「さて、始めようか。」
早朝、高く筋の通った声が広い闘技場にこだまする。そこに堂々と立つのは明るい赤髪の似合う力強い体躯の女、ホムラ=シエン。その瞳には、幾千年の間衰えず輝く闘志の光が宿っている。それに相対するのはシュウ。彼の才能と挑戦への期待とそれらに匹敵する不安は見た目には分からず、在るのは静かに戦場を見据え足を運ぶ戦士の姿だった。
先手は当然、シュウだった。小さな踏み込みから低姿勢での急接近と同時に携えた剣による大振りの一撃が繰り出される。しかし、まだ慣れきらない剣を扱うシュウの動きには大きな隙が散在していた。ホムラはそれを許さず、膝蹴りをシュウの顎へと打ち込む。ただでさえ身体強度には格段の差がある上、人体から繰り出される攻撃の中でも特に強力なものが、急所に当たる。そして、シュウは初撃に倒れる…ことは無かった。セオの話によれば、ホムラの動きは洗練されていて少なくとも今のシュウでは見てからの反応は難しい。彼女を目の前にしてその動きに注視すればそれが事実であることなど一瞬で理解できた。そこでとった手段は、至って基礎的な受け身というものだった。魔力強化で衝撃を吸収するとき、ただ吸収するのではなくその一部を自身に伝えて当たり前に吹き飛ばされる小手先の技。加えて、敢えて隙を晒し反撃を喰らうタイミングを用意することで、ホムラの速度に対してもこれを可能にする。
「なるほど。付け焼き刃だが基礎はできてるようだな。だけど、それはこういう状況だとあまり意味が無いだろ。」
その指摘に、間違いは無い。この方法では敵から離れてしまうため反撃によるダメージを抑えられても攻撃はできず、1対1で逃げられない状況では時間稼ぎも意味は無い。しかし、シュウはそれを承知の上でもう一度同じことを繰り返す。彼が何かを企んでいることなど明らかだが、ホムラは敢えて先程と同じように攻撃を返した。剣先は先程よりもホムラの皮膚へ近づいたが触れることすら叶わず、再び2人の間に距離が生まれた。その時、ホムラは一瞬だけ落胆した。こんなものか、と。しかし、視界に映るシュウの表情は彼女の戦闘好奇心を湧き上がらせた。
「《影鍼》」
シュウの一言とともに、ホムラのふくらはぎに赤い筋が浮かび上がった。微かな痛みに、ホムラが視線を僅かに落とした。
「さすがにホムラにはあの程度…でも効いた!!」
ホムラの視野の動きを見抜いたシュウは、頭の中で呟きながら《光の矢》を発動する。放たれた魔力の矢は発光しながらホムラへと飛来する。ホムラは火炎でそれを相殺し、魔力の塊で隠された《貫く矢》を弾いた。
「いいセンスだ。次はこっちから…《
ホムラが地に足を突き立てると同時に、そこから火炎が湧き出して付近を覆っていく。こうなると、シュウはさらに距離をとるしかない。しかし中遠距離ではシュウにホムラに対する有効打は無い。
「《
こうなると、ホムラが馬鹿みたいに火球を連射するだけでシュウはひたすら追い詰められていく。シュウにできることは元々少なく、この状況ではもうたった1つしか選択肢はなかった。
「はっ!」
シュウは跳躍した。当然ホムラは攻撃してくるが、練魔石の腕輪と《衝撃波》による強引な空中制動で被弾を最小限に抑え、突っ込む。しかし、《
「今回の戦績は
ホムラは自分の右足を指して言う。すみませんと謝るシュウにホムラは有難い言葉を授けた。
「すみません、か。確かにお前は私の期待を超えないどころか、それ以下だった。ザックもリムもやけにお前を褒めるから、直に見た訳でもないのに買い被ってしまったらしい。だけど、全部がそうじゃない。戦いに対する熱は私の想像を超えていたよ。《
ホムラはそう言って、シュウの手を離す。シュウが感謝を述べようとしたその時、地下から轟音が鳴り響き、地面が割れた。その割れ目から、ユメが浮遊し現れた。
風邪気味です