「誰かに追跡されている。」
シュウは小さな声でそう言った。カンナは頷いてそれに応える。宿屋に入った段階で、何者かが2人を魔力探知で補足していることにシュウは気づいていた。その精度はかなり高いらしく、シュウでさえ逆探知に手こずった。が、他に人のいないこの隠し通路に誘い込んだことでそれは容易なこととなり、追跡者の位置は割り出された。敵が身を隠している現状が不利であると判断したシュウは出口側をカンナに監視してもらい、相手を誘い出すために、あえて逆探知されるよう魔力探知を発動する。それには、相手に「お前の存在に気づいているぞ。」と忠告する意味合いが含まれている。その直後、隠し通路の壁面が激しく隆起した。2人は咄嗟に飛び退いて躱す。壁面の隆起はそのまま壁となり、2人を分断した。いきなりまずい状況になった。相手が物体変形の魔法を扱うことはわかったが、連携がとれないのはこういう不利な状況においてかなり大きな問題となる。
「そもそも、あいつは連携できるのか…」
カンナとの連携…この短い付き合いの中で、シュウには既にそれが不可能であるという確信があった。そう考えると、連携がとれないこともあまり大きな問題でないことに思えてくる。となれば、自分の身を守りこの状況を打破することに集中するだけだ。
魔法の発動は、大きく分けて二段階。魔力回路の構築と、その魔力回路に正確に魔力を流すことだ。前半は発動者の脳内で行われるため感知は不可だが、後半は高度な魔力探知を扱えれば感知可能である。なるべく魔力を消耗しないよう、最低限の範囲、出力で魔力探知を張り続ける。
魔力の動きが波として伝わった。
今度は無数の鋭い岩石の棘が壁から飛び出した。躱し、砕いて捌く。本体は壁の奥にいて攻撃はできない。こういう場合、魔法を使えないシュウは瞬時に
《貫く矢》
魔力を流された術札は仄かに発光し、刻まれた回路に従って魔法を放った。高密度に練られた魔力は石の壁を貫き、壁の向こうにいる敵の足を抉った。《貫く矢》によって空けられた穴をぐぐり、厚い壁の向こうへ飛び込む。そこにはシュウの知らない、別の隠し通路があった。血の跡が通路の王国側に向けて続いている…が、おそらくブラフだ。再び魔力探知を発動する。頭上から、魔力の動きを察知した。《貫く矢》による追撃を仕掛ける。残り2枚。今度は肩を貫いた。すぐに跳躍し接近、相手の姿を視界に捉えた。敵は一切狼狽えず、5筋の《光の矢》を放ってきた。残りの
《影断ち》
シュウの魔力を纏った拳が、敵の鳩尾へとめり込む。発動中の魔法はそのまま消滅し、追跡者はその場に倒れ込んだ。
《影断ち》は本来、シュウが自らの経験と才能で作り出した魔力を断つ技術だ。これまでは、体内の魔力と脳を分離させて魔法の発動を防ぎつつ、魔力の暴走によって相手を体内から破壊する用途が主な技であった。相手のあらゆる防御能力や魔法を無視して相手を殺せるこの技は、英雄狩りにはうってつけの力だ。しかし今、殺すことを止めたシュウは、相手の体内の魔力を分離させた後、その魔力を体外へ押し出すことで相手を殺さずに無力化した。相手は魔力を急に失った影響で気を失っている。
「俺はもう、殺さない。」
改めて覚悟を口にしたシュウは、これまで通ってきた穴を通って下の通路へ戻った。仕組みはシュウか使っていたものとほとんど同じだったため問題なく動かし外に出ることができた。
外には、剣を抜いたカンナが立っていた。その足元には何人もの人が倒れている。全員、息はあるようだが、皆全身が切り傷だらけだ。彼らが何者なのかカンナに尋ねると、壁で分断されたあと彼らに襲われたから返り討ちにしたという旨の説明をされた。そこで、シュウはとある疑問を抱く。自分一人への追手にしては、数が多すぎる。倒れている奴らの格好や魔力からは、彼らがあまり腕の立つ殺し屋ではないように思える。
この違和感の正体を探っていたシュウは、不意の死角からの狙撃に気づけなかった。魔力を纏わないその攻撃はシュウの利き腕を貫く。シュウが撃たれた瞬間、カンナは弾の飛んできた方向を見据え、敵が時計台の上にいることを確認し走り出す。しかし、進行方向を乱射により封じられ近づくことはできなかった。
「まずいな…」
「
カンナは今まで背負っていた鈍い灰色の剣を抜いた。
バトルが思ったより長引いてしまいました。次回も続きます。