リリー、レオ、セキ、そしてカンナとともにカルジーナという俗神を訪ねることになったシュウ固定型転移魔術装置によってカルジーナの住む山の近くへ移動した。転移地点から山へ向かう道中、リリーに彼女が成した功績をひたすらに語られ続けたが、シュウは興味深そうに聞いていた。自分が疑問に思ったことを口に出す前に説明してくれるので一方的に話を聞くだけでよく、長い話だったが不快感は無く、シュウは聞き手一辺倒だったが会話をしているかのようだった。内容は主に国の政治を変えたとかそんなことで、本音を言えばあまり興味のない部類の話だったが、そこはリリーの話し方の上手さで楽しめた。
その間、セキはレオに筋トレについて教わっていて、カンナは相変わらず1人で…と思ったが、時折レオにだけは話しかけているようなった。そういえば、2人は共に『灰燼の魔王』を倒したのだった。カンナも死地を共にした仲であれば心を開くのだろうか。リリーがシュウに自らの輝かしい功績を話し終えた頃、タイミングを計ってセキが話しかけてきた。
「なあシュウ、お前本当に俺のこと覚えてないのか?」
少し寂しげな顔でそう聞かれ、改めて記憶を遡るが全く覚えがない。シュウは首を横に振った。メモリアがシュウに《
「記憶が消されただけだと思うわ。貴族が殺し屋を雇う時は過去の記憶を一部消して、余った依存を自らの忠誠心に置き換えるのが定石ですわよ。」
へえ、と言いつつ手口の卑劣さに2人は中々引いていた。もしかしてリリーも…?と思ったが、そこはすぐに否定された。
「魔法で消された記憶って復元できるんですか?」
シュウがリリーに尋ねると、魔法に詳しくはないので分からないが《
「じゃあ、尚更トリアを救わなきゃだな。」
レオの言葉に、シュウとセキが頷く。そのとき、セキが辺りを見回し始めた。声をかけようとしたとき、シュウも異変に気づいた。辺りに無数の気配がある。だが殺気は感じられない。魔力探知によれば、数は最低でも50、魔法や魔力強化の様子は無い。
「お迎えですの?わたくし、カルジーナさんの客人ですわ!」
リリーが大きな声で言い放つ。すると、無数の気配の中から1人が姿を現した。それは老いた鬼人だった。
「その声、リリーか。」
老人はそう言った。鬼人は、シュウも依頼で1度だけ殺したことがある。鬼人は骨が太く、筋肉は硬く、魔力量が多く、加えて五感が鋭い。これだけの数に襲われれば、このメンバーであってもレオの魔力解放やカンナの《灰燼の剣》なくしては負ける可能性がある相手だ。リリーに面識があるようで良かったと心底安心した。
「お久しぶりです、ネさん。」
リリーが挨拶をする。
「彼はグラン・ネさんですわ。この山近くの鬼人族の集落の長ですわ。」
紹介を受けて残りの4人も挨拶を返す。老人は少し怖い笑顔で会釈をした。
「どうも。リリーの友人か。あと、俺はもう長じゃない。娘が跡を継いだ。カルジーナ様は今『ニノ山』に居られる。」
リリーはありがとうと答えて速やかにその場を立ち去った。残りも真似をして着いていく。
「なんか素っ気なかったですね。」
「そう言う文化ですわ。あの集落では飾りっ気のないのが美しいんですの。金と宝石のネックレスを壊されたことがあって、今でもちょっと嫌いですわ。」
「嫌いなんですか。」
嫌いな相手に礼儀正しくするってのは偉いことだと考えると、リリーがクスッと笑った。
「あ、『ニノ山』ってどこっすか。」
ふとセキが問いかける。すると、リリーが進行方向の空高くを指さして、あれだと言った。一目では何も見えなかったが、よくよく目を凝らすと薄らと巨大な山が見えた。セキの前世の経験からして、標高6000mは下らないだろう。しかも、かなりの急勾配だ。
「あれ、登るんですか?」
シュウとセキが声を合わせてそう言う。ヒラヒラした服のご令嬢はそうだよ、と涼しい顔で言ってのける。レオとカンナはそれを他所目に、動きやすいよう靴を整えている。
「安心しなさい。たぶん明日の朝日が昇るまでには着きますわ。」
今はもう夕方である。5人は無事にカルジーナの下へ着けるのだろうか。
17時投稿でしたっけ。