転生村   作:もつ煮トリガー

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知らない天井

「知らない天井だ…」

 

 シュウは知らない天井の下で目を覚ました。朝日が窓から差し込んでいて、客観的にはとてもいい朝だが、実際は酷い目覚めだった。頭痛と眩暈、吐き気、喉の渇きなどに襲われ、目を覚まさざるを得なかったのだ。シュウは靄のかかったような頭を動かし、その原因を思い出さんとした。

 

 

 

 昨日、シュウはウーナに招待されて歓迎会とやらに出席した。会が始まると皆の自己紹介が促され、そして、シュウも自己紹介をした。

 

「俺はシュウ。トゥテル国王のストラテス直属の暗殺者、だった者、です。」

 

 少しぎこちなかったな、とシュウは記憶をたどっていく。自己紹介のとき、誰かが小さく反応を見せたような記憶があった。背が低めの黒髪の男だったはずだが、顔までは思い出せなかった。その後は、普通に食事が始まった。シュウは人生柄、食への拘りがなく特に好きな食べ物というものもなかったため、目の前にあるいくつかを手に取って食べた。テーブルマナーの知識もなかったが、汁が跳ねたり皿から零れたりしないよう気を付けた。食べた物の印象はほとんど残っていないが、ザックに名前を教えて貰ったカレーというものは強く記憶に残っていた。そのままシュウは記憶をたどり、丁度カレーを食べ終えたところでウーナが席を立ったことを思い出した。

 

「さあ、もう僕はこの座を空けるよ。みんな新入りシュウくんの隣座りな~。」

 

 ウーナがそう言ったが、その後しばらくシュウの右隣は空席だった。シュウ自身としては、人が近くにいると落ち着かないという性分もあってそれでもよかったのだがあの大男、レオが気を利かせたのかやってきた。しかし、レオは一言も話さなかった。相手から近づいてきたことを嬉しく思ったシュウは、とにかく何か話すべきだと一言目を考えた。

 

「レオ、お前の魔力とんでもない量だった。凄いよ。」

 

 結果がこれだ。シュウは言ってから失敗したと思った。褒めようとは思ったのだが、そもそも社交辞令的なものを何も介さずいきなり褒めるのは間違いだと考えたからだ。しかし、反応は意外にも悪くないものだった。

 

「俺の魔力を探知したのか?凄いな。」

 

 社交辞令的な物を何も介さず褒められたシュウは驚いてしまった。

 

「ありがとう。そちらこそ。」

 

 とりあえず、褒められたことに感謝を告げる。そしてまた、沈黙。シュウは自分の会話の下手さに辟易しつつも、どうにか会話を再開しようと頭を捻った。

 

「昨日の剣は、どういう剣?でかい剣だったけど、魔剣だったりする?」

 

「そこそこ頑丈な剣だ。基本使わない。」

 

 ここで話は終わった。どうしようもないこの2人に救いの手を差し伸べたのは、それまで静観していたザックだった。

 

「シュウ、お前レオの魔力がわかるのか?嘘じゃないならお前、天才だ。」

 

 ザックの言葉に、シュウは首を傾げた。

 

「確かに魔力が大きくて探知しづらかったけど、褒めすぎじゃない?」

 

 ザックは変わらぬ表情に小さく疑念を浮かべた。

 

「説明してあげようか?」

 

 現れたのはトリアだ。トリアは2人が何かを言う前に空中に光の筋を引き、シンプルな図を生み出す。直後トリアはつらつらと魔力探知に関する説明を始めたが、何もわからない。シュウは魔力探知を使えるが、知識としては魔力の圧力を皮膚で感じ取るということと、その範囲を自身の魔力で広げるということだけ。残りの調整などは経験由来の感覚である。そもそも知らない知識を前提に知らない理論を解説しているのでシュウの能力など関係なく理解できなくて当然なのだ。助けを求めてザックを見ても、薄ら苦笑いを浮かべるだけだった。解説は30分弱続いた。

 

「…ということだよ。先ほど私が述べた指標に基づけば、君の魔力操作精度は過去3000年間で約1230番目に高く、現存する人間の中では6番目に高い。どれくらい凄いかわかった?」

 

 シュウは食事を摂りながら話を聞いていたが、説明の最後のその言葉に手を止めた。

 

「6番目?魔力操作は得意だけど、本当?」

 

「本当だよ。私の《万象を覗く瞳》とこの《アウレオラ》で過去3000年以上の"この世界"を観測・記録している。過去の情報に関しては、厳密な計算をしていないから誤差も考慮したが、今この瞬間に限れば誤差はない。」

 

 シュウの問いに、トリアは間髪入れずに答えた。そして隣で話を聞いていた、のかはわからないが黙々と食事を続けていたレオが口を挟んだ。

 

「6位か。凄いな。」

 

 すると、トリアの表情に僅かな怒りが宿った。

 

「魔力操作精度のせいでその魔力量を無駄にしているお前は黙れ。」

 

 口調、声色からもその怒りが察せられる。怒りの原因はレオの魔力操作精度とのことだが、通常の鍛錬法であれば魔力量と操作精度は比例して向上していくものだ。つまりレオの魔力操作精度の低さは彼の持つ《過剰魔力(オーバード)》の影響なのだろうということはシュウにも予想がついた。生まれついてのものなのだから、それで怒られるのはかわいそうというものだが他に理由があるのだろう。

 

「お前もだぞシュウ。お前魔法使えないだろ。」

 

 トリアの怒りはシュウにも飛び火したようだ。実際シュウは魔法構造が覚えられず魔法が使えないのだがそれを伝えたことはない。トリアがそれを知っているのは《万象を覗く瞳》の効果によるものだろう。

 

「魔力操作精度が高くても魔法が使えないならできることは他の人と大して変わらないよ。」

 

 なかなか痛いことを突かれ、シュウは不器用な苦笑いを浮かべた。そして、

 

 そして…

 

 

 

 

「あの後どうなったっけ。」

 

 シュウは昇りゆく朝日を眺めながら、そう呟いた。その時、ノックの音がした。




・魔力探知について
魔力は常に全方位への圧力を発生させている。この圧力は皮膚で感じ取ることができるが、当然接触するほどに近づく必要がある。そこで、対象の魔力と自身の皮膚の間に自身の魔力を媒介として挟み込むことでその射程を伸ばす技術が魔力探知である。魔力探知は媒介とする自身の魔力をより細く強固に操作することで精度と逆探知耐性を高めることができる。また、近くに強大な魔力源があったり、環境自体が強い魔力を孕んでいたりすると魔力操作精度が下がり、魔力探知の精度も落ちる。シュウは魔力の操作に長けるため、レオという極めて膨大な魔力源が近くにある環境下でも魔力探知精度の低下を抑えられたのだ。
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