転生村の北西部にある小さめの闘技場のような場所で、シュウはリヒトたちからそれぞれの技術を学んでいた。ここに来る前にホムラは一つだけ、「基本がなっていない」という助言をシュウに与えている。実際、シュウの戦闘術は暗殺術を転用した動きがほとんどで、そのような動きは特に一対一の戦闘においてあまり良い動きとは言えない。リムとの模擬戦等から見様見真似で形にはなっているが、根本的な考え方が定まっていないのだ。そしてその分野に関して、リヒトとセオはプロフェッショナルと言って差し支えない。リヒトは威力の高い魔法と魔力強化、高い身体能力を組み合わせた攻撃重視のスタイルで、セオは多彩な魔法によるサポート重視のスタイルであるため、どちらともそのままではシュウには真似できないため2人は説明に頭を捻ることになったが、最終的には2通りの剣術を教えるということに決まった。
「一応、流派としては2人ともシャロル流ってやつだ。基本は魔法を使うことを前提としたものだが、シュウでもできそうな技も多いし本当に基礎的な部分は覚えといて損は無いと思う。」
授業はセオの言葉から始まった。シュウはリヒトの剣を借りてセオの話を聞く。
「同じシャロル流でもセオと俺のだとハバツ?が違うんだっけ。俺は魔力強化を大事にしたやつで、セオが魔法を大事にしたやつ。」
リヒトの言葉に、セオが補足する。
「そうだな。俺がニール派、リヒトがミール派。シュウはニール派が似合うと思ってたんだけど、魔法が使えないならミール派寄りになるのかな。」
もう少し話が聞きたい、とシュウが続きを求める。
「ニール派の育成方針は"剣を持つ魔法士”だ。うちはユメが優秀だから俺が魔法士としての役割を持つことはほとんどないが、ニール派の本質は魔法にある。初級と下級の魔法は一度は一通り使えるようにさせられるし、中級魔法も幾つかの系統をしっかり扱えるようにしなきゃいけない。俺の場合は冷気と振動、空気弾の魔法だな。魔法と剣を組み合わせて近接戦闘を行うか魔法のみで後方支援を行うかの判断を始めとして様々な選択と判断を即座に行う必要があるから、冷静で観察眼のある人間が向いているとされている。だから、性格的な面ならシュウは向いていると思ったんだ。」
セオの説明はシュウにもわかりやすかったようで、うんうんと頷いている。続いて、ミール派の説明が始まった。
「一方、ミール派は"魔法も使える剣士"、まあ、まさに魔剣士って感じだ。ニール派とは違って魔法の習得は初級を一通りやったらあとは1つの系統に特化するって感じだったよな。」
そうだぜ、とリヒトがセオの問いを肯定する。
「だそうだ。リヒトは光の魔法を使う。基本的にはより速く、より強く斬撃を叩きこむという戦法だ。リヒトは先生がグリーグ流という魔力強化しか使わない古流剣術の系譜だったこともあってかなりその傾向が強い。とまあ、こんなところか。」
なるほどなるほどと、シュウが相槌を打つ。確かに聞いた話によると、シュウが習得するのであればミール派に近いものになるだろう。シュウが納得したところで、2人によるシュウへの剣術レッスンが始まった。最初は剣の握り方、足の構え方、重心の置き方など、本当に基礎的なところから始めた。ここはシュウの観察眼を活かして、リヒトが実演しセオが理論的に解説することで効率的に学んだ。その後日暮れまで練習は続き、流石に習得とまではいかなかったがそれなりの動きができるようになったし動きは一通り覚えることができた。
翌日も引き続き基礎の練習をしたが、明後日に迫るホムラとの戦いに備えて付け焼刃でも技術を身に付けるべきだと考えてその練習も並行でし始めた。剣の扱いにはなんだかんだすぐに慣れて、傍目には短剣と遜色ないレベルにまでわずか一日で至った。あまりの成長速度にリヒトとセオは驚いたが、同時にもっと教えたいとも強く思った。その日の昼食は、2人の要望でシュウに作ってもらうことになった。
「シュウが料理教わったって言ってた人、あのビリーっておっさんだろ。」
「そうだよ。」
「どのくらいかかった?」
「1か2ヶ月くらいかな。あんまりよく覚えてないな。」
「この村で一番強いのって誰?」
「ウーナだと思う。戦ってるところ見てないけど、他の強い人たちはみんなそんなこと言ってるから。」
料理の作業中は、セオとリヒトが交互にシュウに質問を投げかけ、それに淡々と答えるという繰り返しだった。
「できた。ラーメンだ。リムが言うには、異世界の俺らくらいの歳の男はみんなこれを食べるらしい。」
「へえー。汁多いタイプの麺類か。」
「俺麺類あんまり食べたことないな。」
3人分をよそい終えて、Billy's Kitchenの食卓に皆で座る。
「リヒトって筋肉凄いよな。流石に筋トレしてるよな。」
「ありがとう。ちっちゃいころは瘦せててさ。ちょっと待ってて。」
シュウは何気ない会話を始めたつもりだったが、リヒトはわざわざ席を立って何かを持ってきた。
「これが最初のダンベルだ。あの頃はこれ持ち上げるのもきつかったんだ。」
「持ってみてもいいか?」
「いいよ。」
リヒトがダンベルを手渡す。
「ああ、割と重いな。これ使ってたの何歳だ?」
「もんぐぉお。」
「飲み込んでから喋ってくれ。」
ほおばりすぎたリヒトはしばらくもぐもぐとしていた。
「5歳。」
「5歳!?」
「ああ。年齢もあって筋肉が全然なくて、大人たちに憧れて筋トレ始めたんだ。」
「なるほど。凄いな。」
「それから使ったダンベルいつも持ち歩いてるんだよ。」
シュウが固まる。さっきまで上手に啜っていたのに、麺が口から零れ落ちてしまった。
「全部?」
シュウがそう聞くが、リヒトには質問の意図がわからないようでぼけっとしている。ただ、その反応は実質的なYESだ。そのやり取りを見ていたセオは、ただ静かににやにやしながら麺を口に運んでいた。
また料理してる…リヒトのダンベルは0.5kgから始まり、1kg、1.5kg、3kg、5kg、12kg、20kgと言った感じで、今飛んで40kgです。