転生村   作:もつ煮トリガー

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第71話:逃亡者

 シュウとサチュアの2人は"探求者の集い"本部へと向かっていた。本部があるのは今いる場所と変わらず田舎ではあるが、その中では栄えている街だ。もう少しすれば大車の停留所もあるだろう。そんな中、サチュアが妙に落ち着かない様子なことにシュウは気がついた。朝は落ち着いていて元気な様子だったし、襲撃を受けてからもしばらく時間が経っている。少し観察するうちに、サチュアが人目を気にしていると考えた。シュウは鞄から野宿用のローブを取り出しサチュアに渡した。それを纏ったサチュアが少し安心したように肩をなでおろす。どうかしたかと尋ねるがサチュアは目線を逸らし答えない。シュウはそれとなく周りを見ながら歩いていた。一見普段と何も変わらない光景だったが、歩くうちにその変化に気づく。この辺りは国境や魔物の発生地帯から遠く、平素の防衛は冒険者協会が担うため常駐している兵士は少ないはずだが、この日は明らかに多かった。王都にいた頃によく見かけた意匠の鎧と剣、間違いなく王か有力な貴族が派遣したものだ。何か事件があったのか、遊魔に関係したことなのかはわからないが、少なくともサチュアと無関係ではないだろうと予想していた。シュウは暗殺者だった頃に転生者を軸とした研究機関を設立するといった話を聞いたことを思い出しながら、口にはしない。確信ではないが、それに極めて近い予想がシュウの中に生まれていた。直接聞こうかと口を開くが、サチュアのおびえたような様子にそっと口を閉じた。2人は沈黙を保って歩き続け、大車の停留所が見えた。シュウが振り向くと、遠くの方に粒のような大車が砂埃を上げ走っている。

 

「ちょうどいい、大車が来たぞ。」

 

 シュウの声にサチュアは「よかった」と答える。しかし大車が一定距離に近づくと、シュウは異変を感じ取った。大車に使われている魔力源は安定していなければならないが、不安定だ。まるで、遊魔に侵された人の魔力のように。その直後、大車は制御を失いひしゃげながら横転した。シュウが判断を迷った一瞬で、サチュアはもう駆け出していた。サチュアの異界異能(アルシア)であれば、きっと怪我も治せる。しかし、それは遊魔の一斉治療のために温存しておく必要があるはずだ。迷いは消えないが、シュウは後を追っていち早く大車の傍に着き、サチュアが来るまでの一瞬の時間稼ぎをする。

 

「まずは魔石…!」

 

 大車に使用されている魔石はかなり大きく、魔獣級程度なことが多い。それほどの魔力が制御を失った状態にあるのだ。機能の暴走、魔法の暴発、魔物の発生と考え得る限りでもこれだけの危険が潜んでいる。魔力探知によって魔石の位置を特定し、短剣と《貫く矢》を駆使して最低限の破壊によって露出させ手を触れる。以前遊魔に触れたときと違い、かなり活発にシュウを侵蝕しようとしているが集中を高めて速やかに鎮静化する。丁度そこでサチュアが辿り着いた。

 

「魔石が遊魔に侵されていた。人間の方は大丈夫そうだけど、怪我をしてる。でも、異界異能(アルシア)は温存しないと…」

 

 シュウがそう伝えると、サチュアは明るく笑顔を見せて言った。

 

「大丈夫。異界異能(アルシア)は使わない。見た感じ、みんな酷い怪我じゃないからすぐに終わるよ。」

 

 するとサチュアはシュウに「しゃがんで」といったジェスチャーを見せた。シュウがしゃがむとサチュアはその上にのり、御者用の入り口から入っていった。その時、シュウのうなじに鋭く冷たいものが触れた。シュウは短剣を手放し、両手を上げる。

 

「衛兵さん?」

 

 シュウの言葉に、背後のそれは答えた。

 

「ああ。先ほどの速度は只者ではないと思い、警戒している。まあそれよりも、サチュア=エキオンとの関係が問題だが。」

 

 武骨で低い声だ。声の位置から、シュウよりも2回りほど背も高い。魔力量も多く、気が散っていたとはいえシュウの魔力探知を欺いているほどに隠蔽も上手い。戦闘能力であればほぼ間違いなく、これまでに出会った衛兵たちの中でもトップクラスだ。背後をとられ、武器も手放した今の状態からでは勝率はおそらく3割を切る。

 

「俺はあいつのことを特に知らない。エキオンというのも今始めて聞いた。だが、彼の目的に協力している。それが悪いこととは思えないけどな。」

 

「嘘でも何でも、好きに喚くといい。何にせよ一度は連行する。審判はその後だ。」

 

 この間もシュウの魔力探知は車内のサチュアを捉え続けていた。衛兵も魔力探知をしているが、シュウの魔力探知が逆探知されてはいないようだ。つまり、少なくとも魔力操作においてシュウの方が何枚も上手ということ。どうにかして《影断ち》を一度でも入れられれば、その瞬間に勝利は確定するだろう。

 

「なあ、サチュアは何したんだ?脱走系か?」

 

「俺から話すことはない。以後、交換条件も無視する。」

 

「そうかあ…」

 

 会話によって隙を作るのは難しそうだ。せめてこれに答えてくれれば大人しくついていく選択肢もあったかもしれないが、国王が変わったとはいえシュウのトゥテルへの信頼は地に落ちたまま。説明もない衛兵に着いていく気は毛頭なかった。サチュアの行動に合わせて隙を突こうと策を練っていると、突如サチュアに動きがあった。衛兵もそれに気づいたが、シュウの方が一瞬早く動き始めていた。振り向きざまに放たれる魔力を纏った掌底の一撃は衛兵のみぞおちに衝突する。打撃の痛みと魔力減少による症状で衛兵は膝をついた。しかし厳格な雰囲気を裏切らない気力で直ぐに立ち上がり、剣を振るう。魔力の接続も完全には断ち切れておらず復帰にそう時間はかからないだろう。

 

「お前とは戦いたくねえな。」

 

 シュウはそう言って大車に飛び乗り、処置を終えたサチュアを抱えて走り出す。すぐさま《走行強化》を使うが人1人抱えた状態ではあまり速度は出ず、軽装の衛兵に少しずつ距離を詰められていた。

 

「サチュア、魔力隠蔽できるか?」

 

 肩に担ぎ直したサチュアにシュウは聞く。家の密集地に近づいているが、魔力隠蔽をしなければ撒くことは難しいからだ。しかしサチュアは首を振って否定し、続けて口を開き話し始めた。

 

「でも、僕の異界異能(アルシア)は自分自身に対してならほとんど制限なく使用できる。さっき衛兵にやった技を僕にやって。そうすれば僕の魔力はむしろ囮になるでしょ?魔力を回復しないっていうのは始めてだけど理論上可能だ。やってみる。」

 

 サチュアのまっすぐな視線を信じ、シュウは《影断ち》をサチュアに使用し、同時に路地へ駆け込んだ。一瞬だけサチュアの顔色が青ざめたが、すぐに温かみが戻った。

 

「大丈夫?」

 

 シュウが聞くと、サチュアは笑顔で大丈夫と答えた。走りつつもシュウは魔力隠蔽と魔力探知を並行して行い、撒いたことを確認する。時間をかけると街を取り囲まれてしまう可能性があるが、2人は一時の平穏を獲得した。

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