授業中に寝て起きたら山田リョウになってたんだが 作:くるぽん
5、
きょ、距離感が近いっ!
っていうか、虹夏、めっちゃいい匂いする。
え?
女の子同士ってこういうものなの?
腕組みぐらい普通なのか!?
思わず慌てふためいていると。
「リョウ? どうしたの?」
虹夏が首を傾げる。
もしかしたら、こういうスキンシップは普通なのかもしれないけど、ちょっと俺には刺激が強すぎる。
「え、えと、その、胸が……」
「え?」
虹夏が、あまり膨らみのない自分の胸を見た。
俺の腕にぴったりとくっついている。
「……リョウのえっち。あほっ」
そんなことを言いつつ、ちょっと赤くなって離れてくれた。
女の子どうしでもエッチとか言うんだなぁ。
冗談めかした感じだったけど、可愛い反応だ。
「も、もぅ。バカなこと言ってないで、行こ? 帰るのあんまり遅くなると怒られるよー?」
照れ隠しなのか、虹夏がてくてくと歩き出す。
結果的に腕を離されたからホッとしたけど、ちょっと残念なような気もした。
※
2人で夜の下北沢を歩く。
夜に歩いたのは初めてだけど、すごく賑やかだ。
商店街に、人、人、人。
居酒屋とか、カフェとか。
新宿や渋谷みたいに高いビルはないけど、個人商店がずらっと並んでいて、すごく活気がある。
やがて、騒がしい通りを抜けると、閑静な住宅街に。
「あ、ここの公園。この前アー写撮るとき寄ったね」
あーしゃ?
何語だ?
と、とりあえず適当にうなづいておこう。
「リョウはいいよねー、背も高いし、写真映えするし」
「そう?」
「そーだよー」
確かに、このリョウって子は、背が高くてすらっとしている。
でも。
俺は隣を歩く虹夏を見た。
確かにちょっと背は低いかもだけど、正直言って、それも含めてすごく可愛い。
もしも、クラスにこんな子がいたら、絶対に気になってしまうだろう。
だから、真剣に答えた。
「え、虹夏、普通に可愛いよ。写真とか写っても絶対に」
「うぇっ?」
なんか虹夏が変な声を出した。
「あ、ありがと……」
聞こえないぐらい小さな声でごにょごにょとお礼を言われた。
※
そのあとは、音楽の話で盛り上がった。
ライブハウスでバイトしてるぐらいだから、虹夏もリョウって子もすごく音楽が好きみたいだ。
虹夏が、楽しそうに話してくれる。
「それでさー、前にタワレコで一緒に視聴したCD、結局買っちゃったんだよね」
「どうだった?」
「すっごく良かった! もう毎日聞いちゃってるよ。リョウの方は? あの時、紙ジャケのCD買ってたよね?」
「え、あ、そ、そうだったかな」
紙ジャケ?
な、なんのCDだろうか?
「えー、買ったのにもう忘れたの?」
「いやぁ、ははは」
「あの時すっごく語ってたじゃん。なんだっけ、〝これはゼロ年代のプログレハードを牽引したバンドで、これは紙ジャケの再販で〟とか。えっと、ポーなんとかってバンド」
ポーで始まる、ゼロ年代のプログレッシブハードのバンド、か。
思い当たるのがあった。
「ポーキュパイン・ツリー?」
「あ、それ!」
おぉ、当たった!
ちょうど知ってるバンドで良かった。
ってか、リョウって子、なかなかマニアックな趣味してるな。
そのあとも、虹夏と話していくと、かなり幅広く音楽を聴いてるってことがわかってきた。
俺自身、聴く専だけど結構いろいろ聴いてるので、わりと趣味は近いかもしれない。
虹夏は、メロコアとかジャパニーズパンクが特に好きみたいだけど、リョウのお勧めもちゃんと聴いてくれるみたいで、話が合う。
会話をしていて、すっごく楽しい。
俺、クラスだとあまり音楽の趣味が合う友達がいなくて、いつも一人で聴いてたからなぁ……。
「あ、そういうと、今日のライブの中でリョウが好きそうな曲あったね。ほら、最初のバンドが演奏してた曲」
「何曲目に弾いてた曲?」
「えっと、たしか3曲目」
「あ、覚えてる。確かに良かった」
ファンキーなベースラインがカッコよくて特徴的な曲だった。
「虹夏は? 気に入った曲あった?」
「えっとねー、最後の曲かな」
「あぁ、あの、キーボードがバックでブロックコードやってた曲」
「さすがリョウ、そんなとこまで聴いてたんだ」
「うん、なんか聴こえた」
って、あれ?
そこで、はたと気づいた。
俺の耳ってこんなに細かい音、聴き取れていたっけ?
自宅で音楽聞いていた時のことを思い出す。
なんか、もっとぼんやりと聞いていたような。
あ~、なんかカッコいいなぁ、ぐらいの感じで。
でも、振り返ってみれば、今日のライブ。
細かい一つ一つの楽器の音が、分離して理解できていたような気がする。
こう、音の解像度がかなり違ったというか。
もしかして。
「この体の耳が良いから?」
俺はつぶやいた。
「へ? 体?」
虹夏がいぶかしむ。
「あ、いや、なんでもない」
可能性はあるかもしれない。
帰宅したら、自分の知ってる曲を聞いてみるのもいいかもしれないな。
初見の曲だと比較できないけど、知ってる曲が高い解像度で聞こえたら、この体の影響ってことだ。
なんてことを考えていたら、虹夏が立ち止まった。
「リョウ、着いたよー」
おぉ、ここが俺……というかリョウの家か。
「って、え?」
目の前にあるのは、でかい一軒家。
洒脱な洋風建築。
しっかり庭まである。
東京でこの規模の家って、すごくないか?
「マジで?」
リョウって子、すげー金持ちなのか!?
もしかして、お嬢様?
俺の驚愕には気づかず、虹夏が言った。
「じゃ、そろそろ帰るね。あ、そうだリョウ、明日国語は小テストだよ?」
「わ、わかった」
ちゃんと勉強しときなよー、とか言いながら帰っていく虹夏。
俺は呆然と自宅の高い門を見上げていた。
「……お嬢様らしいふるまいとかできるのか? 俺」
※※※ボーナストラック・虹夏の独り言※※※
リョウを家まで送った後。
夜道をマンションまで帰りながら、虹夏は頬のほてりが取れなかった。
夜風に当たってるのに、なんで?
……たぶん、今日のリョウがちょっぴりおかしかったせいだ。
いつもよりも、ちょっとだけ優しいし、急に、一緒に帰ろ?とか言ってくるし……。
スターリーでのバイトの後、「リョウともう少し一緒にいたいな」とか思うことは時々あった。
でも、自分の家はスターリーの真上のマンション。
階段を昇ったら、そこでお別れ。
それは仕方のないことだと思っていた。
思っていたのに。
『も、もう少し一緒にいたいから、わ、私の家まで、一緒に帰って』
ま、まさか、リョウのほうからそんなこと言ってくるなんて。
そんなの……嬉しすぎるじゃん。
その上さっきは、さらっと私のこと、可愛いって……。
「うわぁ、なんなんだ、もぉ!」
体が、めっちゃくちゃ、熱い。
なんかぽかぽかする。
でも、リョウにからかわれてるだけのような気もして……。
「そもそも、女の子同士でドキッとしちゃうとか、あ、ありえんしっ!」
自分に言い聞かせるように、つぶやくのだった。
虹夏ちゃん視点は、たまにやりたいですね。
ちょっとでも可愛く感じてくださると嬉しいです。
ベースの話は次話か次々話ぐらいになりそうです。