授業中に寝て起きたら山田リョウになってたんだが   作:くるぽん

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「このへんにしよっか」

 

ステージに近づきすぎない位置で虹夏が立ち止まる。

 

「店員があんまり前に行き過ぎるのはちょっとねー」

 

なるほど、そういう配慮か。

 

「ほら、リョウはこっち」

 

自然に俺のほうをちょっと前に立たせてくれた。

 

「この位置だと、ベース見やすいでしょ?」

「あ、うん」

 

リョウって子、ベースが好きなのか?

なかなかマニアックだな。

そんなことを考えていると、耳に鋭いハイハットの音が聞えてきた。

 

「おぉ、すごい」

 

一瞬でステージにくぎ付けになる。

音楽は好きだけど、生のライブを見るのは初めてだ。

アンプで増幅された音が、びりびりと体に伝わってくる。

すごい迫力。

俺は圧倒された。

家で配信で聴くのと全然違う。

音は録音みたいにクリアじゃないし、ゆがんで聴き取れない部分もあるけれど、いま目の前で演奏してるんだっていう臨場感。

バンドの動きがそのまま目に飛び込んでくる。

 

「さすが、人気あるバンドだよね」

 

隣で虹夏がつぶやいた。

虹夏はすっごくキラキラした瞳でステージに見入っている。

この子、本当にライブが好きなんだな。

つい、ほほえましい気持ちになった。

 

「ん?」

 

やべ。

虹夏が俺の視線に気づいたか。

 

「ちょ、ちょっとリョウ、なんでこっち見てるのー///」

 

ぐりん。

赤くなって俺の顔を無理やり、ステージの方へ向けさせた。

ま、まぁたしかに今は虹夏を見る時間じゃないな。

真剣にステージを見よう。

 

ステージに立っているバンドは、虹夏よりも少し年上ぐらいのガールズバンドだった。

でも、相当演奏はこなれている。

ドラムの子はほとんど体の軸を動かしていないのに、すごく素早くて正確なビートを刻んでいる。

体が無駄に動いていないのは、それだけ肘の動きが柔らかいからだ。

ベースの子は、一見音数が少なく見えるけど、音の空白をうまく利用してダイナミックなリズム感を演出してる。

ギターの子もすごい。

ノイジーなギターをかき鳴らしているんだけど、それが音の壁みたいになっていて、ロックらしい激しさを見事に演出している。

そして、ヴォーカル。

時々音程を外してしまうように見えて、それがある種のワイルドさになっている。

可愛らしい女の子ってだけじゃない、攻撃性。

 

「せぇのっ」

 

ギターの子が、吠えた。

ギターとベースがユニゾンする。

キマった。

そこにドラムも絡んできて、縦横無尽に叩きまくる。

観客が、沸いた。

気が付くと俺も無意識に、手を振り上げていた。

 

 

 

 

「いやぁ、良かったね~!」

 

ライブが終わり、虹夏が満足げに笑う。

 

「うん。すごかった」

「聴かせてくれたお姉ちゃんに感謝だね」

「うん」

 

俺はただ茫然とうなづいていた。

まだ体の芯が熱い。

これが、生のライブか。

 

「あっ、早くドリンクカウンターに戻らなきゃ」

 

虹夏が慌てたように叫んだ。

 

「え?」

「だってほら、まだドリンクチケット交換してないお客さんがドリンクカウンターに来るから」

 

そういうことか。

ライブ前に交換するんじゃなくて、終わった後に交換する人もいるんだな。

 

「手伝うよ」

「リョウ、ありがと!」

 

俺たちは急いでドリンクカウンターへ。

しばらくは、お客さんの対応に追われた。

やがて大方の人がドリンクを受け取ったのだろう。

再び暇になった。

俺は、ライブハウスを見渡してみた。

ライブが終わった後って、こういう感じなんだな。

すぐに帰るんじゃなくて、お客さんが残っている。

めいめいにお酒を飲んだり、感想を話し合ったり。

お客さんに交じって、さっきライブしていたバンドの人もいた。

 

「あれ? あの人って」

 

虹夏に訊いてみる。

 

「あ、ライオットハウスの葛西さんだね」

「さっきのドラムの人だよね?」

「うん」

 

お客さんと談笑した後、CDを手渡している。

その場でお金のやり取り。

なんかやばい密売みたいだ。

 

「手売り?」

「だってレコ発ライブだもん、今回の」

「え?」

「ん?」

 

やべっ。

虹夏に当然のように用語を使われるとわからん。

レコ発ってなんだ?

