授業中に寝て起きたら山田リョウになってたんだが 作:くるぽん
3、
「私は床にゴミ落ちてないかチェックと軽い掃き掃除するから、リョウは机の上お願い」
「わかった」
開店前のライブハウスってのは結構忙しいみたいだ。
虹夏が手際よく床を掃除する。
っていうか、力仕事のほうを自分が選んでくれたっぽい。
うーん、優しいなぁ。
そんなに数のない机を乾拭きしていたら、虹夏がそばにやってきた。
「おっ、ちゃんとやってるね」
「まぁ、これぐらいは」
「うーん……」
虹夏がじっと俺を見つめてきた。
ど、どうしたんだ?
そんな可愛い顔で見つめてこられたら、正直ドキッとするんだが。
「リョウ、なんか変なものでも食べたりしてない?」
真剣な表所で問いかけてきた。
「な、なんで?」
「だって変だよ、ちゃんと言われたとおりに乾拭きしてるし」
普段のリョウ、どんだけ適当なやつなんだよ。
思わず心の中で突っ込みを入れる俺。
「うーん……」
なおも疑問の目を向けてきた虹夏なのだが。
「ま、いっか。ちゃんと働いてくれて困るわけでもないし」
ほっ。
「あ、そうだリョウ、今日はぼっちちゃんいないから、ドリンクカウンターの点検もやっといてね」
そんなことを言って、別の作業へと取り掛かった。
ぼっちちゃんってのは、他のバイト仲間なのか?
だとしたらすげーあだ名だな。
ドリンクカウンターに移動して、適当に水回りを眺める。
……わからん。
点検ってどうやるんだ?
コップは……使い捨てのプラスチックコップっぽいし、並んでるお酒とかを見てもよくわからん。
水は……蛇口ひねったら出るけど。
「もー、遊んでないの!」
「うわっ」
びっくりした。
いつの間にか虹夏が隣に来てた。
気になって見に来たのか?
「やっぱりリョウはリョウだなぁ」
口をとがらせながらも、どこかうれしそうだ。
細い指で、ファミレスによくある感じのドリンクバーの機械のボタンを押していく。
あ、ドリンクカウンターの点検って、そういうことか。
ドリンクがちゃんと出るかチェックするってことなのね。
ようやく納得。
「全部大丈夫そうだね」
「よかった」
「もぉ。さっきも言ったけど、今日はお客さん多いから。チケットカウンターの仕事も頑張ってね?」
「う、うん」
このあとはチケットのチェックでもやるのか?
「それにしても、これはなかなか大変だぞ……」
俺はつぶやいた。
とりあえず、このリョウって子になってしまった以上、「中身別人では?」と怪しまれることは極力避けたい。
しかし、ライブハウスのバイトとか、そもそもこのリョウって子の普段の仕草とか、俺には知識がないことだらけだ。
これからどうすればいいんだろうか。
手っ取り早いのは、虹夏にそれとなく教えてもらうことだろうけど。
すごく親切な子っぽいし。
今のところ、味方というか頼れるのはこの子だけだもんなぁ……。
そんなことを考えながら虹夏を見つめていると。
「そ、そんな目で見てもチケットカウンターは手伝えないからっ」
なんか赤くなってる。
「ほら、もうすぐ開店だから。チケットカウンターは入り口―!」
ぐいぐいと背中を押されて、入り口に立たされてしまった。
※
ライブハウスのチケットってどういう風にやるんだろう?
俺は大慌てで携帯で検索。
ふむふむ、ハコによって違いはあるっぽいけど、基本的にお目当てのバンド名を言ってもらって、手に入店の意味のハンコを押す感じか。
まぁそれなら簡単だな。
17時になったころから、ちらほらとお客が入り始めた。
今日は3バンドが出演するらしく、それぞれのお目当てのバンド名を言ってもらう。
バンドごとに捌けたチケット分の枠を用意してるんだな。
やがて、ライブハウスは結構な盛況に。
虹夏は……忙しそうにドリンクを提供している。
「はいっ、ハイボールですっ! ライブ、楽しんでくださいねー」
忙しくてもにこやかな笑顔を絶やさない。
多分、作り笑いじゃない。
営業スマイルとは違う、自然な笑顔だ。
きっと心から、このライブを楽しんでほしいと思っているのだろう。
「いつも思うんだけどさ、ドリンクカウンターの子、いいよなぁ」
「あ、俺もそれわかる。あの子からドリンク渡してもらったらライブが100倍楽しくなるわ」
お客さんがそんなことを言ってるのが聞こえた。
「うんうん、そうだよなぁ」
なぜか妙に納得して共感する俺なのだった。
※
いよいよライブの開演時間になった。
MCが始まる。
さすがに遅れて入店してくる人は少ないらしく、チケットカウンターは一気にヒマになった。
マイクのかすかなハウリング、アンプから響くギターのチューニング音。
あぁ、ライブの始まりだなぁって感じがする。
なんかワクワクするぞ。
やがてMCも終わり、一曲目が始まる。
と、虹夏がチケットカウンターにやってきた。
「どうしたの?」
「お客さん入ったから、お姉ちゃんが交代してくれるって。ライブ聴いて勉強しろってさ」
おぉ、やっぱりお姉さん良い人だな。
俺は店長さんのほうにぺこりと頭を下げると、店長さんが「いいからさっさと行け」って感じの照れ隠しの仕草をした。
「え、リョウがお姉ちゃんにお礼してる」
虹夏がビックリしてる。
うーん、やっぱこのリョウって子、かなり不遜なタイプみたいだな。
あまり本人と違う行動をとるのは避けたいけど、さすがに礼儀のない行動はしたくない。
「まぁ、たまにはね」
「うーん……怪しい。なんか企んでそう」
ジト目で虹夏に睨まれた。
「あ、ギターソロだ」
そんな時、かっこいいギターソロが聞こえてきた。
「リョウ、もうちょっとだけステージの近くいこうよ。一緒に聴こ?」
「あ、うん」
ぎゅっ。
ナチュラルに手を握られた。
や、柔らかいな。
軽く引っ張られて、俺たちは少しだけステージのそばに移動した。