リヒトたちの防衛任務にて、彼らの間に久方ぶりの緊張が走っていた。「七光りの守護神」の噂が夜に出回る中でその王城へと侵入しようとするということは、よほど腕に自信があるということだがあるということで、ユメの《魔力感知》によれば並外れた魔力量や操作精度を持つわけでもないという点が、むしろ不安の種となっていた。
「皆、俺の探知にもかかった。確かに静かな魔力だ。位置を特定する。リヒトは俺の魔力を追ってくれ。」
「わかった。」
セオが侵入者の魔力を発見したことにより、状況が動き始める。目標もセオ達の追跡に気づいたようで、動きが素早くなった。セオは身体強化魔法を、リヒトは魔力強化を使ってそれに着いていく。追跡中、2人の連絡を聞いていたミオンがある違和感に気づいた。侵入者は王のいる王城の主区画ではなく、北側のユメのいる方へと逃げているのだ。しかも闇雲に逃げているのではなく、的確に他の守衛を避けている。ミオンは気づくとすぐにそれを皆に伝えた。誰1人として侵入者の目的に気づくことはなかったが、不快な胸騒ぎだけは確かに生まれていた。しばらくの逃走の後、侵入者は急に停止し、そして
『わっ!こっちに…』
「ユメ!?セオ飛ばして!!」
リヒトがそう叫ぶと、セオはすぐに念動魔法でリヒトをユメのいる部屋の方へ吹き飛ばした。リヒトは渡り廊下に転がり落ち、そのままの勢いでユメの部屋へと突入した。そこにあったのは、ベッドに倒れるユメと、その隣に佇む侵入者の姿だった。リヒトは拳を握り侵入者を睨んだが、敵は笑顔を見せて言った。
「君、リヒトくんだね。このパーティの勧誘に来た、"英雄級"冒険者のアベリアだ。侵入という雑な手段をとったのは私としては不本意だが、国王陛下に話したら面会手続きなどと言われて面倒だったんだ。許してくれ。」
侵入者は、アベリアはこの状況で流暢にそう語った。その素振りはテリアレスなど比較にならないほどに上品で、よっぽど高貴な者としての格を感じさせた。しかし、だからこそリヒトは油断できなかった。お前は賢くないから、騙されないために必ず疑えというセオとミオンの言葉を思い出す。しかし、相手の言葉が本当であれば彼は英雄級、パーティ全員で戦っても勝率は五分を切る相手だ。リヒトはリーダーとして決断する。
「話を聞こう。」
「よかった。君が面倒な人じゃなくて。」
その頃、シュウは新米級の自分にちょうどいい依頼を見つけ、それを受注して目標地点へ移動する最中だった。依頼内容は「タロ村南東の魔物の巣の定期掃討」、魔物との戦いは新米級1人で行くことは推奨されないのだがシュウは試験の時に高い戦闘能力を見せつけたためなあなあで許可された。
「地形は洞窟か。魔物山は洞窟2個しかなかったから、どういうのがいるか楽しみだな。」
冒険者証章で安乗りした大車に揺られ、シュウはそう呟き浅い眠りについた。その様子を伺う者が、すぐ側に知らずに。
「君は…少し面倒そうだ。」