紅蓮の炎が夜空を焼き焦がしていた。呼吸をするたびに肺の奥まで潜り込んでくる黒い煤は、それだけで寿命を削りにかかる。
迷信の残る森の奥だった。
そこにログハウスを建てて住んでいた人物が魔女認定されて魔女狩りにあっていた。かろうじて超絶者の救済が間に合ったとはいえ、被害にあった小さな老婆が何をしたのだろう?
森に生きる者として小鳥を手懐ける術を知っていたから?あるいは、窓辺に留まる黒猫が不憫で追い払う事ができなかったから?あるいは、人里離れて一人でひっそりと暮らしていたから?あるいは、ずっと前から生きてきたから語って聞かせる昔話に事欠かせなかったから?
「こんな私を助けてくれてありがとうね・・・・」
ある超絶者の女性が焼け死ぬ運命から回避できた小さな老婆から感謝されていた。
魔女達の女神と呼ばれる女性は考える。
それらの、どれとどれを組み合わせたら。得体のしれない伝染病がが蔓延したのはこいつのせいだ、なんていう結論に結びつけられるのだ?
「全くおかしいよね。アラディアちゃん」
たまたま、自分と一緒に行動していて救済活動を行っていた埴安神袿姫の言う通りだ。
ああ、『こんな時代』になっても世界の矛盾と理不尽は変わっていなかった。
「夢か・・・・」
自分が胸に刻みつけた行動理念の一つになった、過去の夢を見てしまったアラディアは自分より早く起きていた上条当麻、アンナ=シュプレンゲル、ヘカーティア・ラピスラズリと驪駒早鬼を見た。
ちょっと待て、何故皆の輪の中に驪駒早鬼が混ざっているんだ?彼女は自分達を処罰する側の超絶者だろ。
「監視するなら対象をより近くで監視した方がいいだろ?安心しろ、杖刀偶磨弓とムト=テーベが合流しない限り戦闘行為はしないからさ。逆に言えば、合流したらそれはそれとして戦闘をするぞ」
そんなアラディアの心のツッコミが声に出ていたのか、驪駒早鬼が何故輪の中に入っているのかという魔女達の女神が思っている疑問に対して答えを出した。
答えになっていないと思うが彼女の中では筋が通っている理論らしい。
「なあ・・・・アンナ、どうする?」
「今のところ害にならないし、放っておきましょ。そういえば愚鈍は『橋架結社』の領事館で一日暮らしたことがあったよね。彼女の『救済条件』を知っているはずだから、わらわ達を当てはめて言い包めることが出来るか、得意の話術で勝負してみなさい」
上条当麻とアンナ=シュプレンゲルは愉快な仲間たちを引き連れて、全体が複合型映画館ことシネマコンプレックスで構成された高層ビルの中に入っていく。
歩きながら上条は驪駒早鬼に話しかけようとしたが、彼女に先手を打たれた。
「残念ながら、お前達は私の『救済条件』に当てはまらないぞ。アンナ=シュプレンゲルは勿論、上条当麻もだ。お前という存在は草の根を一本も残さない勢いで世界中を駆け巡り、握った拳で並み居る猛者どもを薙ぎ払い、気に入った男女は善も悪も強者も弱者も老いも若きも関係なく丸ごとかっさらって抱いて寝るという世紀末救世主伝説を持つ益荒男と聞いたぞ!」
「うっ、頭が痛い・・・・ッッッ!!!まだ残っていたのか!!そのイメージ図がッッ!!!しかもさりげなく何か規模が拡大している!!??」
魔神オティヌスにぶち込まれた、ある世界を思い出したツンツン頭の少年はどこで仕入れてきたのか分からない情報を鵜呑みして、キラキラとした目を向けてくる驪駒早鬼にツッコミをすることを忘れて、頭を覆い悶絶していた。
その様子を見て二人の女性がくすくすと笑っていた。
アンナ=シュプレンゲルと魔神から超絶者になった存在、ヘカーティア・ラピスラズリである。
「理想の偶像として顕現したこともある上条当麻の性質を考えたら、ある意味まちがっていない伝聞ね」
「神浄討魔は『魔神』という存在も歯車にする世界の中心点でもあるけど善も悪も関係なく貪り尽くす側面も持っているから、本人にとって風評被害といえど神浄討魔の性質の一つを見事に捉えているわね。出処は知らないけど、この話を作った者には感心したいものです」
流石は薔薇の重鎮と『魔神』。その叡智は神浄討魔の謎をちゃんと理解している。
しばらくすると、R&Cオカルティクスがバックアップを取って保存していた魔術データベースがある場所に一行はたどり着いた。
よそにある中央サーバーから映画のファイルを落としてスクリーンに上映する為の中央上映制御室にある装置をアンナ=シュプレンゲルは起動していく。意外だが起動画面は普通のパソコンに見えた。
