授業中に寝て起きたら山田リョウになってたんだが   作:くるぽん

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「私は床にゴミ落ちてないかチェックと軽い掃き掃除するから、リョウは机の上お願い」

「わかった」

 

開店前のライブハウスってのは結構忙しいみたいだ。

虹夏が手際よく床を掃除する。

っていうか、力仕事のほうを自分が選んでくれたっぽい。

うーん、優しいなぁ。

そんなに数のない机を乾拭きしていたら、虹夏がそばにやってきた。

 

「おっ、ちゃんとやってるね」

「まぁ、これぐらいは」

「うーん……」

 

虹夏がじっと俺を見つめてきた。

ど、どうしたんだ?

そんな可愛い顔で見つめてこられたら、正直ドキッとするんだが。

 

「リョウ、なんか変なものでも食べたりしてない?」

 

真剣な表所で問いかけてきた。

 

「な、なんで?」

「だって変だよ、ちゃんと言われたとおりに乾拭きしてるし」

 

普段のリョウ、どんだけ適当なやつなんだよ。

思わず心の中で突っ込みを入れる俺。

 

「うーん……」

 

なおも疑問の目を向けてきた虹夏なのだが。

 

「ま、いっか。ちゃんと働いてくれて困るわけでもないし」

 

ほっ。

 

「あ、そうだリョウ、今日はぼっちちゃんいないから、ドリンクカウンターの点検もやっといてね」

 

そんなことを言って、別の作業へと取り掛かった。

ぼっちちゃんってのは、他のバイト仲間なのか?

だとしたらすげーあだ名だな。

ドリンクカウンターに移動して、適当に水回りを眺める。

……わからん。

点検ってどうやるんだ?

コップは……使い捨てのプラスチックコップっぽいし、並んでるお酒とかを見てもよくわからん。

水は……蛇口ひねったら出るけど。

 

「もー、遊んでないの!」

「うわっ」

 

びっくりした。

いつの間にか虹夏が隣に来てた。

気になって見に来たのか?

 

「やっぱりリョウはリョウだなぁ」

 

口をとがらせながらも、どこかうれしそうだ。

細い指で、ファミレスによくある感じのドリンクバーの機械のボタンを押していく。

あ、ドリンクカウンターの点検って、そういうことか。

ドリンクがちゃんと出るかチェックするってことなのね。

ようやく納得。

 

「全部大丈夫そうだね」

「よかった」

「もぉ。さっきも言ったけど、今日はお客さん多いから。チケットカウンターの仕事も頑張ってね?」

「う、うん」

 

このあとはチケットのチェックでもやるのか?

 

「それにしても、これはなかなか大変だぞ……」

 

俺はつぶやいた。

とりあえず、このリョウって子になってしまった以上、「中身別人では?」と怪しまれることは極力避けたい。

しかし、ライブハウスのバイトとか、そもそもこのリョウって子の普段の仕草とか、俺には知識がないことだらけだ。

これからどうすればいいんだろうか。

手っ取り早いのは、虹夏にそれとなく教えてもらうことだろうけど。

すごく親切な子っぽいし。

今のところ、味方というか頼れるのはこの子だけだもんなぁ……。

そんなことを考えながら虹夏を見つめていると。

 

「そ、そんな目で見てもチケットカウンターは手伝えないからっ」

 

なんか赤くなってる。

 

「ほら、もうすぐ開店だから。チケットカウンターは入り口―!」

 

ぐいぐいと背中を押されて、入り口に立たされてしまった。

 

 

 

 

ライブハウスのチケットってどういう風にやるんだろう?

俺は大慌てで携帯で検索。

ふむふむ、ハコによって違いはあるっぽいけど、基本的にお目当てのバンド名を言ってもらって、手に入店の意味のハンコを押す感じか。

まぁそれなら簡単だな。

17時になったころから、ちらほらとお客が入り始めた。

今日は3バンドが出演するらしく、それぞれのお目当てのバンド名を言ってもらう。

バンドごとに捌けたチケット分の枠を用意してるんだな。

やがて、ライブハウスは結構な盛況に。

虹夏は……忙しそうにドリンクを提供している。

 

「はいっ、ハイボールですっ! ライブ、楽しんでくださいねー」

 

忙しくてもにこやかな笑顔を絶やさない。

多分、作り笑いじゃない。

営業スマイルとは違う、自然な笑顔だ。

きっと心から、このライブを楽しんでほしいと思っているのだろう。

 

「いつも思うんだけどさ、ドリンクカウンターの子、いいよなぁ」

「あ、俺もそれわかる。あの子からドリンク渡してもらったらライブが100倍楽しくなるわ」

 

お客さんがそんなことを言ってるのが聞こえた。

 

「うんうん、そうだよなぁ」

 

なぜか妙に納得して共感する俺なのだった。

 

 

 

 

いよいよライブの開演時間になった。

MCが始まる。

さすがに遅れて入店してくる人は少ないらしく、チケットカウンターは一気にヒマになった。

マイクのかすかなハウリング、アンプから響くギターのチューニング音。

あぁ、ライブの始まりだなぁって感じがする。

なんかワクワクするぞ。

やがてMCも終わり、一曲目が始まる。

と、虹夏がチケットカウンターにやってきた。

 

「どうしたの?」

「お客さん入ったから、お姉ちゃんが交代してくれるって。ライブ聴いて勉強しろってさ」

 

おぉ、やっぱりお姉さん良い人だな。

俺は店長さんのほうにぺこりと頭を下げると、店長さんが「いいからさっさと行け」って感じの照れ隠しの仕草をした。

 

「え、リョウがお姉ちゃんにお礼してる」

 

虹夏がビックリしてる。

うーん、やっぱこのリョウって子、かなり不遜なタイプみたいだな。

あまり本人と違う行動をとるのは避けたいけど、さすがに礼儀のない行動はしたくない。

 

「まぁ、たまにはね」

「うーん……怪しい。なんか企んでそう」

 

ジト目で虹夏に睨まれた。

 

「あ、ギターソロだ」

 

そんな時、かっこいいギターソロが聞こえてきた。

 

「リョウ、もうちょっとだけステージの近くいこうよ。一緒に聴こ?」

「あ、うん」

 

ぎゅっ。

ナチュラルに手を握られた。

や、柔らかいな。

軽く引っ張られて、俺たちは少しだけステージのそばに移動した。

 

 

 

 

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