転生村   作:もつ煮トリガー

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第37話:時間稼ぎ

「お前が、ローベンとやら?」

 

 ある国の薄暗く湿った路地裏で、2つの影が相対していた。片や薙刀と太刀を携えた銀毛の獣人、対するは気味の悪い目付きを除けば特徴のない徒手の男。しかし、男の放つ気配は、明らかに浮世離れした獣人のそれに匹敵していた。

 

「そうだけど?なんか用?」

 

 男はそう言う。だが、この状況でこれほど軽々しく振る舞える凡人はいない。この時すでに、互いが互いの思惑を理解していた。僅かな沈黙の後、ローベンが小さく右の薬指を動かすと、カルジーナは銀の閃光となり、硬く握られた拳がその身を空高く弾き飛ばす。

 

「チッ!!“スピニテ”!!」

 

 ローベンが叫んだその刹那、光の粒子が集合し『眩燿の魔王』がその姿を現す。スピニテと呼ばれたそれが光線による攻撃を繰り出すよりも早く、カルジーナの愛刀《白波(しらは)》が丸い体を両断する。

 

「君はあっちだ。」

 

 同時に繰り出されたカルジーナの長い足による蹴撃が再びローベンを北方の郊外へと吹き飛ばした。スピニテはそれを追わんとするも《白波(しらは)》によって光の流れは滞留し、それは再び半球に加工された。カルジーナ自身は《飛行》魔法ですぐさまローベンの元へ追いついた。手加減は成功したようで、ローベンは大したダメージは負っていなかった。

 

「ローベン、私はお前を殺したりしない。お前が逃げなければこれ以上戦う気もない。大人しくー

 

 ローベンはカルジーナの忠告を無視し、魔力を灼く蒼炎を広域へ振りまく。咄嗟に《白波(しらは)》で以てそれを防ぐが、目と耳、そして魔力探知が効かなくなった。しかし、これは彼女の想定の範囲内だった。

 

「《氷華》!!」

 

 次の瞬間、蒼炎の拡がりよりもさらに速く、霜が大地を走った。魔法が通じないはずの《浄化の炎》が掻き消されたことにローベンは思考が追いつかなかったが、すぐにその単純な絡繰に気づいた。

 

「それがお前の異界異能(チートスキル)か…!!チッ。いいもん持ってやがる…!!」

 

 ローベンは舌打ちをしてカルジーナを睨む。再びスピニテがカルジーナを襲うが、今度は《酒薙丸(さかなぎまる)》の分厚い刃で叩き潰された。

 

「この球ゾンビは不死らしくて助かるよ。君たちをあまり傷つけるわけには行かないんだ。あ、凍傷くらいなんてことないよね。シュウくんから再生系の異界異能(アルシア)があると聞いてる。」

 

 シュウという名を聞いて苦い顔をしたローベンは、再び《浄化の炎》を放ち氷を溶かす。が、すぐにまた固められてしまう。この圧倒的な実力差、完全な勝利を前にしたとき、カルジーナの脳裏にはウーナの神託が過ぎっていた。

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

 声は、凍りついたローベンの方から聞こえた。その声は、通りすがった若い女性のものだった。その女性は、凍りついた人間を見て酷く心配した様子だった。そして、ローベンの手が届く距離まで、近づいてしまった。神託を思い出していたその一瞬、カルジーナの行動は遅れた。カルジーナに無関係のその善良な彼女の首が、ローベンの細い腕によって掴まれる。恐ろしい蒼白の炎が、辺り一面を包んだ。そのとき、カルジーナには2つの選択肢だけが与えられていた。1つは、また《白波(しらは)》で自分の身を守り、《氷華》で炎を打ち消す。この場合、ローベンの魔手にかかったあの女性を高確率で巻き込んでしまうだろう。もう1つは、彼女の隠し玉を使い、女性を助けながら炎の範囲を脱する。

 

 心優しいカルジーナは当然、後者を選んだ。

 

「《凱風》!!」

 

 《凱風》、それは彼女の持つ()()()()()異界異能(アルシア)。自身に柔らかな風を纏うことで、炎のような軽いものの影響を一切無視できる。しかし、その範囲は自分とそれに触れた物体の表面上に限定され、炎で塞がれた視野はほとんど開くことができない。僅かに聞こえた女性の悲鳴を頼りに、煌めく蒼炎の中を駆けた。カルジーナの健脚は10m以上あった距離も一瞬のうちに駆け抜け、女性が見えた。

 

「大丈夫!今助けるよ。」

 

 女性に触れ、炎の影響を排する。しかし、ローベンがいない。逃げたか、炎に紛れ襲い来るか。女性を確保したカルジーナは手っ取り早く対応するため、《氷華》を最大出力で使用する。

 

 グサ

 

 透明な刃が、カルジーナの背中にめり込んだ。足の凍りついたローベンが、背後にいた。強靭な肉体と大きな魔力によって臓器の破壊には至らなかったが、それでも傷は深い。もう不干渉などと言ってられる場合では無いと判断して《白波(しらは)》の鋭い刃をローベンへ振るうが、その瞬間内蔵が爆ぜるような衝撃が体内を駆け巡る。

 

「ガッ…!!」

 

 カルジーナがその場で倒れ込む。ローベンが涙を零しひたすらに謝っている女性を蹴り飛ばし、カルジーナへ至近距離で《浄化の炎》を浴びせる。《凱風》でなんとか防ぐも、その隙にもう一撃を喰らった。

 

「さっきの、《影鍼》って技だぜ。先輩から聞かなかったか?」

 

 ニヤニヤと笑うローベンの顔面にカルジーナが拳を振るうが、見えない壁に阻まれ、逆に拳が砕けた。

 

「努力って意外といいもんだなあ。()()()()もそう思うだろ?」

 

 離れたところに立ち竦むのは、連絡を受け駆けつけたシュウたちだった。




今週は普通に休み、来週は過去話修正休みです。
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