皆様が好きな超絶者は誰ですか?
「ごちそうさま!ですしっ!!」
白亜の城と呼べる外観をしている『橋架結社』の領事館の大きな食堂で出てきた料理を食べ終わったアリスが100点満足の笑顔を浮かべて宣言した。
色々な超絶者達と一緒に夕御飯を食べ終わった上条当麻はちらりと視線を窓の向こうに振った。とっくに陽が落ちて、すでに夜と呼べる時間帯になっていた。
上条当麻達は『橋架結社』で一日を過ごすことになった。
問題、そもそも何でこんな事になっているんだろう?
答えはこうだ。
『え?だってせんせいは少女の家にお泊りするんですし』
さも当然な感じで言われてしまったからだ。
泊まることを断ることも出来たが、そうは言いにくい雰囲気を周りの超絶者達が構築していた。
「『旧き善きマリア』。お前の中華料理美味しかったぜ。また食べるのが楽しみだ」
「まあ、ママ様の料理を堪能して貰って嬉しいですわね」
『旧き善きマリア』が羊の彷彿とさせる白色のモコモコ髪が特徴的なセミロングの頭に、青いリボンを巻いた真っ赤な羊角を二本生やしている饕餮尤魔という少女に作った料理の味で褒められていた。
「『橋架結社』の料理、美味しかったんだよ。とうま」
「そうだな。インデックス」
実際、その通りなんだろう。インデックス達もご満足で胃袋を握られていた。
そして、埴安神袿姫に無慈悲なアッパーカットを食らって死にかけた上条当麻は、その後、処刑専門の超絶者ムト=テーベや饕餮尤魔、吉弔八千慧、驪駒早鬼といった超絶者をアリスに紹介された時にこう思った。
というか全部で何人いるんだ、超絶者という存在は。
超能力者や聖人くらいの選ばれし感だったらまだしもだが、そんな予測だって根拠は特にない楽観的希望に過ぎない。『神の右席』のように、人数に確定はないのだ。あの規格外の実力でどこぞの量産用クローンみたいに超絶者が一万も二万もいたら怖すぎる。悪夢みたいな光景だ。
そしてただ単に破壊方向へ極振りに見えるアラディアみたいな超絶者達だけではなくアリスや埴安神袿姫、『旧き善きマリア』のような味方を治療、復活できる存在もいることも恐ろしい。
カエル顔の医者が複数いるようなモノだ。
◇
『橋架結社』にはある問題があった。
それは『橋架結社』の超絶者が殺害派と救出派に分かれて、十二月三一日の渋谷で起きた身内同士のイレギュラーな百害あって一利なしな戦いを引き起こした、元凶であるアンナ=シュプレンゲル関連の報復問題であった。
その件について上条当麻は少し考えてみた。
いったん感情は脇にして、そもそもあの怪物は、物理的に殺せる存在なのだろうか?
・・・・・多分『できる』と上条は思う。童話『不思議の国のアリス』絡みのDrink_meの文字があり、穂先に特殊な液体を封じた投げ槍の群れ、霊装『矮小液体』。
あれでどんな超絶者だろうが体を貫かれて強制注入されたらアウトだという話なら、おそらくアンナ=シュプレンゲルは本当に死んでしまう。倒すというか懲らしめるとかではない。死ぬ。
アンナは確かに怪物といえる恐ろしい魔術師だけど倒せる存在だ。十二月二十五日に上条当麻が体の中にいた魔術師サンジェルマンと一緒に共闘して実際に倒したからだ。
では具体的な殺害までの道筋が見えているからこそ、だ。
アンナに対する『報い』については全員の総意だという。
だが、死の運命を変えるためという理由で善意100%で殺しにきた埴安神袿姫はともかく、ボロニイサキュバスや『旧き善きマリア』にそんなぶっ飛んだ残虐性は見られなかった。初めて知り合った上条当麻のために、無償で力を貸してくれるほどだった。そんな彼女達が、どうして他の超絶者達と同調してアンナ=シュプレンゲルを処刑しようなんて話をしているのだろう。
H・T・トリスメギストスが説明した現状の『橋架結社』の問題とそれを解決するべく、全員の総意が生み出した処罰のことを本人の口から確かめるべく上条当麻はアンナ=シュプレンゲルの件をボロニイサキュバスや『旧き善きマリア』に聞いてみた。
『橋架結社』の中では、割と善玉。
組織の良識的な役割を持った超絶者。
そういう上条の勝手なイメージを覆す格好で、ボロニイサキュバスはこう宣言した。
「まあ殺すよ。アンナ=シュプレンゲルは別に救済対象の冤罪被害者って訳じゃないしの、ただストレートに組織を裏切った真っ黒な罪人まで誰彼構わず助けるほどわらわもお人好しではないばい」
『真っ当路線な超絶者』かと思われた『旧き善きマリア』も大きな帽子ごと首を傾げているだけだった。
「このケースではママ様の奇跡が選ばれた特権階級だけのものだなんて誰が決めたという『救済条件』とも合致しませんね。故に、善悪好悪の問題ではなくもっと単純に、ママ様にはアンナ=シュプレンゲルを助ける動機はありません」
では他の超絶者達の意見はどうだ?
