授業中に寝て起きたら山田リョウになってたんだが   作:くるぽん

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「おーい、リョウ聞いてるー?」

 

電話越しに虹夏の声が聞こえる。

しかし、俺は返事をすることができなかった。

バンドメンバーって、虹夏だったのか。

 

「ご、ごめん、聞いてる」

 

なんとかそれだけを絞り出す。

 

「大丈夫?」

 

虹夏の心配そうな声が耳に届いた。

 

「なんか、元気なさそうだけど」

「うん、ちょっと、眠くなった。さっき食べ過ぎたから」

「あはは、晩御飯そんなに食べたんだ?」

「うん、お母さんがすごい量用意してた」

「普段、草しか食べてないもんねー。おなかがびっくりしたんじゃない?」

「そうかも、おなかもたれてる」

 

それじゃ今夜はゆっくり寝なよー、夜更かししちゃだめだよ、そんなことを言いながら虹夏が電話を切った。

俺は携帯電話をベッドに投げ出した。

どうしよう。

ベースはもう弾かない、とか言ったら、虹夏、絶対怒るよな。

いや、怒るというか、悲しむか。

理不尽に怒るような子じゃないと思う。

できれば、虹夏を悲しませたくない。

ベースを弾けるようになるのが一番良いんだろう。

でも、どうやって?

俺は、手を見る。

細くて、器用そうな指。

 

「でも、中身が俺なんだよなぁ」

 

つぶやいた。

答えが出ないことに悩んでいるうちに、いつの間にか眠ってしまった。

山田家のベッドはふかふかだったけど、深く眠れたような気はしなかった。

 

 

 

 

翌日。

少し寝不足のまま、登校する。

通学路では、誰も俺に話しかけてはこない。

一人てくてくと歩き、高校へ。

と、校門のところに、虹夏がいた。

 

「おはよっ」

 

明るい笑顔で手を振ってくる。

 

「おはよう」

「教室まで一緒に行こ?」

「う、うん」

 

並んで校舎の階段を上った。

 

「おなかの調子治った?」

「うん、もう大丈夫」

「そっか、よかった。あー、今日の小テスト憂鬱だねー」

「あ、勉強忘れてた」

「帰り際に言ったのに」

「ごめん」

「ま、困るのはリョウだからいいけどー」

 

そんなことを言いつつも、虹夏は朝のホームルーム前にヤマ場だけ教えてくれた。

 

「当たるかどうかは知らないよ?」

「うん、でもありがと」

「だからなんで最近はちゃんとお礼言うのー///」

 

赤くなって叩いてきた。

お礼言われないほうが良いのか?

 

 

 

 

そんなわけで、小テスト。

テスト用紙が裏返しで配られてくる。

いろいろと心配事は尽きないが、とりあえず今はこれに集中するか。

と、虹夏が、隣の席から肩をつついてきた。

 

「リョウ、ガンバっ」

 

小声でささやいてくれた。

なんか、やる気出てきた。

 

 

 

 

現国の小テストは、虹夏のヤマ場が当たっていた。

 

「ど、どうだった?」

 

休み時間に心配そうに聞いてくる。

 

「うん、教えてくれたのが当たってたから、ある程度できたと思う」

「よかったー」

 

虹夏が胸をなでおろした。

自分のことのように心配してくれていたんだな。

 

「でもちゃんと勉強しなきゃ身につかないんだからね」

 

口をとがらせてお小言も付け加えてくれる。

 

「うん、次はもっと頑張るよ」

「まったくリョウは調子いいんだから」

「虹夏」

「ん?」

「ありがと」

「だ、だから不意打ちでお礼言うの禁止―///」

 

また怒られた。

理不尽だ。

 

 

 

 

あっという間に昼休み。

 

「リョウ、お昼食べよ?」

「うん」

 

虹夏が机をくっつけてくる。

 

「よいしょっと」

 

設置完了。

虹夏が、自分のカバンをガサゴソとやって、お弁当箱を二つ取り出した。

……ん?

二つ?

 

「え、えっとぉ」

 

虹夏が少し照れたように、こっちを見る。

 

「あ、あのさ、お弁当。食べる?」

 

片方を、差し出してきた。

 

「え、くれるの?」

「ま、まぁ、その。ほら、昨日さ、なんか元気なさそうだったから。おいしいもの食べたら、元気出るかなって」

「あ……」

 

夜に電話で話した時、俺は適当にごまかしたけど。

虹夏は、感じ取っていたのか。

俺に悩みがあるって。

 

「……開けてもいい?」

「う、うん///」

 

恥ずかしそうにしてる虹夏からお弁当を受け取り、ふたを開けてみる。

お弁当の中身は、煮込んだ人参や白菜、高野豆腐、サツマイモといった柔らかいもの、そして薄くスライスされた豚肉には大根おろしがかけてある。

すごく考えて、おなかに優しいものが詰め込まれていた。

 

〝おなか、もたれてる〟

 

昨日俺が適当にごまかすために言ったそんな言葉を、ちゃんと聞いていてくれたんだ。

 

「…………よしっ」

 

俺はこの瞬間、決めた。

ベースをやめたり、しない。

虹夏を裏切りたくない。

実はついさっきまで、虹夏には謝って、バンド活動は抜け出せてもらおうかとかも考えていたけど。

なんとかして、この子を笑顔にしたい。

優しくしてくれた、お礼がしたい。

 

「ねぇ、虹夏」

「ん?」

「ベース、頑張るね」

「ふぇ? え? なになに!? なんで急に?」

「ふふふ、なんでもない」

 

慌てふためく虹夏が可愛くて、思わず笑ってしまった。

 

 

 

 

……とはいえ。

 

「どうやってベース、弾けるようになるかなぁ」

 

頭を悩ませる俺なのだった。

 

 

 

 

 

 

 




5月29日、虹夏ちゃんハピバ。
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