授業中に寝て起きたら山田リョウになってたんだが 作:くるぽん
8、
「おーい、リョウ聞いてるー?」
電話越しに虹夏の声が聞こえる。
しかし、俺は返事をすることができなかった。
バンドメンバーって、虹夏だったのか。
「ご、ごめん、聞いてる」
なんとかそれだけを絞り出す。
「大丈夫?」
虹夏の心配そうな声が耳に届いた。
「なんか、元気なさそうだけど」
「うん、ちょっと、眠くなった。さっき食べ過ぎたから」
「あはは、晩御飯そんなに食べたんだ?」
「うん、お母さんがすごい量用意してた」
「普段、草しか食べてないもんねー。おなかがびっくりしたんじゃない?」
「そうかも、おなかもたれてる」
それじゃ今夜はゆっくり寝なよー、夜更かししちゃだめだよ、そんなことを言いながら虹夏が電話を切った。
俺は携帯電話をベッドに投げ出した。
どうしよう。
ベースはもう弾かない、とか言ったら、虹夏、絶対怒るよな。
いや、怒るというか、悲しむか。
理不尽に怒るような子じゃないと思う。
できれば、虹夏を悲しませたくない。
ベースを弾けるようになるのが一番良いんだろう。
でも、どうやって?
俺は、手を見る。
細くて、器用そうな指。
「でも、中身が俺なんだよなぁ」
つぶやいた。
答えが出ないことに悩んでいるうちに、いつの間にか眠ってしまった。
山田家のベッドはふかふかだったけど、深く眠れたような気はしなかった。
※
翌日。
少し寝不足のまま、登校する。
通学路では、誰も俺に話しかけてはこない。
一人てくてくと歩き、高校へ。
と、校門のところに、虹夏がいた。
「おはよっ」
明るい笑顔で手を振ってくる。
「おはよう」
「教室まで一緒に行こ?」
「う、うん」
並んで校舎の階段を上った。
「おなかの調子治った?」
「うん、もう大丈夫」
「そっか、よかった。あー、今日の小テスト憂鬱だねー」
「あ、勉強忘れてた」
「帰り際に言ったのに」
「ごめん」
「ま、困るのはリョウだからいいけどー」
そんなことを言いつつも、虹夏は朝のホームルーム前にヤマ場だけ教えてくれた。
「当たるかどうかは知らないよ?」
「うん、でもありがと」
「だからなんで最近はちゃんとお礼言うのー///」
赤くなって叩いてきた。
お礼言われないほうが良いのか?
※
そんなわけで、小テスト。
テスト用紙が裏返しで配られてくる。
いろいろと心配事は尽きないが、とりあえず今はこれに集中するか。
と、虹夏が、隣の席から肩をつついてきた。
「リョウ、ガンバっ」
小声でささやいてくれた。
なんか、やる気出てきた。
※
現国の小テストは、虹夏のヤマ場が当たっていた。
「ど、どうだった?」
休み時間に心配そうに聞いてくる。
「うん、教えてくれたのが当たってたから、ある程度できたと思う」
「よかったー」
虹夏が胸をなでおろした。
自分のことのように心配してくれていたんだな。
「でもちゃんと勉強しなきゃ身につかないんだからね」
口をとがらせてお小言も付け加えてくれる。
「うん、次はもっと頑張るよ」
「まったくリョウは調子いいんだから」
「虹夏」
「ん?」
「ありがと」
「だ、だから不意打ちでお礼言うの禁止―///」
また怒られた。
理不尽だ。
※
あっという間に昼休み。
「リョウ、お昼食べよ?」
「うん」
虹夏が机をくっつけてくる。
「よいしょっと」
設置完了。
虹夏が、自分のカバンをガサゴソとやって、お弁当箱を二つ取り出した。
……ん?
二つ?
「え、えっとぉ」
虹夏が少し照れたように、こっちを見る。
「あ、あのさ、お弁当。食べる?」
片方を、差し出してきた。
「え、くれるの?」
「ま、まぁ、その。ほら、昨日さ、なんか元気なさそうだったから。おいしいもの食べたら、元気出るかなって」
「あ……」
夜に電話で話した時、俺は適当にごまかしたけど。
虹夏は、感じ取っていたのか。
俺に悩みがあるって。
「……開けてもいい?」
「う、うん///」
恥ずかしそうにしてる虹夏からお弁当を受け取り、ふたを開けてみる。
お弁当の中身は、煮込んだ人参や白菜、高野豆腐、サツマイモといった柔らかいもの、そして薄くスライスされた豚肉には大根おろしがかけてある。
すごく考えて、おなかに優しいものが詰め込まれていた。
〝おなか、もたれてる〟
昨日俺が適当にごまかすために言ったそんな言葉を、ちゃんと聞いていてくれたんだ。
「…………よしっ」
俺はこの瞬間、決めた。
ベースをやめたり、しない。
虹夏を裏切りたくない。
実はついさっきまで、虹夏には謝って、バンド活動は抜け出せてもらおうかとかも考えていたけど。
なんとかして、この子を笑顔にしたい。
優しくしてくれた、お礼がしたい。
「ねぇ、虹夏」
「ん?」
「ベース、頑張るね」
「ふぇ? え? なになに!? なんで急に?」
「ふふふ、なんでもない」
慌てふためく虹夏が可愛くて、思わず笑ってしまった。
※
……とはいえ。
「どうやってベース、弾けるようになるかなぁ」
頭を悩ませる俺なのだった。
5月29日、虹夏ちゃんハピバ。