授業中に寝て起きたら山田リョウになってたんだが 作:くるぽん
7、
お風呂ってあれだよな、脱ぐんだよな。
全部見えちゃうんだよな?
さすがにちょっとマズくないか?
なんといっても、女の子の体なわけだし。
とはいえ、風呂に入らないってわけにもいかない。
「リョウちゃん、どうしたの?」
あんまり悩んでいたら、お母さんに怪しまれた。
えぇい、ままよ!
風呂に入るしかない!
そんなわけで、意を決して風呂場へ。
おぉ、脱衣所からして広い。
脱衣所の鏡に映っているのは、スレンダーで背の高い美少女。
……ごくっ。
き、緊張する。
エロいとかそういう気持ち以上に、緊張する。
よく知らない子の裸を見ることになってしまうのが、申し訳ないというか。
でも、し、仕方ないよな。
しゅるっ。
制服のリボンをほどき、シャツを脱ぐ。
できるだけ身体を見ないように目を細めた。
そのまま、一気にスカートも脱ぎ、下着姿に。
バスタオルを体に巻いて、直接的には裸を見ないようにして、下着も脱いだ。
※
「ふぃー」
かけ湯をしてから湯船につかり、思わず声を上げる俺。
山田家のお風呂は、想像以上に広かった。
俺が住んでいるマンションとは大違いだ。
なんか、大理石的な床の洗い場、そして、ゆうに手足を伸ばして大人が二人以上は入れる湯船。
旅館の家族風呂レベルだぞ、これ。
「…………」
透明なお湯越しに、自分の身体をチラ見する。
女の子らしい丸みを帯びたラインと、胸のふくらみ。
正直、ドキドキする。
とはいえ、思ったよりも「エロい!」とは感じていない。
もしかして、脳がこの体を自分の体と認識しているからかもしれない。
ホッとしたようなちょっと残念なような。
まぁ、自分の体を見るごとに興奮してしまうよりはマシか。
「のぼせてきたな」
湯船から上がり、ボディソープで体を洗う。
肌がきめ細かくてすべすべだから、ちょっと擦っただけで傷つけてしまわないか心配になる。
俺はできるだけよく泡立てて、慎重に体を洗った。
うちで使っているのと全然違う、高級なボディソープは、ラベンダーの香りがした。
※
「パジャマ、置いてあるからね~」
「ありがとう」
お風呂に入っている間にお母さんが置いてくれていたパジャマに着替える。
女性用のパジャマは、少し恥ずかしかった。
ざっと家を見回した感じ、自室は二階っぽいな。
木製のゴージャスな階段を上る。
「女の子の部屋、かぁ」
何気に女の子の部屋に入るのって初めてだ。
ドキドキしながら二階の自室の扉を開ける。
「こ、これは……っ!」
……結構ぐちゃぐちゃだった。
というか、物が多い。
CD、レコード、本、洋服。
いろんなものが床に散乱している。
俺は苦笑いした。
「ま、逆になんか安心したけどね」
床に落ちているものを拾っていく。
古着屋とかに売ってる感じのおしゃれなシャツ。
タイダイ柄っていうんだっけ、色あせた感じの。
こういうの着こなすのってすごく難しそうだよな。
音楽雑誌に、映画雑誌。
それから、ロックのレコード。
「そうだ、確かめたかったんだった」
俺は床に散乱していたレコードの中から、自分の知っているものを一つ選んだ。
RUSHのアルバム。
カナダの最強のロックトリオと呼ばれていたバンドだ。
ターンテーブルにレコードをセットする。
アンプの音源を入れ、プレイボタンを押した。
流れ出した音楽に……圧倒された。
ドラムの音、ギターの音、ベースの音。
それぞれの音が、完全に分離して、粒だって聴こえる。
もともと高度な演奏力が売りのバカテクバンドだが、明らかに〝俺〟の耳で聞いていた時よりも、そのテクニックの凄さがわかる。