「アンナ=シュプレンゲルは強者と聞いている。私の『救済条件』に当てはまらないな」
翼を大きく広げながら体操をしていた驪駒早鬼も他の超絶者達と同じく処刑賛成派のようだ。いや、アンナ=シュプレンゲルと戦いたいだけなのか?
「経歴を見る限り、アンナ=シュプレンゲルは落ちこぼれや出来損ないではない存在です。私の救済対象ではありません」
『橋架結社』が手に入れたアンナ=シュプレンゲルに関する情報を纏めた紙の資料を見ていた吉弔八千慧は冷静に処刑理由を上条当麻に告げた。
「アンナ=シュプレンゲルは自分の欲望を上手くコントロールして確定的な破滅を避けている強かな魔術師だろ?私の『条件』に当てはまらないし、そもそも私達はムト=テーベと一緒にアンナ=シュプレンゲルを処刑するように『設定』されているから、情に訴えても方針は変わらないよ。残念だったな」
饕餮尤魔はしゃがみながら、ギザ歯が目立つ立派なニヤニヤとした笑顔で答えた。
他の超絶者達にも聞いてみたが、皆似たような返事だった。
色々な返事を聞いた上条当麻の口からはもう何も出てこない。
何故。こんな基本も基本で足踏みをしているのか理解できないという空気を各超絶者が出していた。
『設定』、『条件』。何だ、今のは?この胸の中でゴロゴロした強烈な違和感の正体は何だ!?
「気づいちゃったようね?超絶者はそれぞれ理由を持って『橋架結社』にいるの。自分以外の何かを守るために。そいつはわたくしも同じ。でも逆に言えば、わたくし達に気紛れは存在しない。明確な目的を持って集まっている以上、そこに合致するかしないかは非常に大きな判断材料になるの」
上条当麻の隣で囁いたのは、同じ超絶者のアラディアだった。
彼女も処刑賛成派だったが他の超絶者と違うところは比較的、会話が通じて、人間味が溢れているように見えたところだった。
「定められた『設定』にある『条件』に一致すれば『橋架結社』にいる超絶者の誰かがアンナを助けるでしょう。今のところそういう超絶者は現れてない。真実はそれだけよ」
周りにいる『橋架結社』の超絶者を見て上条当麻は汗を流した。
なんていうか、違う。超絶者達は、これまで見てきた強敵達とは何かが決定的にズレている。
それらが同じ空間にいるおかげで人間とは別の何か、人外と呼べる存在が支配する空間で檻の中に入れられて管理されている気分になってくる。
今度はアリス=アナザーバイブルにも聞いてみた。
「別にどっちでもなのよ。でも嘘つきや裏切り者は嫌いかなー?ですし!」
「・・・・・・」
これまた単純明快。こちらを見上げる瞳は純真無垢。丸っきり子供の理論100%で人の命を扱ってくれる。
そもそも『矮小液体』が『不思議の国のアリス』由来だと考えたら、当然アリスも手を貸していると考えるのが当たり前なのだ。
アンナ=シュプレンゲルは憎い。好きか嫌いで言ったら片方にしかならない。
サンジェルマンの件やロサンゼルスで起こした災厄も見てきた。学園都市で起きた悲劇にも関わっているかもしれない。
だけど、じゃあ彼女を殺すのかと言われたら返事に詰まる。
上条当麻が考えている解決はそういう方向じゃない。
(アンナに死んでほしいわけじゃないし、アリスやボロニイサキュバス等がやるのも何となく嫌だ)
それでもせめて。目標として掲げるくらいなら。
(スタンスはこれでいい。その上で処刑一択で固まっている『橋架結社』のやる事についていけば、土壇場でアンナのヤツをよそへ逃がす事もできるかも?)
もちろん、アンナ=シュプレンゲルは言うまでもなく史上最悪レベルの悪女だ。処刑回避といってもあの女を野放しにしてしまうのはどう考えても危険だ。
サンジェルマンと力を合わせて、殴り倒して牢にぶち込んでも抜け出してきた。
どうしたら良いのか、そんなのはっきり言える事なんか何もない。ただ上条当麻は明確な間違いと分かるところから否定していくだけだ。
そうだ。まだ埴安神袿姫とその従者の超絶者杖刀偶磨弓が残っているじゃあないか。その二人の意見はどうだ?
