翌朝、ソファの上でシュウは目を覚ます。寝覚めは良かった。
「使うか。」
ソファから足を下ろし、昨晩のナイフを取って台所へと向かう。冷蔵庫から適当な肉と野菜を取って切ってみる。
「流石に包丁よりは切りづらいけど、短剣よりいい感じだな。」
ナイフは包丁と比べて軽い分少し力がいるが、力の込めやすさはこれまで触れてきた刃物の中でも一番で、いつもと違った小気味よいリズムで食材を刻んでいった。楽しくなって少し切りすぎたが、今のシュウなら多少レシピから外れても問題は無い。火加減を調整しつつ手早く料理を終え、ザックが起きてくる様子がないことを確認して食べ始めた。当然味に大した変化は無い。なんなら前回の方が美味しかったかもしれない、普通の出来だった。こうしてサバイバルナイフの初仕事とシュウの小さな挑戦は、何とも言えない結末を迎えた。
またその頃、リヒトたちも同様の目覚めを迎えていた。元は極上のベッドだったとはいえ大した手入れもなしに長い年月が経ってしまっているが、野宿も珍しくない冒険者たちにとってはそれでも素晴らしい寝心地だったことだろう。部屋については、昨晩帰ってきていたメモリアが適当な部屋を男女別に分けて2つ見繕ったのだが、結局片方は荷物置き場に使われた。
「体痛いね。」
「ね。」「うん。」「…。」
温泉と美食で治まったと思われた痛みは、睡眠中に回復が始まってかえって蘇ってしまった。その時、まるでタイミングを見計らっていたかのように戸を叩く音が聞こえた。深く刻まれた暴力の記憶が皆の肉体を硬直させる。もしホムラがこの部屋に入ってくれば、まだ彼女のキャラクターを掴みきれていない皆は一体どのタイミングであれが始まるのかと怯えることになる。メモリアなら一安心といったところだが…
「起きてたか。ホムラは外だよ。」
現れたのは紫、メモリアだった。ホムラは外という言葉を聞いてリヒトたちは安堵した。続けてメモリアが話をする。
「君たちが夕飯をとっている時にホムラから話を聞いたよ。若くて筋がいいって凄く褒めてた。今日はもっと戦い方を見るつもりで手加減するらしいから、頑張ってね。」
おや、何やら雲行きが怪しい。どうやら今日もやるようだし、メモリアも別に彼らの味方というわけでは無さそうだ。彼らはなかなかお人好しなのと職業柄から一宿の恩がある相手の希望に答えない訳には行かない。まあ、昨日よりも手加減をしてくれると言うしいいだろうと自らを納得させ、朝食を摂った。
「うわっ」「ぎゃ」「ぼ」「びゃっ」
朝食と各々のモーニングルーティンを終えリヒトたちは裏庭へ出た。結果は何も変わらなかった。強いて言うなら、ダウンまでの時間は3倍ほどに増えていた。元が30秒も無かったことを踏まえるとこの変化を大きいととるか小さいととるかは個人の感覚に任せよう。また、結果こそ変わらなかったがその過程には多くの実りがあった。冒険者が普段戦うのは力は強いが知能の高くない魔物か知能はそれなりに高いが比較的力の強くない賊だ。一方、ホムラは圧倒的な力と高い知能を有し髪の毛1本の付け入る隙もない。その一挙一動の全てが戦闘における合理の極みを纏っていて、更に内には合理を破壊する暴力が宿っている。それはホムラの天性の才覚に由来するもので彼女はこれを他者に伝授することは出来ないが、優秀な人間が見て学ぶことが出来る程度に力を抑えることならできる。
リヒトは単純な拳撃と斬撃に宿る力を、セオは補助的に使われる様々な強化魔法の数々を、ミオンは視線の動かし方や聴嗅覚野の確保を、ユメは大きな魔法の緻密な操作をと、それぞれの得意とする分野に通じる部分をホムラから読み取っていた。昨日感じたあまりに隔絶した強さの塊と自らの持つ見慣れた強さの間に今日この日、道ができたのだ。それから、ホムラは一通りリヒトたちを褒めて家に帰って行った。取り残されたリヒトたちは、今目にしたものとそこから湧き出た感動を同時に話し始めた。時々声が被りつつもそれぞれがそれぞれへ自分の見た現実を口にする。にして、そのうち太陽が真上に登った。
時は戻り、ザックの家で朝食を摂り終わったシュウはナイフの手入れも済ませてリムの家へ向かった。理由は幾つかあり、少しぶりに会いたいというのもあるのだが、最も大きい理由は《ステータス開示》をして貰いたかったからだ。リムの《
最近のシュウ料理ばっかりしてるな。だがそれも悪くない。