そして、小さな薔薇の悪女は『橋架結社』の資料が置いてある項目に行き着いた。
冷たく光る画面の文字を睨みながら、アンナは自分に言い聞かせるように自分の知識を口に出して過去と現在の照らし合わせをしている。
「『橋架結社』の超絶者・・・・。H・T・トリスメギストスはおそらく紀元前由来、『旧き善きマリア』は遅くても三世紀前後━━━━」
元々、この魔術データベースはアンナ=シュプレンゲルが抱えていた秘奥の叡智や技術で作った代物だ。
既に頭の中に情報を叩き込んでいて分かっているのに、わざわざ確認するのは、大事な情報を纏めたメモを確認するように外から具体的な『確定』が欲しいのだろう。
画面を下にスクロールさせながらアンナは周りに話しかける。
「愚鈍に『橋架結社』の目的と超絶者という存在の真実を知らせるけどいいよね?」
壁際に腕を組んでいるアラディアは何も返さない。
「別に知られたことで困らないよ」
いつの間にか顕現していた聖守護天使エイワスやヘカーティア・ラピスラズリと一緒に椅子に腰掛けて缶のお汁粉を飲んでいる驪駒早鬼が三人を代表して返答する。
「衝撃を受けるかもしれないけど、ちゃんと聞いてね。愚鈍」
周りにいる人物達から了承を取ったアンナ=シュプレンゲルはゆっくりと未熟とも妖艶ともいえる唇を動かして真実を語り始める。
そして少年は『橋架結社』の計画と超絶者という存在の正体を知る━━━━━。
それは一月四日の第十五学区の出来事であった。
ぶるると、褐色少女のムト=テーベは体を折り、自分の肩を両腕で抱いて、それでも体は小刻みに震わせていた。
『黄金』や『薔薇』といった魔術師達みたいに『魔神』や世界全体と戦って勝てる可能性がある超絶者という存在以前に、彼女は普通に寒がりな女の子だ。
自分の白い息とか見たくないほど、寒いのが嫌いだった。
『橋架結社』の領事館にいた時も、基本的に館内に留まり、暖炉の前に置いてあるコタツの中でぬくぬくしている方が好きだった。というか表に出るのは特別にアリスを出迎える時くらい、といった方が正しい。夜寝る前にはお風呂でじっくり体を温め、入念なストレッチで体温をさらに上げて、そこからホットミルクを飲み、ベッドは掛け布団と布団が全部で三枚、しかもエアコンの設定温度はがっつり二八度である。
ここまできたら、ムト=テーベという超絶者はコタツシンドロームにかかっていると言えるだろう。
(・・・・ボロニイサキュバスとかアラディアとか、わたしと同じように露出が多い超絶者はたくさんいるのに、何であの格好でけろりとしていられるの?まさかしれっと体表を守る保温術式でも開発している?内緒にするなんてずるい・・・・。『旧き善きマリア』やH・T・トリスメギストスみたいな露出が少ない服装をしている超絶者が羨ましい、妬ましい・・・・・)
12月の寒さに震えている、今の彼女はどこぞのパルパルしている妖怪にも負けないくらいに同じ『橋架結社』に所属する超絶者達、アンナ=シュプレンゲルみたいなイレギュラー超絶者に対して嫉妬の炎を燃やしていた。
それは自分と一緒に行動している杖刀偶磨弓も例外ではない。普通に嫉妬の目を向けていた。
だったら、厚着の服に着替えればいい?無茶をいうな。出来ないのだ。勿論、彼女以外の超絶者にも。
一部の超絶者には出来る存在がいるが。
その出来る側の超絶者の杖刀偶磨弓が心配するようにムト=テーベに声をかけた。
「大丈夫ですか?ムト=テーベ殿?」
「大丈夫じゃあない・・・・。寒い・・・・・」
そこには第六学区の遊園地に置いてあった屋外ヒーターに当たりながら、遊園地に勤めているおじさん達からパレードに出演する少女と勘違いされて、可愛がられた挙げ句に分けてもらったアツアツのココアと焼き立てのお餅を美味しそうに堪能している二人の超絶者がいた。
仕事はどうしたって?忘れていないから安心してほしい。アンナ=キングスフォードや魔神を相手取る兵器を造る材料を調達する為にこの場所にやってきたから。
『新技術実証試験公開中』という案内板の隣に立ちながら二人の少女は遊園地の出し物を見上げていた。
次世代航空戦艦・HsB‐AD‐CVA01『ふがく』
全長300メートル、総排水量10万6000トン。
速力50ノット。駆動方式、流体力学発電+補助ディーゼル機関(出力四五万キロワット)。
