シュウは人の少ない食堂で静かに驚いていた。不味いからやめておけと言われた食堂の飯は、意外にも美味かったのだ。確かに珍しい味付けではあったものの、少なくとも不味くはないと感じていた。たまたま自分の口に合っただけなのかもしれないと考えつつ、シュウは食堂を後にした。あと、一応受付の人におすすめされた"タルタ飯"にも行ってみた。こちらは確かに大衆向け、こういうのでいいんだよと言った雰囲気の飯が並び、カレーもあったので頼んでみるとやはり美味い。しかし食べ比べてみても、食堂が圧倒的に劣るとは思えなかった。少しもやもやした気持ちは残しつつも、美味い飯を食べられたので満足して本部へ戻る。帰りはちょうどいい大車がなかったので、次の大車が来るまでは歩いて行くことにした。
道中は平和そのものだった。転生村やリエル森林のようにその辺を歩けば魔物に遭遇するというのはかなり異常でこれが普通なのだが、普段からそういう状況に置かれ続けていると少しそわそわするものだ。小一時間も歩けばそんな違和感も消え去り、シュウはのどかな風景を楽しむようになっていた。"探求者の集い"支部から離れるほどに民家は少なくなり、だんだんと手入れされていない田畑が目立ち始めた。それを見たシュウは入会の際聞かされたこの辺りの過疎化についての話を思い出していた。雰囲気のいいところなのに人がいないのは勿体ないとか、人が増えると風景が見れなくなるかもしれないとか、そう言ったことを考えながら歩くうちにシュウは放棄された田んぼの中に不思議と興味を惹かれる何かを見つけた。そこに水は引かれておらず拾い上げても汚れなさそうだとシュウはそれに近づき手に取った。
「見覚え…ないな。」
それは茶色で丸く柔らかい、一見すると泥の塊のようだった。それが泥でないとわかるのは、手にとっても崩れたり、泥だらけになったりしないからだ。また、魔力探知がわずかだが反応するのもこれが普通の代物ではないことを示している。
「とりあえず本部に預けるか。」
シュウはそう呟いてこれを鞄にしまい、また歩き始めた。少し不安だったので、その間魔力探知は切らさなかったが幸い何事もなかった。それから少し経って、"探求者の集い"本部行きの大車が通りかかったためそれに乗った。大車の中は行きのときよりも混んでいたが席はいくらか空いていて、シュウは座って本部まで行くことができた。着いた頃にはもう日は完全に暮れていたため、本部近くの宿で一晩を過ごした。
翌日、シュウは昨日拾った謎の物体を持って本部に行った。最初に見たときは何とも思わなかったが、支部と比べて本部は大きく威厳があった。不思議と少し緊張して中に入ると、受付のカイナが出迎えてくれた。シュウが物体を取り出して説明を始めようとすると、カイナは待ってと言って受付の裏へ走って行ってしまった。何か大変なものを持ってきてしまったのかもしれないと考えながら言われた通りに待っていると別の女性が扉から出てきた。物々しい雰囲気だったが気にせず言われた通りに待っていると、その女性はシュウの手から例の物体を取り上げて一言も発さず去っていった。冷たい印象のその女性と入れ替わりでカイナがバタバタと駆けだしてきてシュウの前で止まった。
「大丈夫ですかシュウさん。体に変なところはありませんか?」
焦ってそう聞くカイナに大丈夫だと言い、落ち着いたことを見計らって詳細な説明を求めた。カイナは受付の仕事があるから掲示板の右下を見てくださいと言った。シュウは少し寂しくなった。