グロンダーズ平原会戦   作:dwwyakata@2024

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ファーガス神聖王国を事実上終焉させ、レスター諸侯同盟にも多大な被害を与えた戦いはかくして終わりました。

その後は特異点とも言える英雄の行動で、フォドラには統一政権が出現する事になります。

腐敗と破綻で限界を迎えていた前時代はこうして終わったのです。

しかしその過程で命を落としたたくさんのものを。決して忘れてはならないのです。

それぞれのやり方で、激動の時代を生きたのだから。


4、全ての終わりの後に

全てはいなくなった。

 

セイロス教団から、聖者セイロスの再来と持ち上げられ。大司教の地位を押しつけられたベレスは。

 

各地を見回りながら、何もかも終わり。およそ六年にわたる戦乱が終わったことを確認していた。

 

エーデルガルトが各地の貴族から特権を奪い。或いは命そのものを奪い。

 

そして紋章学の権威であるハンネマンという魔道士が、紋章を誰でも扱えるようにする画期的な道具を作り出した事が、今の状況を到来させていた。

 

苛烈な戦いの末、帝国は滅びた。

 

焼け落ちる帝都アンヴァルの宮殿の中で、エーデルガルトとヒューベルトは命を落とし。その前に同盟は瓦解。燃え墜ちる宮殿に現れたドゥドゥーは、エーデルガルトの死を見届けると、後は無言で去って行った。

 

帝都の陥落によって大勢は決した。

 

歴史の闇で暗躍していたアガルタの民。通称闇に蠢く者達は、元々腐敗した体制に寄生していたにすぎない。

 

以降はあぶり出され、更には本拠をベレスが粉砕して滅ぼした事もあって。既に再起は不能である。

 

人には過ぎたる技術の数々も、全て白日に晒され。

 

地下に存在していた、「英雄の模造品」らしきおぞましい人体実験の成果物も、全て完全破壊され、二度と稼働はかなわなくなった。

 

後で多少の残党が各地で反乱を煽ったが。

 

いずれもが迅速に鎮圧された。

 

大物と呼ばれた貴族の殆どが命を落とすか粛正されて権力を失い。

 

帝国も王国も同盟も無くなった。

 

その結果、やっと紋章持ちの貴族が支配するいびつなフォドラの体制は終わり。

 

ようやく、フォドラに新しい陽が昇ろうとしている。

 

大修道院に戻って来たベレスは、テラスに上がる。巨大な大修道院から見下ろした先には、広い広い森と、その先の大地が拡がっている。

 

南には帝国。

 

西には王国。

 

東には同盟。

 

それぞれ「だった」場所。

 

今は統一された国家であり。新生セイロス教団と協調して、復興が始まっている。

 

そして、皮肉な事に。

 

セイロス教団が一度瓦解した事で。

 

アガルタの民と同様に、セイロス教団がフォドラ内部に落としていた黒い影も、明らかになったのである。

 

今まで禁書とされていた書物を調べた結果。

 

歴史の闇で、セイロス教団がどれだけ発展を押さえ込んでいたか。

 

現状の維持だけを目的とし。不自然に歴史を歪め操ってきたかが明らかになった。

 

セテスはある程度知ってはいたようだが。

 

その政策を継続すべきだとは言わなかった。

 

エーデルガルトはレアを憎んでいた。

 

セイロス教団を、ずっと支配し続けて来た人ならぬものを。

 

そして彼女は戦争を始めたときに演説した。セイロス教団はフォドラを牛耳り、民を支配し苦しめ続けてきたと。

 

その憎しみは、結果論ではあるが。

 

実の所、的を得ていたことが、死んだ後に分かったのである。

 

誰も自覚はしていなかったが。それは、それだけ巧妙な支配が行われてきた、と言う事だったのだ。

 

レアもあの後命を落とした。

 

帝国に捕らわれ、幽閉されてすっかり弱り切っていたし。更に色々な事件もあったのだ。無理も無い事であった。

 

その結果。全てのフォドラの縮図とも言える勢力は姿を消して。結果としてこの穏やかな時間が到来することに成功している。

 

誰もが必要だったのだろう。

 

そして誰もがいなくなる必要があったのだ。

 

硬直したフォドラは限界を迎えていた。あの苛烈な戦いは、その限界が、一気に噴出したものだった。

 

エーデルガルトが破壊的な改革に乗りだし、戦争を始めたのは事実だ。

 

だが、ベレスはそもそも傭兵として、幼い頃から戦場にいた。

 

幼い頃から人を斬り。

 

如何にして敵を殺し勝ち残るかだけに特化した生き方をしてきた。

 

逆に言えば、エーデルガルトが始めなくても、それだけ各地には戦乱の火種が燻っていた訳で。

 

彼女が始めなければ、他の誰かが戦いを始めたことは確実だっただろう。

 

もうフォドラはもたなかったのだ。

 

確かにエーデルガルトには私怨もあった。

 

だが、結果論としては。誰かが始めなければならない破壊を。彼女が始めたと言うだけの事。

 

エーデルガルトを恨んではいないし。

 

歴史の闇に葬るつもりも。

 

史書で貶めるつもりもなかった。

 

既に大司教への就任も、女王への即位も済ませている。

 

これからフォドラを支配し動かしていくのはベレスだ。

 

だが、その礎になった者達を忘れるつもりは無い。

 

結局の所、父ジェラルトが、あらゆる大勢力と関わらないようにベレスを育ててくれたのが、良かったのかも知れない。

 

中立的な立場でものを見て。

 

全てに公平な剣を振るう事が出来た。

 

それは血の雨も降らせたが。

 

