転生村   作:もつ煮トリガー

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第67話:誰だ

 残り2人の子供は2階の1部屋にまとまって倒れていた。こちらにもやはり遊魔の卵はなく、移動中にもそれらしき魔力は見られなかった。この件に遊魔の卵が関わっているというのは杞憂だったのだろうかと考えつつ、シュウは2人の対処に移った。魔力の状態は先程対処した3人と同じで、救助は作業的に行えた。

 

 その最中、冒険者らしき魔力が家に入って来た。驚くような声や動き、魔力の集中状態などから下で倒れている子供たちを発見したのだろう。シュウは子供たちを外に運び出すのだろうと思ったが、それはまるで魔法を放とうとしているかのように魔力を波打たせていた。胸騒ぎがシュウを戦かせる。目の前の2人の対処は完全では無いが、既に命の危機は逃れている。全身に魔力を漲らせ、薄く濃く纏い、高速で跳躍する。ここは大きな屋敷で構造が複雑なため最初は迷ったが、もう問題ない。壁を蹴って長い廊下を一瞬で通り抜け、天井を蹴って階段を下りる。視界の端に子供たちのいる部屋と、そこにいる人影を捉えた。

 

「誰だ!!」

 

 シュウの声に、人影は素早く振り向いた。その表情や反応速度から、シュウは微かな気味の悪さを感じたがそれは今問題では無い。人影が既に剣を抜いているという事実こそが、シュウに最悪の事態を想起させた。人影はまだ声をかけられたことに驚いたためか硬直している。シュウはすぐさま腿からナイフをとって投げつける。

 

「い、いたい!!」

 

 剣を持っている方の手に的確に命中したナイフは敵の握力を充分に奪った。しかし、この期に及んでいたいなどと叫ぶ余裕があるとはなおのこと不気味だ。次の行動は接近、続き体術による制圧だ。床に組み伏せられたその者は、いきなり気絶した。

 

「え、おい大丈夫か。」

 

 シュウは殺さないための体術にあまり慣れていなく、一瞬本気で殺してしまったのではないかと焦ったが幸い息はあった。しかし、魔力の状態がおかしい。子供たちに似た魔力の異常があった。それも、より衰弱した様子だ。シュウは一層冷静になり、先ほどまでと同様の処置を施す。が、間に合わない。口から泡を吹き、気を失った。こうなると魔力の調整では解決できず、つまりシュウの手出しできる領域を超えたということだ。シュウは反射的に脈をとり、その命が段々と終末へと向かっていることを知った。シュウは瞬時に処置が未完了な子供たちの元へ向かうべきだと判断した。しかし体は動かなかった。今足元に倒れている人物は、子供たちを殺そうとしていた、かもしれないのだから例え死んでも。シュウの思考はそこで停止した。この男が殺人者だからといって、死んでいいのか、自分は生きているのに。そもそもこの男は子供たちを殺そうとしていたのか、自分の勘違いだったのではないか。シュウの脳内は戸惑いに満たされ淀んだ。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 その声は大きな邸宅によく響いた。声の主は廊下から覗いて素早くシュウとその周りの様子を確認し、魔法を行使した。その瞬間、気を失っていた男の脈拍は急速に回復して元のように戻り、目は覚まさないもののその様子は気絶というより睡眠に見えた。他の人達の魔力も正常に戻っている。そして驚くべきことに、強く保っていたシュウの魔力すらも絆され、緊張が解けて眠気に襲われ、そのまま寝てしまった。

 

 

 

 シュウが目覚めたのは、知らない部屋だった。外を見るとまだ日は登りきっておらず、あの家に入ってからそう時間は経っていないようだが魔力はすっかり回復していて疲労もなく、仄かな違和感を抱いた。シュウは窓から見える景色から、ここがあの家の一室であることに気づいた。魔力探知をするとシュウが倒れる前と大きく変わった様子は無いが、彼らの身に起こっていた魔力の異常はやはり解決されている。

 

「遊魔がこんなとこまで出てきたなんて…君は無事なようだけど随分魔力が静かだね。あんまり静かだから僕の《慈愛の日》の感触が変な感じしたんだ。倒れてたみんなも僕が治したよ。」

 

「…誰だ?」

 

 いつの間にか部屋の入り口に男、というより少年が立っていた。たった今魔力探知を使っていたのになぜか彼の存在に気づけなかったことから少年に対する恐怖に似た感情を抱きつつも、その人畜無害そうな顔や身の振り方から少し心を許した。

 

「僕はサチュア、英雄級の冒険者であり、遊魔を追ってる者だよ。あ、さっき言った《慈愛の日》は僕の得意な魔法で他の人の魔力を回復できるんだ。」

 

「遊魔?ここに遊魔はいなかったし、卵もなかったと思うが…」

 

 シュウの発言に、サチュアは指を振り得意げに答えた。

 

「気絶してた子供たちも、大人もみんな、これから遊魔の卵になるところだったんだよ。君の処置はかなりの精度だけど、あれじゃ遅らせるのが精一杯だよ。僕が来てよかったね。」

 

 サチュアはそう言ってつま先を部屋の外へ向けた。じゃ、と言ってどこかへ行こうとするサチュアを、シュウは呼び止めた。

 

「遊魔に少し興味が湧いてきた。そっちが良ければ手伝いたい。」

 

 それを聞いたサチュアは相変わらずの笑みで言った。

 

「うん。そのために来たんだ。」

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