まだ、年始を迎えるカウントダウンが始まっていないのに、もういくつかの花火が上がっていた。
渋谷は良くも悪くもタフだった。
カルト化した10万人の魔女の集団が大量発生したと思うと、唐突に神隠しされて一時的に行方不明になったのにもかかわらず、騒ぎの元凶の魔女達の女神アラディアがやられた瞬間に騒ぎが沈静化して、いつも通りに平常運転を開始したからだ。
みんなで揃ってスクランブル交差点に集まり、巨大な電光掲示板で減っていくカウントダウンを見ている。
情報や感情の消費がとにかく早くて恐ろしく感じるほどだ。
眼帯お化けのようなコスプレをしていたが、アラディアの布教で魔女のコスプレをして魔女になった配信者が同じような方法で魔女になったお仲間と一緒にバックに花火を写しながら動画配信している。
仕事を休んだあるデリヘルの女性は二の腕の小さな傷を見せて、自分と関係がある若い男性を困らせながら花火を見ていた。
とにかく色々な人間が色々な方法で、年末を過ごして年始を迎えようとしていた。
多種多様な人間が渋谷に集まっていたが、皆が共通する考えをしていた。
埴安神袿姫を筆頭とした超絶者達の影響かもしれないし、人々が自発的に抱いた考えかもしれない。
それは、自分が目指す理想の偶像になるために明るく元気に生きていこうという考えだった。
埴安神袿姫と気絶したアラディアを肩に背負った杖刀偶磨弓はビルの屋上にいた。
アンナ=シュプレンゲルが構築殺しでだるま落としのように壊したビルの屋上にだ。
何故、直っているかと言うと造形術で作り直したからに違いない。
彼女達は渋谷に集まって年末を過ごす人間を観察しながら話していた。
「袿姫様・・・・すみませんでした!この杖刀偶磨弓はアンナ=シュプレンゲルが抵抗したとはいえ、連れてくることが出来ませんでした!」
「いいのよ、磨弓ちゃん。本人の自由意志を尊重したとはいえ、私も上条当麻を説き伏せて『橋架結社』の拠点に連れてくるという目的を達成できなかったからおあいこよ」
「不肖な杖刀偶磨弓をお許しくださりありがとうございます!袿姫様!」
元々、杖刀偶磨弓とアンナ=シュプレンゲルとの間に何かあったなと疑っていた埴安神袿姫だったが、大声で返事するのと磨弓がアンナ=シュプレンゲルと出会った場所のビルが壊れていたのを見て、確信した。
大方、高すぎた忠誠心のせいで大きな戦闘に発展してしまったのだろうとそう推測したのだった。
「では、私達の拠点に帰りましょうか」
「袿姫様、そちらは学園都市という都市がある方向ですよ?」
学園都市方面に向かって帰ろうとする埴安神袿姫に杖刀偶磨弓が疑問を投げかけた。
「アリスが学園都市に秘密基地を作ったらしいの、だからそこに帰ることになったわ。ついでにせんせいを連れてきてというお願いが達成できなかったのは不問にするらしいわ、よかったと思わない?」
「そうですね、袿姫様。アリスが不機嫌になってなくて磨弓も本当によかったと思っています」
杖刀偶磨弓の疑問に答えた埴安神袿姫は、童話不思議の国のアリスに登場するチョッキを着て、時計を持っている白ウサギの後をつけるように杖刀偶磨弓と一緒に学園都市に向かって行った。
「しかし、人間達が集まってわちゃわちゃするところは微笑ましいわね」
「不幸だぁ~!」
渋谷区から出る瞬間に先程、別れたツンツン頭の少年上条当麻の声が遠くから聞こえたような気がした。
おそらくバイト先でやらかしたか、腹ペコシスターの怒りを買って噛みつかれただけかもしれないし、おじいちゃんスマホを落として電子通貨が使えなくなったのを嘆いた声だったかもしれない。
でもそんな風になっているはずがない、気の所為だろう。埴安神袿姫を筆頭とする超絶者達が、上条当麻によい年末年始を過ごせますようにと祈っているから、その加護があるはずだ。
年始を無事に迎えた上条当麻達は、一切動きたくない気持ちに襲われていた。
1月1日、正月を迎える日くらいはゆっくりしたいという強烈な気持ちに従ってコタツの中でゴロゴロしているのだ。
「おい人間、もっとコタツの温度を上げろ」
オティヌスは天板の上でコタツを床暖房的な使い方をして、三毛猫のスフィンクスと一緒に丸まって寝ていた。
「そうだぞ〜とうま。この私はご飯ぶっ飛ばしてでも寝る方を優先する重大な決断をしたからコタツの温度上げて」
インデックスも食事より寝る方が優先とコタツの中で縮まって寝転がっていた。