規格外長射程、大鑑巨砲主義の戦艦をベースとし、三五センチの大口径艦砲と大型巡航ミサイルによる比類なき打撃力を実現した本館は、しかしそこに留まらず、後部の余剰火力を削減して電磁式カタパルトを搭載しております。これにより最新鋭の単座多用途ステルス戦闘攻撃機『HsF/A49シャープフレイム』四〇機の運用も同時に可能とします。また最新バージョンの二〇〇連装レーザー迎撃ユニットをも併用し、敵航空機はもちろん弾道・巡航ミサイルを中心とした飛来物のほぼ完全な無力化にも整骨しました。
流体力学発電はその名の通り、船が航空や海水などの流体を切り裂いた時に生じる抵抗を利用してエネルギーを作る方式です。数万トンの貨物船がコンテナの積み方次第では嵐や高波で両断される事があるように、特に波の力は想像以上に大きなもので、これを正しく活用できれば事実上海に浮かべているだけで無尽蔵の動力を確保できます。
航空戦艦は一度は完全に廃れてしまった艦船分類ではありますが、これら各種兵装によって直接間接・攻守を問わない学園都市の最新技術が実現した世界最強の軍艦となりました。特に、対空レーダーや弾道予測用スーパーコンピュータなど地上施設への大規模な攻撃または高度な電子戦により中央データリンクと寸断された状況であっても、本艦単独で対弾道ミサイル等戦略レベル迎撃インフラを丸ごと保持できるのは非常に大きな強みとなっていて・・・・。
「使えますね。これ」
「改造と強度を上げる手伝いよろしく。杖刀偶磨弓」
ううううううと鳴っているサイレンを聞きながら上条達は二人の超絶者を見上げる。
杖刀偶磨弓とムト=テーベ。鳥のような形状に魔改造されて空を飛ぶという機能を得た航空戦艦の甲板に立っていた。それは戦艦大和の46センチ主砲や六枚羽等、新旧問わずに色々な兵器が原型がないほどに素材として組み込まれていた。
だが、組み込まれている兵器達は正常に稼働して、元々持っている機能や性能を超えた動きを見せてくるだろうという得も知れない確信を上条当麻に植え付けてきた。
「ムト=テーベ!!杖刀偶磨弓!!俺達は降伏するから話を聞いてくれ!!」
少年は大声で叫ぶ。
「分かりました。戦闘で無駄な被害を出したくありませんし、話を聞きしょう」
上条の目の前にスタッと杖刀偶磨弓が飛び降りてきた。
「ああ、俺達は『橋架結社』の計画や超絶者の正体も知った。だから儀式を中止してくれ!!アンタ達は蘇らせてはいけないモノを蘇らせようとしている!!」
しかし、アンナ=シュプレンゲルやアリス=アナザーバイブル、埴安神袿姫、ヘカーティア・ラピスラズリといった存在を除いたら、量産が可能という衝撃的な事実を未だに上条当麻を受け止めれない。上条自身、超絶者を知らない間に高次な存在、特別な魔術師であってほしいと願っていたのか?
そう思いながら上条当麻は目の前にいる杖刀偶磨弓がどんな返答をするかを待っていた。
「『一般的』に考えたら、私達が復活させようとしている人物はそんな存在ではないと思いますが・・・・そしてもう遅いですよ。とっくに『橋架結社』は儀式を今日、済ませました。残念ですね」
気がつくと周囲の景色を黄色の粉塵が覆っていた。600メートルを超える翼を持つ航空戦艦の質量で破壊された建物で大量の粉塵が発生したとはいえ、これはおかしい。まるでロサンゼルスであらゆる人間を消失させた黄色い砂の災厄のようだ。
「その少女の言う通りじゃ」
しわがれた声がした。
黄色い砂嵐の中で何かが光ったと思うと航空戦艦を破壊して大爆発を起こした。
幸いに主人の危機を察して出てきたエイワスのプラチナの翼やヘカーティアの位相操作によって、全員が無事という結末になったが、まだまだ危機は消えてない。
「遅かった!!あのCRCが復活してしまったわ!!」
アンナ=シュプレンゲルの視線の先にはある人物が立っていた。
そこにいたのは銀の髪にあごひげを生やした赤衣の青年。魔神も超絶者も超能力者も魔術師も。全てを超える存在、クリスチャン=ローゼンクロイツだった。
「きひひっ『橋架結社』はこの老骨がもう壊滅させたぞ。まぁ 死んだ者は少ないし、何名かは無傷で逃してしまうという残念な結果を作ってしまったがのう。さて、この場所にいる超絶者諸君と上条当麻。この老骨の情念を受け止めることが出来るかえ?」
老骨を予定より早く登場させました。
1700年かかるプランを短縮して計画を進めるアレイスターを脳内にインストールして、アドリブで今の物語を書いています。
そして、魔神であったオティヌスやアンナ=キングスフォード、エイワスでもCRCの正体がヨハン=ヴァレンティン=アンドレーエということを見破れなかったから、危険性を知っているシュプレンゲル嬢が正体を見破れなくてもおかしくはないと思います。