にこのような神託を授けた。

 

『たった今、転生村南東方向上空にてフーリが未確認の敵に敗れた。既にこちらに向かって飛来している。』

 

 衝撃の発言にシュウは固まる。てっきり自分の知っていることが伝えられると思っていたが、それを超えた内容の神託にシュウは衝撃を受けた。

 

「え、おい、ウーナ!あいつ、生きてるのか?」

 

 フーリと共に過ごした時間は半日にも満たない。しかしだからこそ、隣人としてこれから仲良くなると、関わっていくものだと思っていた。それが危険な状況かもしれないという事実にシュウは焦りを見せていた。

 

「今はまだ、ね。彼女は生命力が以上に強いから辛うじて生きているが、危険な状態だ。シュウ、君が助けに行ってあげな。」

 

 いつものように明るいウーナ振る舞いから、そこはかとなく滲み出した厳かな気配はシュウを威圧しながらも強く奮い立たせた。

 

「あ、そこの術札(アミュレット)に回復魔法入ってるから使っていいよ。」

 

 シュウは静かに頷き、再び走り出す。今度は《走力強化》の術札(アミュレット)を回収してすぐに使用する。来た時よりも格段に高い速度で結界外へ出たとき、先ほどの轟音が今度は至近距離から聞こえた。轟音とは言ったがそれは音というよりも爆風に近く、シュウは高温高圧の風に吹かれた。

 

「もう着いたのか…!!」

 

 すぐさま全身に魔力を纏って防御し、訓練によって格段に索敵範囲の広がった魔力探知を全開で発動した。敵は効果範囲外にいて正確な位置はわからなかったが、ここから少し西に逸れた転生村の魔南側にいると予測された。よく見れば人型の魔物が浮遊して結界を攻撃しているようだった。そしてそれと同時に敵のものではない魔力の高速接近も感知した。その異常に膨大な魔力には覚えがある。

 

「やっぱ凄いな。あの魔力。」

 

 シュウはあの夜の衝撃を思い起こし、ついそう呟いた。その膨大な魔力の主、レオは巨大な砂煙を立てて跳躍し、魔物へと急速接近する。そしてそれを追うように、何者かが跳躍した。レオの魔力に阻まれて魔力探知ではその正体を知ることはできなかったが、遠目に見える黒い球体がセキの存在を示していた。《黒の引力(ブラック・ホール)》による引力を浮遊魔法によって制御しているのか、その速度はレオにも引けを取らない。彼らに任せれば問題ないと、直感的に思ったシュウはそれ以上振り返ることはなく、まっすぐにフーリを探し走った。




月曜投稿してないことに気づきました。今日も遅れてまずいです。代わりに金曜に次話投稿するつもりです。頑張ります。
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