「みんな〜・・・・・・・。初詣は昼過ぎでも良い?上条さんはやる気チャージが足りなさすぎて動く気力がないんだ。眠い・・・・・」
皆から言われたとおりにコタツの温度を上げた上条当麻はだらけた声を出しながら、肩までコタツにつかりながら寝転がっていた。
完全にコタツの魔力に囚われている上条達であった。
ふと、持っているスマートフォンを上条当麻が見てみると、あるネットニュースが飛び込んできた。
『受験ボイコット、とでも呼ぶべき社会現象に拡大の兆し。コタツシンドロームという危機感の薄い呼称を学園都市は推奨しておらず・・・・・・』
この正月はおかしい。
それが第十二学区にある神社で初詣をしている人々を見た御坂美琴の抱いた感想であった。
初日の出、甘酒、羽根突き、書初め、お年玉、おせち、餅つき、初詣、1月1日にやることを全部試してコンプリートしようと着物を着て神社に来たがおかしなことになっていることに気付いたからだ。
「どうか、受験で合格しませんように」
縦ロールの少女が大変リッチに500円玉をお賽銭箱に放り投げて、両手を合わせて願掛けしていたがお願いの言葉が変だった。
どうやら同じように着物を着て神社にやって来た食蜂操祈もそれに気付いた模様だ。
「帆風、今のは一体・・・・・・?」
食蜂操祈は爆弾処理でもするように帆風と呼ばれる縦ロールの女性に慎重に質問した。
「ええ、ですから」
少女の言葉には微塵も迷いが見られなかった。
「このまま時間が来たからという理由で何となく進学するくらいであれば、自宅に籠もって女王のために自分は何をすべきか何年でも真面目に考えて、女王ごと支配してくれる理想の神様が降臨してくれるのを待つべきかな、と」
帆風と呼ばれた少女から驚愕すべき言葉を聞いてしまった常盤台の女王、食蜂操祈は何も言えずに絶句した。
こんなふうに参拝客が喋って祈っていくからおかしいと思わざるを得ない。
絶句している食蜂操祈を余所に、御坂美琴は参拝客が思い思いのままに書き込む絵馬をまとめた棚がおかしいことにも気づいてしまった。
『親や先生が合格しろとうるさく言いませんように』『悪目立ちしたくないので身体検査で能力が上がらないように』『お年玉とかいらない』『もう諦めたい』『勉強しなくても怒られないように』『楽になりたい』『留年で良いし』『つかれた』『恨』『怨』『何も考えたくない』『何もせずに生きられるように誰かに管理されたい』『ヒキニートに俺はなる!』『神様に無知のままで完全管理されたい』『死んで無になりたい』『人生終わりたい』『天国に行きたい』『来世はナマケモノになりたい』『皆が勝手に崇めて行動してくれる、何も考えられない偶像になれますように』『テクノ人間主義?トランスヒューマニズム?のカースト上位者が作るユートピアの底辺カーストになって管理されたい』『ホモ・デウスならぬイドラ・デウスが降臨してきて、その神様が運営する理想社会で自分達を管理してほしい』『私は何も考えなくて済む伽藍洞の埴輪になりたい』等・・・・・。
こんな文言をまとめた絵馬でびっしりと埋め尽くされていたからだ。
「なによ、これ・・・・・」
そういうイタズラではなさそうだ。一つ一つのペンの太さや筆跡が明らかに違うし、同じ人間がネガティブな言葉を並べていった訳ではないようだ。
これは、ちゃんと各々が自分の思いをぶつけた結果がこうなっているにすぎないだろう。
ほら、証拠に今も色々な人間が絵馬におかしな願いや祈りを書いて棚に丁寧に飾っているではないか。
コタツシンドローム、それは認識災害、ミーム汚染とも言える恐ろしい社会現象だった。
学園都市は良くも悪くも学生の競争社会で成り立っている学校の街故に、成績が悪くなっても構わない、停学や退学の処分を受けても気にしない、積極的に他者を害するのではなく、自分の側が動かない行動をされるのは結構致命的だ。
このまま学園都市に広まったら、一部のエリートを支える学園都市の構造が下から崩れるだろう。
学園都市に来ただけでダメージを与える『橋架結社』の超絶者達の影響力恐るべし。
実際は、アリス=アナザーバイブルと埴安神袿姫の影響力が群を抜いているだけで、何もせずに学園都市にダメージを与える影響力を持っているのは、この二人の超絶者だけだが。
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