「食い物を寄越せ!!」
「お前らだけいいもん食ってんだろ!!」
「貴族はなにをやってるんだ!?」
転生村の西方、トゥテル王国では、突如として国王や貴族、有力な転生者が失踪したことで国民たちの間に混乱が蔓延していた。利権政治に飲まれていた悪徳商社は軒並み潰れ、物流が滞り貧困層が拡大する。国王不在時に政を治めるはずの貴族は失踪、残った者たちも国民の保護などはそっちのけで次の国王やそれに次ぐ役職を手に入れようと必死である。
「やあ。テリアレス。」
「その声は…シュウか!!父上の命で忌々しい転生者どもを消していたのであったな。この際だ無礼は許そう。すぐにでも私の政敵どもを殺して来い!!」
王城の一室にて、そんなやり取りがあった。テリアレスは前国王ストラテスの長男である。トゥテルでは基本的に長男が親の跡を継ぐため、本来なら彼は既に国王になっているはずであるが、自分たちが権利を得たい貴族たちの権力闘争に巻き込まれている。だが彼は貴族たちを大人しくさせた父ストラテスや国王の座を自ら奪い手にした祖父ピルシテスとは違い、完全な七光りだ。彼の持つものは全て親に与えられたものでしかない。望めば全て手に入ったからか、哀れな権力者は目の前の圧倒的な強者が自分に従うと勘違いをしてしまったようだ。
首筋に伝う熱い痛みは彼を現実へと連れ戻した。彼にとって幸いだったのはシュウに全く殺す気が無かったことだろう。
「テリアレス。俺はもう誰も殺さない。だけど、仕方ないからお前を王にしようと思う。」
状況を理解していないテリアレスに、シュウは丁寧に思惑を話してやった。
「俺は人を探してる。その人はきっとこの国にいるんだ。手伝ってやるから一刻も早くこの混乱を止めてくれ。」
シュウが探している人とは、あの夢に見た少女だ。彼女はユメと言い、シュウの4つ下の妹である。母親が亡くなってからシュウが貴族に引き取られるまでのおよそ2年間を2人肩を寄せ合って暮らした記憶がある。まだ話すこともできないユメが10年以上経った今でも生きているというのは考えづらいが、シュウは手掛かりを持っていた。殺し屋をしていたころに一度だけユメという名を聞いたことが、魔法の解除とともに思い出されたのだ。たまたま名前が同じだっただけかもしれないが、はトゥテルでは珍しい名であるため可能性は高いと、シュウは考えていた。
「別に、俺がお前を助ける義理はない。悩むなら、別のやつにする。」
シュウはそう言った。テリアレスはシュウの実績と実力をよく知っている。シュウが味方をした者が勝者になるという確信があった。この機を逃すわけにはいかない。血生臭いトゥテルでの、血生臭い権力闘争にもし敗北すれば、死よりも辛く苦しい結末が待っている。それは、愚かな権力者だからこそよく知るところでもあった。選択肢なんてなかった。
その後、テリアレスは堂々と父の跡を継ぐことを宣言した。テリアレスの傍には常にシュウが付いている。幾度も暗殺者が送り込まれ、その全てを完膚なきまでに叩きのめし捕らえた。次第に貴族の中で『英雄狩り』の帰還が囁かれるようになり、2ヶ月後テリアレスは無事王になった。テリアレスに上手い政治ができるとは思えないし、かなり無茶な方法で新王を立てたため革命が起こると予想されるが、それまではしばらくの猶予があるだろう。それまでにユメを見つけるのがシュウの目標だ。
「テリアレス、ユメという女性を知っているか?」
シュウはふと尋ねた。別に彼に期待をしたわけじゃないが、もしかしたら何か知っているかもしれないと思ったからだ。いわゆるダメ元というやつである。
「ユメ?あの女魔道士のことか?」
「ああ。そんなことだろう。期待はしてなか…え?知ってるのか?」
「え、ああ。知っているぞ。私直属のパーティの魔道士だ。若いが美人だったなあ。そういえばお前と似ている気もするな。まあ、お前が女でもああも美人じゃないだろうな。あはは。」
シュウが意外だったのは、テリアレスが自分の部下の名前や顔を覚えていたこと、その顔から自分との血縁を見透かしたこと、そして何より部下にユメがいたことだ。
「会えるか?」
「ああ。勿論。王にしてもらって報酬も要らないとなればその位当然だ。」
と、いうことで、シュウはユメと会えることになった。ただし、ユメの属するパーティは現在、南方のソノ森林にて探索中で再会は早くとも来週になるということらしい。シュウは少し悩んで、自ら妹を迎えに行くことにした。ソノ森林までは直線距離なら転生村よりも遠いが、明日の夜には着くだろう。そこそこ名の知れたパーティだというので魔力探知も難しくないはずだ。
「《走力強化》、これを使うのも久しぶりだな。」
ありえないほどの身軽な装いで、シュウはソノ森林へと駆け出した。
2か月間でシュウとテリアレスはだいぶ仲良くなったようです。テリアレスも現実を知って丸くなりました。