体が、感じ取っていく。
鳥肌が立った。
なんだ、これ。
全然違う。
俺の耳で聞くのと、全く違うぞ。
これが、山田リョウの体なのか。
気が付くと、息が上がっていた。
〝俺〟の感覚が、この体の反応の良さについていけなかったんだ。
でも、とんでもなく楽しい。
これまでの人生で最高の音楽体験かもしれない。
「それじゃ、これを聴くとどうだ!?」
音楽好きの習性だろう。
俺はついつい、次から次へと音源を聞いていく。
気が付くと深夜になっていた。
「いやぁ、すごかった」
まるでひと試合終えた後のスポーツ選手のように汗をかき、ベッドに倒れこんだ。
「でもこれで、仮説は証明されたな」
スターリーで感じた、〝このリョウって子の体は音楽的な感受性に優れているんじゃないか〟という仮説。
ほぼ、確定といっていいだろう。
と、一息つくと、壁にずらっと立てかけられている物体が、気になってきた。
「あれって、ベースだよな」
楽器にそこまで詳しくはないのではっきりとはわからないが、全部ベースっぽい。
1台や2台じゃない。
全部で、7台もある。
「なんで?」
俺は首をかしげた。
普通は一つあれば事足りるよな?
そもそも女子高生だし。
ベテランバンドマンじゃないんだから。
もしかして、観賞用?
金持ちのお嬢様らしい趣味で、優雅に高級ベースをコレクションしてるとか?
「う~ん……」
首をひねっていると、体の奥底に、疼きを感じた。
なんだろう、この感覚。
さ、触りたい。
あのベースに、触れたい。
ふらふらと、吸い寄せられるようにベースのほうへ。
一番左端にあった木目の美しいベースを手に取る。
へフナー・ベースだ。
って、ん?
なんでそんなこと、俺、知ってるんだ?
と思ったのもつかの間。
体が自然に動き、ベースを弾きだした。
ぼよっ。
ぼよっ。
「………………だめじゃん」
一瞬、すげー弾けるのかと思ったが、そんなことはなかった。
小さく情けない音が出ただけ。
というかほとんど音がしなかった。
あれか。
この体が弾くことを本能的に欲望したけど、中身が俺だから無理だったって感じか。
「ま、そんなもんだよねぇ」
ベースを元に戻す。
あぁ、なんか脱力した。
再び、ぼすんっとベッドに寝転んだ。
ベース、か。
多分あのベース、観賞用じゃないな。
弾く用だ。
とはいえ、この子がバンドをやっているのか?ってのは、少し疑問だ。
というのも、友達はほとんどいないってことらしいから。
バンド仲間がいるだろ、普通。
一人で練習してるだけとか?
うーむ。
まぁ、いずれにせよ。
弾けていた人間が、急に弾けなくなるのはおかしい。
もしもバンドメンバーらしき人から連絡があったら……。
「適当に理由つけて、脱退しよう」
俺はつぶやいた。
どうせ、俺からしたら見知らぬバンドだしな。
と、ふと気が付くと、スマホに着信が。
虹夏からだ。
どうしたんだろう?
スワイプすると、虹夏の可愛い声が。
「ごめん、リョウ。寝てた?」
「あ、ううん、まだ起きてた」
「そっか、よかった。あのね、さっき連絡忘れてたんだけどさ」
「うん」
「明後日のバンド練習なんだけど、スタジオが空いてなくて、延期になっちゃった」
「へ?」
「ご、ごめん、私もお姉ちゃんに交渉したんだけどさ」
虹夏の言葉が、頭に入ってこなくなった。
バンドメンバーって、虹夏なのか?
俺の脳裏に、虹夏の明るい顔が思い浮かぶ。
今日一日、ずっと親切に助けてくれた、優しい女の子。
バンドやめるって言ったら、あの子を曇らせることになってしまわないか?