「袿姫様なら従者である杖刀偶磨弓と自分の『設定』を調整してアップデートしていますよ。分かりやすく例えたら一般的な化粧みたいなモノです」
「わたしも埴安神袿姫に『調整』という用があるから部屋に案内するよ」
H・T・トリスメギストスから埴安神袿姫の部屋の居場所を聞き出した後、処罰に特化したエジプト神話系の超絶者『ムト=テーベ』と呼ばれた自分のテリトリーを守るという設定を自分にしている褐色の少女に案内してもらった上条当麻は、ムト=テーベが用を済まして埴安神袿姫の部屋から出ていったのを見送った後、目標の部屋に扉を開けて入っていった。
「検索してみましたが、今のところ当てはまる『条件』がありませんね。そもそもこの杖刀偶磨弓という存在は最初からアンナ=シュプレンゲルを処刑しようと動いていましたよ」
「ごめんなさいね。行動理念から殺害という手段はなるべく避けているけど、どうしても必要に迫られたら躊躇なく殺害をするような『設定』を今の私はしているの」
取り付く島もないほどの即答だった。
この一日で見てきた『橋架結社』の領事館にある色々な部屋と違って、より一風変わっていると思える、サイバネティクスな部屋の中にいた埴安神袿姫と杖刀偶磨弓の答えもアンナ=シュプレンゲル処刑賛成派だった。
(ダメだ・・・・見た目は近づけているようでも、触れ合っていない。俺はまだ、超絶者達の事を何も理解できてない・・・・!)
そう思っていた上条当麻に埴安神袿姫はある言葉をかけてきた。
「でも、貴方がある誘いに乗ってくれたらアンナ=シュプレンゲル処刑反対派になってあげるわよ」
最初に見た時から雰囲気が随分変わって、心なしかより美しく見える美貌を身に付けた埴安神袿姫が絶望していた上条当麻に蜘蛛の糸を吊るしてくれた。
「『橋架結社』に所属する超絶者達の救済活動を手伝ってくれない?そう、私達が築き上げて管理する世界の『採点者』になってほしいの」
それは十二月三日に学園都市に現れた魔神僧正が上条当麻に言ってきたことと似ていた。
「私達『橋架結社』がどういう方針で動いているかは、H・T・トリスメギストスやボロニイサキュバスから説明して貰ったから分かると思うけど、どういう世界にするかを皆で会議をして動いているの。これから皆で『しあわせな世界』を目指すためにより忙しくなる。だから、もう一度言うわ。上条当麻。『橋架結社』の一員、『理解者』にならない?」
「・・・・・・」
「実を言うと、私はあの黒一色の世界で貴方が魔神オティヌスと戦うところを見ていたわ。勿論、繋がる力による対話による解決も。『橋架結社』は既に貴方と深い縁を結んでしまった。だからいっそのこと、上条勢力に入ろうと思うの。貴方達と私達『橋架結社』の力が一緒になれば、魔神が造った『しあわせな世界』を上回る。より完璧な『しあわせな世界』を必要最低限の力で造形し、対話で運営、管理できると思うの!素晴らしいことだと思わない?上条当麻!!」
屈託もない笑顔だった。
その笑顔は誰もが虜になる偶像の如きの美貌だった。
下手したら意思がない無機物や空間そのものも虜になるかもしれない。
「さあ、私、『造形神』埴安神袿姫を筆頭とした超絶者達と一緒に委ねられたこの世界を救済して、何一つ悲劇がない『しあわせな世界』を造り管理しましょう!」
埴安神袿姫はこの世に並ぶモノがいないといえるほど絶世な美しさを持つ手で握手を求めるように、上条当麻に向けて差し伸ばした。
願掛けとは願いを掛ける行為。
神頼みとは神に頼る行為。
神様の方が自ら人に歩み寄り、手を差し伸ばしてきたんだ。今さら何を迷う必要がある。
上条当麻は繋がる力とやらで色々な人物と関係を持ったんだ。
訳アリで歪んでいるといえるかもしれないが、アリス=アナザーバイブルやアラディア、ボロニイサキュバス等の上条当麻に対して好感を持っている超絶者は多いんだ。目の前にいる『造形神』埴安神袿姫という超絶者も上条当麻という人間に好感を持っているに違いない。
だから埴安神袿姫の誘いを飲んで『橋架結社』に所属する超絶者達を上条勢力に加えろ。
それだけでよりもっと多くの人達を救えるんだ。
上条当麻は、みんなを救うヒーローだろ?
埴安神袿姫という、この神様の手を取ったらより多くの存在を救える救世主になれるぞ。
かつてあった魔神僧正やネフテュス等の提案とは少し違うんだ。世界を『しあわせな世界』にして管理して救済するといっても、お前好みの皆と一緒に頑張るという過程があるんだ。だからその手を取って、繋がる力を活かしながら『しあわせな世界』を目指して頑張ろうじゃあないか。上条当麻。
そして、世界中の人間達を支える、一点も瑕なき完全無欠の偶像になれ。
超絶者埴安神袿姫を筆頭とした一部の超絶者達は定期的に『設定』をアップデートし続けています。
埴安神袿姫は精神攻撃耐性と外見の美しさ等が上がりました。