翌日、シュウは新たに冒険者協会の依頼を受注し国境付近の山里に出向いていた。大車に揺られ少し遅い朝食を摂りながら、シュウは昨日サチュアに渡されたメモを再確認した。
『遊魔は他の魔力を侵蝕し、遊魔へと変化させる。遊魔は他の魔物も侵蝕して増えていて、さらに魔物を介して人間を侵蝕していると予想。しばらくは普通に冒険者協会の依頼を受けながら魔物の中に遊魔の卵がないかを確認することに。発見した場合、生け捕りにして下記の住所に運んでくること。また、遊魔の成体を見つけたら絶対に殺さず捕獲すること。最後に、卵を植え付けられたりしても僕が治すので気にする必要は無い。』
その字はかなり雑で、時間をかけないと読めないレベルだった。サチュアの所作や話し方から育ちの良さというか丁寧さというものを感じていたシュウにとっては意外なことだった。が、大したことでは無いので依頼の内容の再確認に移る。今日の依頼もこの前のものと似て小さな洞窟の魔物掃討だ。
「そういえば、あの時の…アベリア。あいつは何だったんだ。あれ以来、"
シュウは自分しかいない大車の中で、そう呟いた。
あれから、シュウは普通に依頼をこなし続けた。魔物関連の依頼は最近増えているらしいがそれでも少ない上、等級の低いシュウではそのほとんどを請け負うことができず結局受けられた魔物の討伐依頼はたった3件だけだった。しかし幸運なことにそのうち1件で遊魔の卵を発見し、メモの住所に届けることができた。サチュアとはあれきり会っていないが、ちょうど今朝通達があり、あの宿で待ち合わせている。
宿に着き、管理人に問い合わせると自分とサチュアの名前で部屋が予約されているという。サチュアはまだチェックインしていないらしく、来るまで待つことにした。その間、手持ち無沙汰を誤魔化すために道具の手入れを始めた。戦闘用の短剣とより小さい投擲用の小刀を軽く研ぐ。シュウの魔力強化は精度が高く、攻撃時もなるべく柔らかい部位を狙うため刃こぼれすることはほぼ無いが、小さな傷は蓄積されていくものだ。また、最近は使っていないが《走力強化》と《貫く矢》の
硬い椅子から離れてベッドに腰を下ろしたシュウは、窓に映る景色が赤く染まっていることに気づく。今朝届いた手紙には、日が落ちる前には着くと書かれていたためきっとそろそろ来るだろう。ふと魔力探知を発動すると、宿の外にサチュアらしき魔力を見つけた。しかし何かがおかしい。サチュアではなく、通行人だ。宿前は人通りが多く今シュウの魔力探知には5人触れている。そして、そのうち2人の体内に遊魔の卵のような魔力があるのだ。以前感じたものと比べて微弱で通行人も普通に歩いているので勘違いかとも思ったが、不安は消えなかった。
「やあ!待たせたよね。実はシンタに行ってたんだけど
そう話しながら、サチュアは外套を脱ぎくるくるとまとめて机の上に置く。しかし細い体だな、とシュウは思った。シュウも細身だが身体能力を損なわない程度で、サチュアは比較にならないほどだった。
「さて、いきなり本題だけど細かい部分は省略し、起こっていることと対処法のみを伝えるよ。じゃあ、これを。」
サチュアは分厚い資料を鞄から取り出しシュウに手渡した。
「まずは127ページを開いて、遊魔についてを話す。遊魔は知っての通り魔力を侵蝕して卵を生成する。これまで、卵が孵った例が確認されてなかったけど、君が送ってくれたものを僕が孵らせわかった。遊魔は魔物ではなく、魔法生物だそれも、目に見えないほど小さな。」
「目に見えないほど…小さい?そんなの生物って言えるのか?」
シュウの疑問を他所に、では8ページに戻って、とサチュアが促す。そこには、"生きた毒"というものについて書かれていた。前半部分は見たこともない専門用語が並んでいたが、最後の一文はシュウにも理解できた。
『要するに、単体で増えられない代わりに寄生虫のように生物の肉体に棲みついて増殖する極めて微小な生物である。これを"生きた毒"、ウイルスと呼ぶ。』
シュウが顔を上げたのを見計らい、つまり、とサチュアが話し始める。
「遊魔と呼ばれたものは魔物ですらなかった。そして、僕の前世の記憶を鑑みると、これの根絶は難しく、予防もこの世界の技術では難しいだろう。ここで解決策だけど、君が"探求者の集い"に僕を紹介してくれないかな?地元の協会のネットワークを用いれば感染者…ウイルスに寄生された人を探して1箇所に集めることができるご存知の通り僕の
シュウは悩むことなく、その提案を承諾した。