レオとセキの開戦を見届けたシュウは、《走力強化》の
「まさか…!」
カンナと自分を襲った謎の転生者の存在がシュウの頭に浮かび上がる。メモリアはその転生者が
木々に刻まれたフーリと魔物との戦闘の痕跡がはっきりと分かるようになり、遂に大きく開けた場所に出た。木々が広範囲にわたってなぎ倒されてできたその空間の中央にはフーリが倒れていて、そのすぐ傍には長剣を抜いた男がいた。《走力強化》と魔力強化によるこれ以上の加速は不可能で、《貫く矢》は走りながらではフーリを傷つける可能性があり躊躇した。苦し紛れに投げつけたナイフも、目に見えない何かに弾かれた。シュウの脳は走馬灯のようにフーリを救ける術を探すが、答えは無い。目に浮かぶ涙は、フーリの危機に対する恐怖と、どうしようもなかった自分を救ったウーナの信頼に報いれないことへの怒りだった。涙が零れるその刹那、視界の外から一筋の黒い影が現れ、男に飛びかかった。
「ノブ!!」
不意に現れ温泉へと向かうシュウについてきていたノブは、その後起こる何かを知ってか知らずか、フーリとの騒動の陰で人知れずその場を離れていた。気まぐれに魔物のいない退屈な山中を徘徊していたノブは、見知った人影を追いかけここに来ていたのだ。そして森で狩りをした時と同じように、ノブが作った隙を突くのはシュウの仕事だった。
《貫く矢》
研ぎ澄まされた狙いから放たれた不可視の矢はノブに巻き付かれて動けない敵の頭蓋を正確に捉えた。しかし先程のナイフと同様に軌道が逸れて有効打にはならない。
「魔力の動きはなし。いったいどんな
ぼそぼそと呟きながらシュウは短剣を抜き、まだ効果の切れていない《走力強化》で高速に距離を詰める。
「やあ先輩。あんたの仕事を手伝いに来たんだ。話したいこともあるがしかし、この蛇は邪魔だな。」
締め付けられたまま敵はそう言ってノブの体を掴んで引きちぎろうとする。柔らかくしなる黒い体は引きちぎられることなどなく、ただただ長く伸びるばかりだった。
「んん?」
敵は僅かな困惑を見せ、すかさずシュウが今度は直接魔力を纏った短剣を相手の左手へと突き付ける。明確な手ごたえがあった。短剣による攻撃は通る。ノブは敵を放し、転生村の方へと身をくねらせて行った。増援を呼びに行ったのだろう。深い傷を負った敵は痛がりながらも不気味な笑みを浮かべていた。
「いやあ。痛いな。当たり。こっちが利き手だよ。なんでわかったのかな。」
シュウは観察眼に長けている。細かい動きでも、速い動きでもそれらを的確に見分けて洞察を行う。これは彼の天性の才覚に加え、暗殺とカンナとの模擬戦によってそれは人類としての限界点に至っていた。
今、シュウにとっての最善はここでこの敵を殺してしまうことだ。そうすれば少なくともそいつによる被害は絶対に防げる。しかし、それは不可能であることをシュウは察していた。小手先の技に関しては圧倒的にシュウに分があるこの対面だが、
「俺との戦いは不毛だろ?勝っても
そう言うとシュウは短剣の魔力を鋭く練り上げ《影断ち》を見舞う。敵は一瞬にして姿を消し、少し離れたところで再び現れた。
「そうだな先輩。向こうに落ちてるあれは随分使い勝手がよさそうでわくわくしたんだが。」
敵はゆらゆらと体を揺らしてシュウを見つめる。
「そうだ先輩。挨拶がまだだった。俺はローベン。既にあんたが予想した通り、俺は転生者で
ローベンはまるで剣を持っているかのように構えた。
「これは《
空を切るシャンという音とともにローベンがシュウの背後へと高速移動する。そして、剣を振るうような動作をした。シュウは《貫く矢》を放ちながら飛び退いて躱す。放たれた《貫く矢》は、真っ二つに分かれて消滅した。
「すごくない?真似するだけであるかのように扱える。あ、この剣は魔力を断つ剣ね。先輩も得意でしょ。」
ぺらぺらと喋くり余裕なそぶりを見せるローベンは、突如わき腹から血を流した。
「初見殺しってのは、
ここでローベンは初めてその笑みを崩した。
ノブの全長はデフォルトで約2mで、可変です。10mくらいまでなら伸びます。