朝目覚めると見知らぬ天井が視界を覆った。寝起きだが目ははっきりと覚めている。おもむろに体を起こして辺りを見渡した。
「俺の部屋、か。」
そっとベッドから降り、部屋の中を無意味に歩き回る。小窓から外を見ると空は仄暗い。まだ、日は昇っていないようだった。少し起きるのが早すぎたかな、と呟きつつ梯子を降り、ザックの眠っている寝室を覗く。彼はまだ寝ているようだった。そのまま静かに歩いて、居間の椅子に座る。
居間の壁には世界地図や毛筆で描かれたらしい絵画が飾られ、棚には彫刻や大量の書物が置かれていた。昨日聞いた話ではザックは十三番目の転生者で《隠れ蓑》の力によって四千年程の時を生き、その長い年月で様々な趣味に挑戦したらしい。これらはきっとその名残だろう。数分の間、ぼーっとザックの長い人生について思いを馳せていた。その中で、とあるものが目についた。
「写真...?」
少し不機嫌そうな顔をしたザックと思しき深緑の髪の青年と爽やかで明快な笑顔を浮かべる同じくらいの年頃の男、優しそうな笑顔を浮かべる魔法使いらしき女性、身長の高い戦士のようなおっさんが肩を組んでいる写真だった。3000年前のものだろうが、その時代にこれだけ綺麗な写真があったのかなどと考えたが、わからないので深く考えないことにした。そのとき、シュウの脳裏にある物が浮かび上がった。
「あ、忘れ物した。」
シュウにも実は、大切にしている写真がある。自分が拾われたときに貴族に撮られた写真だ。なぜ撮られたかは本人も覚えていないし、あの貴族はとても嫌いだが、それでも自分の存在を証明する数少ない品だった。置いてあるのは最近隠れ家にしていたトゥテルのとある宿屋の一室だ。王国の中心部からはそれなりに離れているので、素早く行動すれば問題はないだろう。そうと決まれば、シュウの行動は早い。冷蔵庫からちょっとした食べ物を出して朝食を摂り、愛用のいつもの装備を用意し村の出入り口に向かう。ザックの言うことには、村を取り囲む拒絶結界と隠された転移結界はどちらも村の住人であれば素通りできるようになっているらしい。門をくぐると、小柄な黒髪の少女、カンナがいた。左腰に一本、背中に一本の剣を携えている。
「あ、あの、着いていきます。国に戻るんですよ、ね?」
「そうか。ありがとう。理由を聞いてもいいか?」
カンナは黙って首を横に振った。そもそもシュウが国に戻ること自体、さっき思いついたことで知ることなどできないはずなのだが本人に語る気がないのでは仕方ないと、害意も感じられないので余計な追及はしないことにした。
「じ、じゃあ。」
彼女もあまり話す気はないようで、そう言ってすぐに走り始めた。あまり運動能力の高そうな見た目ではないが、第一印象とは当てにならないもので彼女は魔力強化をしたシュウと同じくらいの速度を楽々と出していた。段々加速するカンナに置いていかれそうになったシュウは移動用の
そんなこんなで、昼前には王国を取り囲む高い外壁にある西門に着いた。辺境からたった2人で来る人物が国に入ろうとすれば不審がられるに決まっているため、シュウは仕事で使っていた隠し通路を使って関門を避けて侵入した。わいわいと活気づいた大通りを少し歩き、宿屋に到着する。
「随分、長く離れていた気がするな。」
そんなことを誰に言うでもなく呟いて宿屋に入る。主人に契約書を見せて鍵を借り、階段を上がって部屋の前に着いた。カンナは扉の横で壁にもたれて座り込んだ。話しかけようかとも思ったが、道中さんざん無視されてきたためそんな思いはすぐに失せた。
扉を開けると、数日前、最後に居たときと全く変わらない様子の部屋がそこにはあった。真っ直ぐに写真の入れてある棚へ向かう。棚の中にはシュウが1人で写った目的の写真と、数枚の術札が入っていた。それらをまとめて鞄に入れ、他に持ち帰る物がないか探す。お気に入りの靴下とシャツ、少量の砂糖菓子が見つかりそれらも鞄に入れた。
もう用はなさそうなので、他の物は全てまとめて宿屋の主人へ引き渡した。カンナに用が終わったことを伝え、ここで何かやりたいことがあるのか聞いた。カンナは、特にないです、終わったなら帰りましょうと提案した。じゃあなぜここまで着いてきたのか殊更疑問だが、どうせカンナは答えない。
「まあ、じゃあ帰るか。」
大きめの声でそう言って、宿屋の主人に部屋の鍵と契約書を返す。これでこの宿屋とも決別できた。そこから、少し早足で隠し通路の方へと向かう。カンナは黙って着いてきていた。隠し通路の仕掛けを起動し飛び込む。シュウは手早く隠し通路の扉を閉める。
「誰かに追跡されている。帰る前に撒くか撃退しよう。」
その言葉を聞いたカンナは少し表情を固くし頷いた。
次回はバトルありです!明日か明後日に投稿する予定です。