転生村   作:もつ煮トリガー

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第50話:思い出を辿って

 転生村に人を招く際は必ず戦いを催さなければならない。これは数少ない転生村の掟の1つだ。別にユメたちは移住しないからシュウは気にもしていなかったが、どうやらウーナの話しぶりからして今回のような場合でも掟は適用されるようだ。ウーナの話し方は遠回しでその真意はシュウも汲めていないが、多分彼はシュウとユメたちを戦わせたいのだろう。

 

 しかし今はそれどころではない。シュウが過去殺し屋であったことが、生き別れの妹とその仲間に知られてしまったのだ。勿論永遠に隠し通そうとしていたわけではない。まだ数日の短い付き合いで信頼関係も構築されきっていない現状では混乱を引き起こすと考える避けていただけで、そう遠くない未来に伝える予定ではあったのだ。

 

「もしかしてシュウ、暗殺者…?」

 

 ユメがそう問いかける。そうだった、と伏目で答える。場を支配した静寂は間もないうちにリヒトが掻き分けた。

 

「わかんないけど、俺たちはいったん離れておくか。俺もちょっと仲良くなったつもりだし、聞きたいけどな。」

 

 リヒトはそう言って、メメと仲間たちを連れて離れていった。

 

「…」

 

「…」

 

「…いいよ、話して?」

 

「いや…」

 

 リヒトたちが離れ、その場にはユメとシュウ、そしてウーナがいた。ウーナがいるのだ。腕を組んで偉そうに突っ立っている。それで「いいよ」とか言っているのだ。彼ならこの世のどこにいても2人の会話を聞き取ることはできるのだろうが、雰囲気というものがある。

 

「一応、離れてて欲しいです…」

 

 あ、そうと言ってウーナは離れていった。空気の読めない神だ。

 

「じゃあ、繰り返すみたいだけど、話して。」

 

 本当に2人きりになったところで、ユメが話を促した。深いため息を吐き、シュウはその場に座り込んだ。

 

「結構、長い話になる。よければ座って。」

 

 そうして、長い昔話が始まった。取り戻してからまだそう長い時間の経っていない、あやふやな思い出を辿りながら、ゆっくりと。

 

 旧暦1837年、当時6歳のシュウはゴレドという貴族に拾われた。正確には攫われたと言う方が正しいが、スラムのような環境から救われたのは確かなことだった。同時に拾われた孤児が30人ほどいた。その中にはシュウとセキのように元々面識がある子供もいたが、その場合は片方の記憶を塗り潰して殺し屋に、もう片方はそのまま衛兵にした。殺し屋の卵として残ったのは20人ほどだった。

 

 シュウは孤児の中でも才能があった。特に魔力操作というただ一点においては歴史上でも類を見ない天才だった。教育係はその片鱗を早い段階で見抜いていた。その後4年間の技術と心得を教えふるいにかける期間で卵は5人にまで減った。その頃にはもう、シュウは教育係の教えた全ての技術を習得していた。しかしそんなシュウにも欠点があった。魔法が1つも使えなかったのだ。普通の仕事なら術札(アミュレット)術板(タブレット)を使えば済む話だが、殺し屋となるとそうはいかない。だが、多くの経験を持つ教育係はこの才能を活かす方法を知っていた。

 

 そしてシュウは他のあらゆる小細工を無視した「急襲特化」の暗殺者としての専用の教育を受けることになった。只管に身体強化と魔力隠蔽の精度を高めさせられた。厳しい訓練の中、植え付けられた理由のない忠誠心と隠された戦闘への興味がシュウの潜在能力を引き出し、《影断ち》というオリジナルの技術が生まれた。更に1年後、11歳のシュウは早くも一人前の殺し屋として活動し始めた。その後の1年間で、シュウは40の任務をこなした。そのうちの1つに、革命を企てる転生者の暗殺があった。その任務は複数人で協力して成し遂げられ、とどめを刺したのはシュウだった。その転生者の独り言は、今も覚えている。

 

「ろくでもない人生から救われたんだ。とうとうツキが回ってきた。」

 

 シュウの任務の話はすぐに国王の耳に入り、シュウは買われた。丁度この頃、転生者が災害を呼ぶとする意見が広まっていて、シュウを買ったのも「転生者狩り」としての任務を与えるためだった。それから「転生者狩り」は密かに続いた。シュウも成長して肉体は成熟し知恵もつき、手強い転生者も時間をかければ1人で殺せるようになった。任務を続けるうちに転生者たちは警戒を強め、次第にシュウにも殺しづらくなっていった。成功率が下がりすぎたため、シュウは目標を変えることにした。

 

「そして、転生村に狙いを定めた。」

 

 ユメは悲しそうな、怒りを孕んだ、笑っているような顔で話を聞いていた。

 

「そこからは、村の人に聞くよ。」

 

 ユメはそう言った。

 

「物心ついた頃にはもう近くにいなかったから、まだシュウが兄だって感覚はない。さっき暗殺って聞いたときには、もしかしたら仲良くは出来ないかもしれないと思った。勿論抵抗はあるけど、まだ付き合っていける。」

 

 差し伸べられたユメの言葉は、シュウの後ろめたさを少しだけ拭った。シュウは話す間、全く表情を変えなかった。泣いたり怒ったりするのは違うと思ったからだ。自分が不幸な目に遭ったのは事実だが、それでも多くの人の命を奪った。そしてその気持ちはこれからも永遠に変わらないだろう。

 

「ありがとう。俺がいい兄になれるかはわからないけど、そうなるように頑張る。」

 

『じゃあ私は、いや僕たちは君らを祝福し、受け入れよう。ユメ、リヒト、セオ、ミオン、ようこそ転生村へ。シュウも改めて迎えるよ。』

 

 心に響いたその神託は、どこかいつもよりも優しげだった。

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