転生村   作:もつ煮トリガー

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第44話:ちょっと海まで

「シュウ…?」

 

 隠れていたユメが姿を現した。ユメはシュウの脳天からつま先までをゆっくりと見て少し首を捻り、しばらく悩んだ後、ああ兄か。と言った。

 

「よく覚えてたな。てっきり忘れてると思ってた。」

 

 シュウがそう思うのは当然だ。2人が別れたときユメはまだ2歳か3歳くらいで、さらにそこから十余年の長い時間が経っている。そのためシュウ自身もユメの顔を見ても特に何も思い出せなかったくらいだ。

 

「いや、さっき雇い主から連絡があって。“ユメちゃんのお兄ちゃんが会いたがってるよ〜”って感じで。いやしかし、覚えてはいないけど何か懐かしさはある気がするなあ。」

 

 シュウとユメが話しているうちに起き上がったリヒトとセオは兄妹だと言う2人の顔を見比べ、木から降りてきたミオンは匂いを嗅ぎ比べた。そして、シュウは雇い主の紹介として、パーティメンバーの兄としてパーティから一応の信頼を得た。身長なセオとミオンも、シュウが高い戦闘能力を有しながら加害行動を取らないことから少なくとも命の危険はないと判断したようでリラックスした素振りを見せていた。

 

「そうだ、ユメ。さっきの連絡って別に任務中止とかは言われてないよな。」

 

 リヒトが聞くと、ユメは柔らかく首を縦に振った。

 

「じゃあ、ユメのお兄さんも着いて来ますか?俺たち向こうの海岸まで行かなくちゃいけなくて。」

 

 じゃあそうする、とシュウは彼らに着いていくことを決めた。道中、歳の近いリヒトが気遣ってよく話しかけ、ユメや転生村のことについてお互い話し合った。リヒトはホムラの戦いについて強い興味を示していたようだ。そして当然、海岸までの道のりでは何度も魔物と出会った。シュウは魔物の存在に気づいても黙っていたし、戦闘に手を貸すこともなかった。が、それは彼が対魔物の戦闘に興味があり、また単純に妹の実力を見てみたかったためである。注意深い観察の結果、シュウはユメの類稀なる魔法への才能に気がついた。

 

「え、ユメ。もしかして《魔力()()》使ってる?」

 

「そこに気づいたか。さすが私の兄だ。」

 

 ユメは感心したような表情でそう言った。そして、それを聞いたセオはえぇ、と声を上げた。

 

「《魔力感知》?探知じゃなくて?ユメお前そんな。えぇ…?」

 

 セオはだいぶ困惑した様子だった。ミオンがそれを見て真顔のまま頬をはたき、話せと脅した。そして、魔法に詳しくないリヒトとミオンにセオが説明する間、シュウとユメは魔力操作について高度な会話を繰り広げていた。

 

「《魔力感知》は慣れるまで少し違和感があるけど、使いやすくて気に入ってる。範囲もかなり広がってきたしね。…シュウ、はどのくらい?」

 

「俺は《魔力感知》は使えないな。探知だけだ。距離は…測ったことがないからわからないけど5、600mはあると思う。」

 

「探知だけなの?それであの距離から私たち見つけたってことか。あんまり真っ直ぐこっち来るからてっきり《魔力感知》使えるものだと思ってた。」

 

「それなんだけど、そもそも魔法自体が使えなくてーーー

 

 意外なところで共通の話題を見つけた生き別れの兄妹と、《魔力感知》すら知らない脳筋リーダーに懇切丁寧に説明してあげるセオの声が、森の中で静かにこだましていた。

 

 一方その頃、トゥテル王城に1人の幼女が訪れていた。その幼女とは天真爛漫蛍光ピンクのモニである。彼女はシュウからテリアレスの護衛に関する相談を受けたザックによって派遣された。モニは先の戦いで相性上参戦は叶わなかったが、実力は折り紙つきである。

 

 さて、再びソノ森林へ場面を戻す。それぞれの会話を終えた5人は、来たる夜に向けてキャンプを設営していた。5人とは言ったが、実のところシュウはほとんど役に立っていない。したことと言えば、近くの山菜と獣を摘んで食事にささやかな彩りを添えたことくらいだ。彼自身は迷惑をかけたと謝ったが、他の4人は久しぶりにいい夕飯を食べられたから気にするなと断った。

 

「美味しかった。これも転生村で習ったの?それともその前の仕事?」

 

 ユメが尋ね、シュウはそうだよと肯定する。ユメはそうなんだと言って寝床に潜り込み、しばらくして静かな寝息が聞こえてきた。彼女は直接転生村のことを話されていないが、リヒトとの会話を盗み聞きしたのだろう。しかしその前の仕事、殺し屋時代の話はリヒトともしなかった。無駄に嘘は吐きたくないから転生村以前の話は避けていたのだが、ユメはそこに何かを隠していると考えたのだろう。そういう口ぶりだった。その夜は、それ以上の進展は特になく、交代で見張りをしながらゆったりと過ぎていった。

 

 翌日、日が昇った瞬間の見張りはシュウだった。深い森なので日光はほとんど差さないが、穏やかに上がる気温がそれを伝えてくれた。シュウが他の4人を起こそうと結界内へ入ろうしたとき、ふと一筋の光がキャンプに差していることに気がついた。シュウは皆を起こし、その光の方へ歩いて行く。木が段々と減っていき視界が開けた先には、澄んだ青空と強大な魔物が潜む海、煌めく砂浜が広がっていた。




土曜には投稿したかった…

ところで、《魔力感知》の説明はいらないので省きましたが一応書きます。まず、魔力探知は他者の魔力どうしが反発する性質を利用し、エコーロケーションのように魔力を伸ばした反応から魔力を探知します。《魔力感知》は魔力探知の結果を第六感として直接脳に伝える魔法です。
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