転生村   作:もつ煮トリガー

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第63話:勧誘

「こんなものかな。」

 

 洞窟の魔物を殲滅したシュウは手をはたきながらそう言った。この依頼はシュウの想像よりも何十倍も楽で、洞窟から現れたのは強くて魔蟲級程度の雑魚多数。シュウは練魔石の腕輪でそれをまとめて捕縛しサクサク倒した。シュウに受注許可が下りたのは、その実力が認められていただけではなく依頼自体の難易度の低さもあったのだろう。手応えは無いがこれで冒険者としての第一歩を踏み出したわけで、シュウには中々嬉しいことだった。取り逃しはないはずだが、念の為魔力探知で魔物が残されていないことを確認する。その時だった。

 

タ、タ、タン。

 

 3度の破裂音が鳴り響き、シュウの左腕に穴が空いた。これは、銃だ。シュウはウォンロードでの戦闘を想起し、音の正体を推測する。左腕の出血は練魔石を平たく練って布を挟み強引に止めたが、下手に動かせば命に関わるとシュウの暗殺の経験が告げていた。

 

「こんにちは。君がシュウですね。スカウトしに来ました。」

 

 現れたのは、優雅で気品のある男だった。

 

「スカウトなら断る。俺はもう"探求者の集い"の所属だ。」

 

 間髪入れずにシュウは答える。すると、男の顔から笑顔が消えた。

 

「失敬、自己紹介がまだだった。私は"P・G(プレイヤーズ・ギルド)"所属の英雄級冒険者、アベリアです。断ると言う前に、話だけでも聞きませんか?」

 

 アベリアと名乗った男はそう続け、1歩だけ歩み寄った。

 

「これはお前がやったんだろ。人を撃っておいて勧誘ってのは、無理な話じゃないか。」

 

 確かに、とアベリアは答えた後、さらに1歩歩み寄ってこう続けた。

 

「しかし、あなたはもしかしたら私より強いかもしれない。その傷があれば、あなたがどれだけ強くても付け入る隙が生まれるでしょう?」

 

 アベリアの顔に、再び笑みが宿った。その立ち居振る舞いは、一見先程と変わっていないように見えるがシュウは彼の僅かな重心の変化に気づいていた。その変化は僅かなものでありながら、シュウにとっては勧誘を断れば命を奪うという脅迫の意に等しい。シュウは敢えて、一切隠さずに右手で剣を構えた。それはアベリアに、拒否として伝わる。またアベリアは笑みを崩した。

 

「あぁ。面倒だ。」

 

タ、タン。

 

 ほとんど同時に鳴り響いた2()()の銃声。しかし銃弾はシュウに当たることはない。

 

「やっぱり、分身か。」

 

 シュウは木の枝から見下ろしながらそう言った。その目には、今まで会話していたアベリアに加えて、もう3人のアベリアがいた。そのうちの1人は手に軽い傷を負い銃を手放していた。シュウは跳躍と同時に、自分が喰らった銃弾の方向へ洞窟で拾った石を投げつけていたのだ。アベリアたちが銃を構え直す寸前、シュウは再び跳躍してさっきまで会話していた本体と思しきアベリアへ急接近する。例えこれが本体でなくとも、分身が近くにいれば銃は使いづらいだろうと、そう考えていた。しかし、

 

タ、タン。

 

 銃声はまた鳴り、シュウの右手と左足をかすめた。シュウは体を捻って振り向きながら着地をし、目の前にいたはずのアベリアが跡形もなく消えていることに気づいた。

 

「あれも分身、しかも消せるのか。」

 

 茂みの奥に見える3つのアベリアの影は細身の長剣を構え、同時にシュウの方へと迫った。シュウは左側から迫るアベリアだけが僅かに早く動き始めたことを見逃さなかった。剣を右手に持ち変え、左手は短剣へ。少し無理はあるが、中央のアベリアの初撃を右の剣でいなし、一瞬のうちに左の短剣で本体を刺す。これがシュウにできる最前の選択だ。思考がまとまった時、中央のアベリアの初撃が襲いかかった。痛む腕を魔力強化と練魔石の腕輪で強引に動かして剣を弾く。左の初撃は短剣で受けて流す。いける、そう思った瞬間、また目の前のアベリアは跡形もなく消えた。これも分身だ。シュウは第2の策へ移行する。左側を大きく迂回したその先には、魔物の巣であった洞窟がある。魔物が掃討されても尚、魔力が多少澱んでいて魔力探知を妨害でき、狭い内壁は長剣を振るうことを妨げ1対1の戦闘を強制できる。右手の剣を捨ててシュウは全力で駆け、洞窟へと滑り込んだ。

 

「来いよ。《貫く矢》、今度は全員ブチ抜いてやる。」

 

 追ってきた2人のアベリアに、シュウが荒い口調でそう言い放つとアベリアたちはその場で消えていった。本体はそこにいなかったということだろうか。なぜあっさりと撤退したのか。心に凝りを残したまま、この戦いは幕を閉じる。

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