俺は慌てて携帯で検索。

あ、音源の発売に合わせてやるライブのことか。

 

「リョウ? なにやってんの?」

 

なんか猫みたいなジト目で虹夏がのぞき込んできた。

 

「な、なんでもない」

「怪しいなぁ」

 

 

 

 

その後、ドリンクカウンターの片づけをしていると、店長さんがやってきた。

 

「お前ら、そろそろ上がっていいぞ」

「え、まだ途中ですけど」

「バカ、学生を夜遅くまで働かせられないだろ」

「お姉ちゃん、優しいっ」

「風営法を気にしてるだけだっ」

 

しっしっと追い払うようなしぐさ。

いや、マジで店長さん優しいな。

 

「それじゃ、お先に失礼します」

「おう……ってか、山田」

「え?」

 

店長さんがじっと俺を見つめる。

虹夏を大人っぽくしたような顔立ちが実に美人だ……ってそうじゃない。

な、なんか怪しまれたか?

 

「お前、今日は何で敬語なんだ?」

 

!?

敬語を怪しまれた!?

まさか、このリョウって子、店長さん相手にも普段敬語を使ってないのか?

ま、マジか。

ある意味すげぇなと思いつつ、俺は冷や汗だらだらだ。

 

「あ、いやほら、その、昨日ちょっとその、ビジネス系の自己啓発本を読みまして」

 

適当な言い訳をしてみる。

 

「うーん……?」

 

めっちゃ怪しまれてる!?

 

「…………いや、まぁそれは悪くない心がけだな」

 

ほっ。

なんか納得してくれた。

俺は胸をなでおろした。

 

 

 

 

虹夏と連れ立って、ライブハウスの階段を上る。

久しぶりの地上だ……っておぉ、外がすでに暗いぞ。

と、階段を登り切って気が付いた。

 

俺の家、どこだ。

 

俺は今、山田リョウって子になってるわけで。

帰るなら、この子の家だよな。

急に俺が美少女になって帰ったら絶対に実家の母さん卒倒するし。

でも、この子の家ってどこだよ。

俺はばっと虹夏を見る。

 

「どうしたの?」

 

この子ならリョウの家、知ってるよな?

それとなく帰り道で尋ねるしかないか。

 

「い、いやなんでもない、さ、帰ろう」

「うん」

 

さりげなく、さりげなくぅ……あれ?

 

「じゃ、また明日学校でね」

 

虹夏が天使みたいな笑顔で手を振る。

ライブハウスの階段を登り切ったところのビルに入っていった。

うぉぉぉい、まさかそこに住んでるのか!!

俺は大慌てで虹夏を追いかける。

がーっと自動ドアが開いた。

 

「あ、あのさ」

「?? 忘れ物?」

「い、いや、その、えっと」

 

とっさに俺は、言葉を吐いた。

 

「も、もう少し一緒にいたいから、わ、私の家まで、一緒に帰って」

「へ? え!?」

 

しばしの無言。

ぼんっと音を立てて虹夏が頭から湯気を立てた。

だ、だめか?

家まで誘導してもらいたいんだが……。

 

「……し」

「し?」

「しょうがないなぁ、リョウはぁ///」

 

おぉ、すっごい笑顔だ。

ライブを聴いてた時以上にキラキラしてる。

 

「いいよっ、リョウの家まで散歩してあげるっ」

 

特別だよー、とか言いながらも、めっちゃ嬉しそうに腕を組んできた。

 

 

 

 




少しでも楽しく読んでいただけたら嬉しいです。
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