転生村   作:もつ煮トリガー

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第2章:思い出を辿って
第41話:こんな夢を見た


 深い、深い闇の中、右も左も、前も後ろも、上下さえわからないまま、歩く。何かに背中を押されるように、歩く。目も耳も効かないが、頭は冴えていた。これが夢だとはっきり理解していた。歩くうち、火が灯る。見覚えのある、蒼い炎が灯る。遠いのか近いのかはわからない。ただ、向かうべき方向だけがわかる。また歩く。走っているのか、歩いているのか、それすらわからずに進む。突然、蒼い炎は膨らんで視界を覆った。

 

「ユメ」

 

 目が覚めた。酷く汗をかいていた。どうやら、熱を出したようだ。自分のよく知る、心安らぐ天井が目の前にあった。

 

「《浄化の炎》にやられたな。火傷は治ったが、魔力を消耗しすぎだ。」

 

 ザックの声が聞こえた。少し耳に圧迫感を感じる。自分で魔力を切り離す技を初めて試した時もこうなった気がする。他人にはよくやるが、魔力が急に減るとこうも辛いのかとシュウは実感した。

 

「皆は無事?リーランはどうした?」

 

 頭の痛みでローベンとの戦いを思い出し、そう尋ねる。ザックは心配するなと言って話してくれた。

 

「カルジーナは重傷だったが完治。セキは片目を失明しかけていたが処置が間に合った。今治療中だ。カンナは多少手首を痛めた程度だ。リーランは…」

 

 淡々と説明していたザックだが、そこで急に言い淀んでしまう。

 

「リーランは…どうしたんだ?」

 

 真摯に見つめるシュウの瞳に、腹を括ってザックは語った。

 

「この、瓶に入ってるチョロっとしたやつ。これだ。」

 

「チョロっと。え?」

 

 当然の困惑だ。何せ今シュウの目の前に差し出された透明な瓶の中にいるのは、小さいミミズのような変な生き物なのだ。それがあのリーランだとは信じられない。が、信じざるを得ない。なぜならその小さな生き物の持つ小さな魔力の気配は、確かにリーランにそっくりだった。

 

「今のリーランは簡単な脳組織と筋肉だけでできたとても原始的な生物状態だ。こうやって専用の瓶に入れて負荷を減らしつつ、数百種類の回復・強化魔法を発動し続けてようやくここまで戻ってきた。回復するにつれ生命維持に割くリソースを減らせるらしく、トリアの計算では4か月で意識が戻り、半年後にはコミュニケーションがとれるようになるらしい。完治はほぼ丸一年だな。」

 

 シュウは目を伏せる。誰一人死んでいないこと、誰一人取り返しのつかない怪我を負わなかったことに安堵したからだ。そして、ローベンとの初邂逅から転生村襲撃まで力が及ばず、だからこそザックに無理を言って無理に参戦した最終決戦でさえも何も守れなかった事実を悔しく思ったからだ。ザックは気が利くから、そんなシュウの様子から心境を察していた。初めはそんなものだとか、よく頑張ったとか、そういう言葉はシュウに不要だともわかっている。一つだけ、助言を与える。

 

「強くなれよ。」

 

 そんなザックを他所に、あ、そうだ、とシュウは見た夢のことを話し始めた。二ノ山で見た幻覚についても思い出せる範囲で説明し、リリーから聞いた話を伝えた。ザックはシュウが思ったより落ち込んでいなかったのに変に声をかけてしまってバツが悪そうにしていたが、割り切って答えた。

 

「それは、リリーが言った通り記憶を消された、正確に言えば上書きだがその魔法の影響がその魔剣や《浄化の炎》によって弱まって本来の記憶が見えたんだろう。」

 

 魔剣の方は幻覚により埋もれていた記憶が引き出されその一部が現れ、《浄化の炎》の場合は魔法の影響が魔力を灼く炎によって弱まり記憶が夢として現れた、ということだと説明してくれた。そもそも魔法というのが仕組みもよく分からないまま術札(アミュレット)で擬似的に使用しているだけのものなのであまり実感は沸かないが、ともかく夢に見たものが本当の記憶であるということが分かった。そして話すうちに、メモリアの異界異能(アルシア)によって記憶を取り戻せるかもしれないと言われたことを思い出した。なので家に行ってみた。

 

「記憶なら、私の《追憶(メモリー・バック)》と《記憶の本(メモリー・ブック)》を組み合わせて《記憶再編(リライト)》って魔法で更に記憶を上書きすれば擬似的に記憶は戻るけど、それよりもトリアに頼んで魔法を解いてもらう方が早いし副作用もないよ。魔力源の詠唱装置は昨日の夜には配置が終わっているし、もうその位ならできるんじゃないかな。」

 

 ありがとうと言って、トリアの元へ向かう。その途中、リムを見かけた。彼は真剣な顔をして木の実のようなものを大量に頬張っていた。あまりに真剣に貪っているので話しかけづらく、放ってトリアの家へ向かった。

 

 そして、トリアの家へ着く。前より機械的な構造が外からでも見えるようになっていて、その道に詳しくないシュウでも改造したのだとひと目でわかる。シュウがノックすると、家の中からもノックの音がした。自分が叩いた扉よりもっと奥で音がしたのは不思議だが、トリアの装置か何かだろうと気にしなかった。音がしたあと、ほんの数秒後に扉は開いた。一瞬ウーナの社を想起したが、実際はところどころ壁から機械仕掛けが覗くこと以外なんて事ない普通の家だった。

 

「そこに座って待って。」

 

 ある部屋の扉を開けた瞬間、そう言われた。言われた通りに近くにある唯一のソファに腰を下ろす。左には資料の山が床から天井までギチギチに積まれていた。ソファの中にも何か仕舞われているようで凄く座り心地は悪かった。見慣れない物だらけの部屋を見渡しながらソワソワしていると、突然目眩のような感覚に襲われた。

 

「解いたよ。あ、一気に戻してしまった。」

 

 フラッシュバックに襲われながら、シュウは気を失った。




 この世界(デフィアテイル)私たちの世界(アーリアテイル)は結構近いので重力が相互に作用し大まかな天体の構成が一致しています。そのため暦も20日×20ヶ月という似たものになっていますが、私が日本の暦に翻訳していますのでそのまま読んで大丈夫です。
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