逆に何処かの勢力を残して、改革の成果をいびつにする事も無かった。

 

死ぬべきは死んだ。

 

これから、生かすべきを生かすときだ。

 

大修道院の礼拝堂に移る。

 

前は瓦礫の撤去が終わっていなかったが。

 

既に瓦礫は撤去されている。

 

今後、レアと同じように、歴史の支配をしないためにも。適当な所で引退をするか、それとも大御所政治に移るか、考えなければならないだろう。

 

腹心達が並んでいる。

 

戦いの中で多くを失った。

 

命を落とした元生徒も少なくない。

 

だが、此処にいる腹心達は。

 

六年にわたる地獄の戦乱を生き抜いたのである。そして、これから新しい歴史を作り上げていくのだ。

 

演説の類はしない。

 

元々寡黙で知られたベレスだ。今更多弁になっても仕方が無い。

 

灰色の悪魔と呼ばれていたことは、今は誰も口にしない。確かにまだわずかに残っている反抗勢力には、そうベレスを呼んで怖れる者もいるが。結局の所、ベレスは悪魔と言うよりも破壊神が近かったのだろう。

 

そして同じように破壊をしたエーデルガルトとも。

 

何処かで似通っていた。

 

手を上げて、喚声を受ける。

 

腹心だけでは無く、戦いの終わりを喜ぶ多数の民も集まっている。

 

この大地は。血に塗れ。何度も踏みにじられ。そして泣いてきた。

 

これから再起の時だ。

 

なお灰色の悪魔と言う呼ばれ方は消えたが。

 

代わりに軍神という呼ばれ方はより多くなった。

 

今では周辺国にも、軍神の名は轟いているという。

 

せいぜいそのまま虚名として広まって欲しい所だ。

 

名で怖れてくれて。

 

それで攻めこまないでくれるのであれば。

 

戦争を避ける事が出来るのだから。

 

フォドラの周囲に勢力を拡大しようなどと馬鹿な事を考えなければ、今後戦争が起きることはない。

 

既に各地では復興が開始され。

 

復興による好景気もまた、始まっていた。

 

喚声に応えた後は、政務に戻る。多数まだまだ解決する事があるが、十年も掛ければ穏やかな時代が来るだろう。

 

育てた生徒達は各地で要人として復興に関わってくれている。

 

貴族制のあり方が変わった今、混乱する声も多いようだが。

 

スパゲッティコード化していた儀礼の数々が簡略化され。

 

風通しが良くなった今後は。

 

フォドラの最盛期が来るのは確実である。

 

手元には幾つか遺品を常に置くようにしている。

 

エーデルガルトが最後まで手放さなかった短剣。

 

これが何なのかはよく分からないが。

 

最初にエーデルガルトに出会った時、手にしていたような気がする。何か思い入れがあるものなのだろう。

 

ヒューベルトは自分の死すら見越して行動をしていた。

 

そしてその行動が、アガルタの鼠共の巣穴を暴き出す切っ掛けにもなった。

 

いずれアガルタの鼠共の巣穴など見つけられただろうが。その探す手間が省けたのは大きい。

 

平和が来るまでの時間を大幅に短縮することが出来たのだ。

 

ヒューベルトの手紙も、自室に残している。

 

戒めのために。

 

戦乱が収まるまでに、多くの犠牲が出た。

 

そして死んだ者はもう帰ってこない。

 

父が六年前に死んだとき。

 

ベレスは始めて哀しみという感情を学習した。

 

怒りという感情も。

 

故に、それらの感情が、どれだけ多くのものを奪うか。焼き払うかも、身を以て知ったのだ。

 

世界は決して美しくなどない。

 

今後も気を抜けば、いつでも血に塗れた世界が再臨するだろう。

 

黙々と書類仕事をしていると。

 

ふと、声が聞こえた気がした。

 

自分に宿った力。

 

灰色の悪魔と言われても、所詮人間の域を超えていなかったベレスを、軍神にまで押し上げた者。

 

始祖たる存在ソティス。

 

それが、レア達寿命無き者達の祖である事を、今は知っているが。

 

知ったからと言って関係は無い。

 

「そなたらしくもない。 悩まずまっすぐに敵を斬り伏せれば良かろう」

 

ソティスは子供っぽい所もあったが。

 

老獪な策士でもあり。

 

実の所、かなり助けられた事もあった。

 

完全に一体化してからは、単独で一軍に匹敵する力を得られたのも、ソティスのおかげでもある。

 

一体化して以降は、殆ど声も聞こえなくなったが。

 

たまにこうして声も聞こえる。

 

それもそうだろう。

 

そもそもベレスは。出生からしてまともではなく。普通の人間では、最初からなかったのだから。

 

結局フォドラを再統一するには、人ならざる者の助力が必要だったのは皮肉という他ないが。

 

それでも平和が来たのは事実でもある。

 

政務を片付けると、釣りでもするかと思って外に出る。

 

昔から釣りは気分転換に良く行っていた。

 

今もそれは変わらない。

 

流石に今は、釣りをしているときに護衛がつくようになったが。それはそれでどうでもいい話である。

 

もう夕方だが。

 

以前と違って、大修道院からは兵士の姿も減っている。

 

和やかな雰囲気の中で。

 

失われた多くの命を思いながら。

 

ベレスは釣り糸を、大修道院内の釣り堀に垂れていた。

 

 

 

(終)




かくして特異点不在の、しかしながら歴史的に大きな意味を持つ戦いは終わりました。

特異点が関わっていなくても、其処には多くの人の生と死が関わり。多くの歴史的な変革の要因となりました。

それを楽しんでいただけたのならば何よりです。
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