割れた地面からかっこよく登場したユメは、ついさっき手に入れた魔法の杖をホムラへ向ける。ユメが指の先と手のひらから魔力を杖に伝えると、凄まじい速度の《貫く矢》が放たれる。突然の出来事だったが難なくホムラは反応し魔力密度の高い炎でそれを弾いた。
「それ、トリアに貰ったのか?使える?」
ホムラの問いかけに、ユメは首振りでイエスと答える。しかし全身に装備された数々の未塗装の魔導装置の連携は、見てわかるほど不安定であまり余裕はなさそうだ。
「ホムラ、あんなのが来てるなら言ってくれればいいのに。お前もだシュウ。いやあしかし、説明もろくにしてないのにあれをあそこまで扱えるというのは凄い魔法能力だよ。」
「お前がそこまで言うとは。だけど確かに気に入りそうだ。」
さて、とトリアが少し緩んだ表情を引き締め、改めて切り出す。
「あの装備の本格的な運用は今回が初だ。だからこそ、ブッ壊すつもりでやってくれ。」
「ユメもね。」
ユメはまた無言のまま首を縦に振った。そして、また蚊帳の外になっている男が一人佇んでいた。
「俺、はけた方がいいですか?」
彼は自分がここに不必要だと感じていて、しかしトリアの考えなどわかるわけもないので勝手にどこか行ってしまうわけにもいかず、隙をついてそう聞いた。
「いや、せっかくならお前もかかってこい。まだ
ホムラの有無を言わさない物言いに、その場の全てが気圧された。実際、だれにとっても悪いことじゃなかったのでシュウは早くも再戦の機会を得た。
「じゃあ、私が見ているよ。あと、開けた地形より…」
トリアがそう言うと、割れた地面が閉じて急速に土砂が生成され凸凹した地形が発生した。
「こっちの方がやりやすいだろう。」
それを見たホムラは強く笑み、声を張り上げた。
「じゃあ、始めだ!!」
こうなれば話すことなどもうない。戦いの火ぶたはシュウとユメが放った《貫く矢》によって切られた。不意の攻撃だがこれまでと同様にホムラは高密度の魔力を孕んだ火炎でそれを弾き、そのまま2人に火炎を浴びせる。シュウは近くの岩陰に隠れ回避したが、ユメは回避が間に合わず直撃してしまった。
「ユメ!」
シュウが声を上げた瞬間、炎は渦を巻いてユメを避けるように後ろへと流れていく。風魔法《風傘》は通常、威力の低い直進性の遠距離攻撃に対する防御手段として使われる。威力の高いものは軌道を変えきれず、炎のようにうねるものは回り込んでしまい完全には防げない。これらは魔力強化や相殺系の防御魔法で受けるのが定石であり、これまではユメもその定石に則っていた。しかしホムラは定石通りで勝てる相手ではなかった。模擬戦中には1度も上手くいかなかった
「”背面、防御魔法”!」
ユメの声と同時に、その背に装備された装置が防御魔法を展開する。《風傘》によって後ろに流してその量を減らし、流しきれなかった分や回り込んでしまった分を防御魔法で防ぐ。本来ユメにはできなかった芸当だが、トリアに与えられた新装備が《風傘》と防御魔法の同時発動と制御を可能にした。
「”
短い詠唱に呼応して装備が《風傘》の発動を維持し、ユメは生まれた余裕で風傘を前進させる。魔力の配分を少しずつ防御魔法から《風傘》へと偏らせ、そのサイズと威力を高める。防御用の魔法である《風傘》もここまですれば攻撃力を持ち始める。少しだけユメへの集中を高めたそのとき、高速で接近する気配にホムラは気づいた。ホムラに基本的な能力で劣るシュウの基本戦術は、ホムラに生じる普通では突けない様々な隙をその精密な魔力操作と戦闘センスで強引に突くというものだ。先程も浅いとはいえ傷を負った。
「《
死角から迫るシュウの気配を確実に捉えたはずのその一撃は、空を切った。
「かかったな!」
その声は、ホムラの左後ろから聞こえた。魔法を用いない気配の誤認、ホムラはそういう技を知っていた。しかし、それができたのは彼女の知る限りでは2人のみ。しかも、シュウのそれはその2人と比べてずば抜けた精度だった。
「リヒトたちに聞いたんだ。強い戦士は魔力探知を使わなくても魔力を少しだけ感じられるって。今はユメの魔法のせいで魔力探知が効きづらいだろ?じゃあ、ホムラでも引っかかると思ったんだ。」
「確かに引っかかった。だが、これをするために魔力を全部分離させたな?つまりお前は」
その時、ホムラは飛来した巨大な氷塊を片腕で受止め、一瞬のうちに蒸気にした。
「これ待ちだ。」
ユメは超大規模の魔法を使ったせいで急激に魔力を失い、小さなショック症状を起こしてふらつき地に落ちた。シュウも勝機がないことを悟り、その場で膝をついた。
「まあ、合格かな。」
ユメとシュウの2人は思わず「何が?」と言った。それを聞いたホムラはニヤリと笑って2人に背を向け、数秒の沈黙の後口を開いた。
「ホムラ流戦士テスト、合格だ。」
ユメとシュウの2人は思わず「何?」と言った。それを聞いたホムラは高らかに笑うばかりだった。
スーツが無くては何も出来ない者に、スーツを着る資格はない。