カンナが剣を抜くと、その背中に禍々しい容貌の半透明な像が浮かび上がった。
「《灰燼の剣》よ。その力を、私に貸して。」
カンナの呼びかけに応えるように、像はゆらゆらと形を変えカンナと重なる。カンナの異界異能は《魔剣使い》。魔剣とは、刀剣の形をした魔物である。当然そこには意思があり、魔物特有の「魔力を欲し喰らう」性質も持っている。そのため、力で抑え込むか、認められるかしなければ魔剣は扱えない。また、近い位置に他の魔剣があると、それらはお互いを喰らいあってしまう。しかし、彼女はその異界異能によって魔剣を無条件に支配し複数の魔剣を同時に所持できる。
彼女が《灰燼の剣》の使用を躊躇ったのはこれが3年前に討たれた《灰燼の魔王》の残滓であり、《魔剣使い》を以てしても尚、その意思と力を完全に支配しきれないからである。この剣を抜けばカンナには大きな負荷がかかり、もし制御を損なえば街の一角は瞬く間に破壊されるのだ。
カンナが剣を抜き、静止した瞬間、再び敵は射撃を仕掛けてきた。しかしそれらはカンナに届く前に灰になり当たることはない。カンナは敵の攻撃など意に介さず、剣を両手で持って構え、深く息を吸い、一息に跳ぶ。敵は高い塔の上だったが、その距離は瞬く間に縮まり、カンナは時計台へ。しかし、そこに敵の姿はなかった。魔力探知で探そうとしたが、その一瞬の隙隙を突かれ剣を握る手に深い傷を負った。斜め右後ろ、後目に捉えたその男は、シュウが食事会のときに着ていた服によく似たものを身にまとっていた。シュウの内通が頭を過ぎるが、右手から走る鋭い痛みに思考は遮られた。《魔剣使い》が弱まり、《灰燼の剣》がカンナを喰い殺さんとばかりに凶悪な魔力を放ち始める。苦しみ悶えるカンナを見て、黒服の男は薄ら笑いを浮かべこう言った。
「とうとう、村の者をこの手に…」
うずくまるカンナに、近づき、手を伸ばす。その手がカンナに触れた瞬間、男の腕は内部から弾け跡形もなく消し飛んだ。
「うちのカンナに触れるな。誰だお前は。」
冷たく怒りの籠った声が、男へと降り注ぐ。男が見上げると、そこには分厚いローブを羽織った、奇妙な形の杖を持った女がいた。
「『魔術学の始祖』、トリアか…!!」
トリアはかつてこの世界で、それまで誰もしてこなかった「魔法の研究」を始めた歴史上の偉人とされている。それは、人類が魔物に対抗する手段を得た歴史上で大きな価値を持つ出来事だ。しかし、あまりに古い時代の出来事であることからその名や姿を知る者は多くない。男がそれを知っているということは、わざわざトリアについての情報を調べているということだ。男は即座に逃走を選択し一瞬にしてその場から消え去った。
「トリアさん?」
行動が一足遅れたシュウが時計台の上へ到着したのは、敵が逃走した直後だった。カンナの深い傷を見て駆け寄ろうとするが、トリアに制止される。
「あの剣から放たれる異様な魔力に、君なら気づくだろう。あれはつい最近、あの
そう言うと、返答も待たずにトリアは転送魔法でシュウを転生村へ移動させた。帰るとすぐにシエラが待ち構えていて、すぐに傷を癒してくれた。そのあとはザックが迎えに来て話を聞いてくれた。そして、シュウの話を聞き終わるとザックは、とある仮説を話し始めた。
「お前の言う通りなら、その男は『転生者狩り』の後任で、任務を離れたお前を始末し、カンナを狩ろうとした、ということだな。確かに筋の通った話だが、少し引っかかる点がある。確認するが、トリアはそいつを仕留められなかったんだな?」
そうです、とシュウが答える。
「そうか。トリアの異界異能は、《万象を覗く瞳》であることは知っているな?それが物体を三次元的に認識し過去と未来を見通すものであると。この異界異能は俺たちの中でも特に強力な能力だ。どんな魔法も使う前に看破され、距離や障害物を完全に無視して魔法を発動できる。普通の手段では、トリアからは逃れられない。つまり、」
ここまでの話を流れを聞けば、トリアの能力についてよく知らないシュウであっても結論は予想できる。ザックの声を遮るようにシュウは小さく呟いた。
「あいつは、転生者。」
ようやくバトルが一段落つきました。
話は変わりますが、小説家になろうというサイトにも同名で投稿しました。内容は完全に同じですので、こちらで読んでくれている方々はそのままで大丈夫です。