「何だろう。変な気配が迫ってきてる。気がする…」
「気がするって何だよ。お得意の魔力探知はどうしたんだ?リヒトの馬鹿じゃあるまいし、適当なこと言うなよ〜。」
「おいミオン。あまり馬鹿とか言ってやるなよ。あいつだって頑張ってるんだぜ。」
「いつもながら本人の目の前で馬鹿馬鹿いってくれるなよ…さすがに傷つくぞ俺も。ユメもそう思うだろ?」
これはとあるパーティの、いつものよくあるやり取りだ。会話の内容は普通の若者同士の会話でしかないが、彼らは平均年齢17歳という超若手パーティでありながら王家直属となった秘かに界隈を騒がせる期待の新星たちである。このパーティの構成メンバーは4人おり、近接戦闘能力において冒険者協会の英雄級に匹敵するとされる魔剣士のリヒトをリーダーとし、その幼馴染で同じく魔剣士のセオ、獣人で多彩な技術を持つミオン、そして出自不明の天才魔法士ユメだ。それぞれ冒険者協会から直接勧誘を受けるほどの実力者だが、何故かトゥテルを離れたがらないユメのために皆もそれを断っている。
「魔力探知圏内にはまだ怪しい動きはない。気のせいかな。」
ユメがそう言うと、皆は薄らと漂っていた緊張を解いてソノ森林のさらに奥へと向かう。今回の任務の目標はソノ森林を挟んで南側にある海岸の状態確認である。
「森の中は流石に難しいな…」
一方シュウは、ソノ森林の浅い部分で魔力探知で妹の位置を探っていた。シュウはかなりの広範囲かつ高精度な魔力探知ができるようになっていたが、広大な森林の全域を覆うほどではない。それに、森中に蔓延る数多の魔物や魔法生物の魔力と、会ったことも無いパーティの魔力を見分けることはシュウとて容易くない。
「仕方ない。突き進むか。」
シュウは羅針盤を確認し、真っ直ぐに南方へと駆けた。魔物山での経験から魔力探知すら使用せずとも感覚的に魔物の位置を把握できるようになったシュウにとって、魔物山よりも魔物の密度が少ないソノ森林はごく快適な通り道でしかない。その速度はシュウの想定すら超え、微塵の人間らしさもない挙動を生み出していた。そしてそれは、ユメの魔力探知に恐るべき強敵として映ってしまった。
「みんな、戦闘準備。超高速で何かが迫ってくる。ルートは微妙にずれてるけど、けっこう近いよ。」
寸前までケラケラと笑いながら話していたリヒト、ミオン、セオの3人は表情を変えてそれぞれの武器に手を置く。ミオンが目を大きく見開き、口を小さく開いて感覚を研ぎ澄ませる。皆は臨戦態勢のままゆっくりと木の陰に隠れ、息を殺した。
「方向を変えた!!こっち来てるよ!!」
小声で素早く、はっきりとそれを伝達する。
「残り4秒…」
3、2、1。カウントダウンの瞬間、現れたのは地味な雰囲気の、しかし佇まいから只者ではないとわかる青年だった。音と匂いから
「《廻る雷》!」
初撃はユメだ。兄と同じく魔力操作に長ける彼女の魔法は的確に敵へ奔る。敵の動きは速いが、雷撃に勝ることはない。躱しきれずに命中する。しかし、敵が痺れたのは一瞬だけですぐに魔法の影響を解いてリヒトに迫る。
「ユメの魔法を…!?リヒトそっちに!!」
「わかってるよ!」
敵はまだ
「あの…」
敵が初めて声を発した。しかし、思慮を巡らせるリヒトには届かない。最悪とは、この強大な相手がこちらを殺す気である場合だ。そうであるなら、今この敵を何とかして無力化せねば誰か、あるいは全員が殺される。
「敵意が無かったらすまない!!」
謝りながら、リヒトは剣に魔力を込める。彼の持つ魔剣《凍破の剣》は切り付けたものを凍らせ、砕く。上手く魔力を調整すればその効果は凍結のみに留まるため、リヒトはこれで一度敵を捕らえようとした。しかし想像以上に敵は強く、速かった。
「魔剣が折られた…!?」
「ちょっと軽めに…《影断ち》!!」
リヒトが一瞬揺らぐ。その揺らぎは、心を通わせるパーティの仲間たちにも伝播した。そうして、一瞬のうちにリヒトのパーティは瓦解した。波に乗っていた彼らに訪れた、初めての敗北。自分は謎の眩暈に襲われ、セオも転ばされて地に這っている。リーダーであるリヒトは、自分の不甲斐なさに顔をしかめた。
「あの、俺、シュウっていうんですけど、このパーティにユメっていますか?」
3人が倒れる中で、一人佇むシュウがそう言った。
よし間に合った!!