「お前が、ローベンとやら?」
ある国の薄暗く湿った路地裏で、2つの影が相対していた。片や薙刀と太刀を携えた銀毛の獣人、対するは気味の悪い目付きを除けば特徴のない徒手の男。しかし、男の放つ気配は、明らかに浮世離れした獣人のそれに匹敵していた。
「そうだけど?なんか用?」
男はそう言う。だが、この状況でこれほど軽々しく振る舞える凡人はいない。この時すでに、互いが互いの思惑を理解していた。僅かな沈黙の後、ローベンが小さく右の薬指を動かすと、カルジーナは銀の閃光となり、硬く握られた拳がその身を空高く弾き飛ばす。
「チッ!!“スピニテ”!!」
ローベンが叫んだその刹那、光の粒子が集合し『眩燿の魔王』がその姿を現す。スピニテと呼ばれたそれが光線による攻撃を繰り出すよりも早く、カルジーナの愛刀《
「君はあっちだ。」
同時に繰り出されたカルジーナの長い足による蹴撃が再びローベンを北方の郊外へと吹き飛ばした。スピニテはそれを追わんとするも《
「ローベン、私はお前を殺したりしない。お前が逃げなければこれ以上戦う気もない。大人しくー
ローベンはカルジーナの忠告を無視し、魔力を灼く蒼炎を広域へ振りまく。咄嗟に《
「《氷華》!!」
次の瞬間、蒼炎の拡がりよりもさらに速く、霜が大地を走った。魔法が通じないはずの《浄化の炎》が掻き消されたことにローベンは思考が追いつかなかったが、すぐにその単純な絡繰に気づいた。
「それがお前の
ローベンは舌打ちをしてカルジーナを睨む。再びスピニテがカルジーナを襲うが、今度は《
「この球ゾンビは不死らしくて助かるよ。君たちをあまり傷つけるわけには行かないんだ。あ、凍傷くらいなんてことないよね。シュウくんから再生系の
シュウという名を聞いて苦い顔をしたローベンは、再び《浄化の炎》を放ち氷を溶かす。が、すぐにまた固められてしまう。この圧倒的な実力差、完全な勝利を前にしたとき、カルジーナの脳裏にはウーナの神託が過ぎっていた。
「あの、大丈夫ですか?」
声は、凍りついたローベンの方から聞こえた。その声は、通りすがった若い女性のものだった。その女性は、凍りついた人間を見て酷く心配した様子だった。そして、ローベンの手が届く距離まで、近づいてしまった。神託を思い出していたその一瞬、カルジーナの行動は遅れた。カルジーナに無関係のその善良な彼女の首が、ローベンの細い腕によって掴まれる。恐ろしい蒼白の炎が、辺り一面を包んだ。そのとき、カルジーナには2つの選択肢だけが与えられていた。1つは、また《
心優しいカルジーナは当然、後者を選んだ。
「《凱風》!!」
《凱風》、それは彼女の持つ
「大丈夫!今助けるよ。」
女性に触れ、炎の影響を排する。しかし、ローベンがいない。逃げたか、炎に紛れ襲い来るか。女性を確保したカルジーナは手っ取り早く対応するため、《氷華》を最大出力で使用する。
グサ
透明な刃が、カルジーナの背中にめり込んだ。足の凍りついたローベンが、背後にいた。強靭な肉体と大きな魔力によって臓器の破壊には至らなかったが、それでも傷は深い。もう不干渉などと言ってられる場合では無いと判断して《
「ガッ…!!」
カルジーナがその場で倒れ込む。ローベンが涙を零しひたすらに謝っている女性を蹴り飛ばし、カルジーナへ至近距離で《浄化の炎》を浴びせる。《凱風》でなんとか防ぐも、その隙にもう一撃を喰らった。
「さっきの、《影鍼》って技だぜ。先輩から聞かなかったか?」
ニヤニヤと笑うローベンの顔面にカルジーナが拳を振るうが、見えない壁に阻まれ、逆に拳が砕けた。
「努力って意外といいもんだなあ。
離れたところに立ち竦むのは、連絡を受け駆けつけたシュウたちだった。
今週は普通に休み、来週は過去話修正休みです。