転生村   作:もつ煮トリガー

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第29話:努力と才能

 砂煙から現れたノットは、シュウに声をかけると同時に振り返り鉞をローベンへ叩きつける。竜に突進されたローベンはよろつきながらも《そこにある虚構(パントマイム)》で受け止めようとするが、作り出した壁ごと片腕を断たれた。

 

 しかしその直後、ローベンは蒼く煌めく《浄化の炎》を全身から放ち大きく後ろへ飛び退く。魔力を灼くその炎は、頑丈なノットの皮膚に熱傷を刻み炎熱耐性の高い竜の鱗をも焦がした。シュウは敵を逃がすまいと最後の《走力強化》を使用して急接近し、低姿勢のまま太ももに短剣を突き立てる。

 

「もういい…帰るよ!だから逃がせ!」

 

 焦るローベンは再度《浄化の炎》を放とうとするが、体内から突き破るような魔力の衝撃により意識が薄れ、蒼い炎はすぐに散った。

 

「そういうことか!チッ、お前の方がよっぽどチートだろ…!!」

 

 ローベンは激昂したが、そう言うのも無理は無い。そもそも体から離れた魔力の操作自体、凄腕の魔法士や魔導剣士でなければ実現不可能な技術であり、その上他人の体内にある魔力を操作するというのはそんな達人たちにとっても不可能だ。これができるのは歴史上でただ1人、トリアなのだ。

 

 それをシュウはやった。短剣に纏わせた魔力を、《影断ち》の要領で敵の体内へ分離、任意のタイミングで斬撃や衝撃として発散させる。まさに神技と言えるこの技は、シュウの突出した才能なくては成し得ない所業であると同時に、紛れもない彼の努力の結果だった。

 

「名付けて《影鍼》…!」

 

 興奮状態にあるシュウは、あの日見た強者たちの行動を無意識に模していた。

 

「お前がもし生まれ持った異界異能(ちから)にかまけず魔力操作を鍛えていたら、体内に魔力を残すこんな技は簡単に気づかれてた。」

 

 シュウは続けてそう言った。すると、ローベンは残った片腕で激しく頭を掻きむしり始めた。

 

「努力、また努力か…!!クソ、クソッ!!!!」

 

 明らかに様子のおかしいローベンへ一刻も早くとどめを刺そうと、シュウは“殺すための”《影断ち》を打ち込んだ。ローベンの体内にある魔力は支配を失い、臓器を圧迫し皮膚を膨れあがらせる。

 

「嫌だ!!死なない!!《死屍隷属(ゾンビードミネーション)》!!《眩燿の魔王》よ、俺に従え!!」

 

 《死屍隷属(ゾンビードミネーション)》は、死んだ生物を支配する異界異能(アルシア)だ。彼は自ら発生させた魔王を、敢えて未熟なまま村側へと向かわせた。その目論見通り、村を守ろうとしたレオとセキによって《眩燿の魔王》は討たれ、今ここに、動く死体(ゾンビー)として復活した。球状の魔王は主人を殺そうとするシュウと駆け寄ってくるノットへ激しい光線を浴びせ、ローベンを取り込んで高速に去っていった。

 

 復活したての状態だったからか光線の威力が弱くどちらも致命傷にはならなかったがそれでも熱傷が酷く動ける状態ではなかった。痛みに悶え助けを待っている中で、シュウはウーナに持っていけと言われた回復魔法の術札(アミュレット)のことを思い出した。そういえば、フーリは術札(アミュレット)が必要なほどの怪我をしていない。ウーナはこうなることも知っていたのだろうか。ともかく、なんとかポケットに入っている術札(アミュレット)へと手を伸ばして魔力を流す。痛みで魔力操作が荒れるが、それでも術札(アミュレット)はかなり痛みを和らげてくれた。

 

「ノットは…」

 

 体を引き摺りながら確認をしに行くと、こちらは多少怪我をしつつも無事なようだった。流石の頑丈さである。遠目に見えるフーリも、目立つ怪我はない。2人の無事に安堵したシュウは気が抜けて、そのまま気を失い倒れてしまった。

 

 翌日、シュウは懐かしい部屋で目を覚ました。シエラの家の一室だ。上体を起こして部屋を見渡す。前と違い、左右に1つずつ布団が敷かれていた。ノットとフーリが寝ていたのだろう。体の痛みから、昨日起こったことを鮮明に思い出す。ローベンへの怒りは未だ絶えないが、今回はフーリやノットに大きな怪我を負わせなかったことを思い返し、静かに自分を誇った。

 

「前より、随分強くなったみたいですね。」

 

 シエラがそう言って部屋に入ってきた。前と同じようにお盆を持っていたが、今度は高低差があっても分かるほどに大盛りの米と肉と野菜が載っていた。

 

「熱傷はどうですか?」

 

 近くに座り目線を合わせたシエラはそう尋ねた。少し痛むけど、大丈夫ですと伝え、ふと以前のことを思い出した。

 

「あの、また威嚇しませんでしたか…?」

 

 はあて何のことやらといった様子でシエラは首を傾げ、とんでもない量の食事をシュウの前に並べていく。盆の上の品を全て並べ終えたシエラはどうぞと箸を渡した。思い当たる節がないということは、きっと以前のように威嚇したりはしなかったのだろう。

 

「いただきます。」

 

 シュウはそう言って、遅めの朝食にとりかかる。治癒にエネルギーを使ったためか、とてもお腹が空いていたシュウは5人前はありそうな品々もあっという間に完食した。

 

「ごちそうさまでした。」

 

 シュウが食べ終わるまで傍で待っていたシエラは、その言葉に笑みを浮かべて食器を片付け部屋の外へ歩いていった。シュウが感謝を述べようとしたその時、シエラは振り返って言った。

 

「そうだ。ウーナさんがまたお食事会を開くらしいですよ。」

 

 あの日、見知らぬ顔ばかりが並んだ食事会は、酔い潰れてあっという間に終わってしまった。しかしその見知らぬ顔たちは一月で、戦友に師匠、同居人や恩人へ、愛すべき隣人たちに変わった。

 

『食事会いつがいい?もう始める?』

 

 最初は違和感のあったこの気軽すぎる神託にももう慣れた。しかし、今しがた5人前を平らげたばかりですぐに食事会というのは気が引けたので、流石に夜がいいと断った。

 

 直後、シュウと村の住人たちがまとめて宴会場へと転移させられたのは、また別のお話。




次回、見ての通りの第二回お食事会です。もちろんそれだけでは終わりませんが。
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