だから老骨も自身にインストールして情念を湧き上がらせて書いています。
燕尾服を着た青年、少年、バニーガールの少女など複数のサンジェルマンがクリスチャン=ローゼンクロイツの兵隊になって無言で付き従っている。
『隊長!!服装は変わっているけど、あれは容疑者に砂に変えられた人達です!!どうしますか!!』
『構わず撃て!!』
『そんなっ!?』
『落ち着け!!まずは威嚇射撃だ!!』
いや、複数と呼べる規模ではない。クリスチャン=ローゼンクロイツがキトニタスという魔術で砂にした人間を全部回収したのか?黄砂の砂嵐から次々とサンジェルマンが出現する。それは最早、軍勢と呼べる規模になっていた。
「劇症型サンジェルマンウィルス・・・・」
アンナ=シュプレンゲルがサンジェルマンウィルスに感染した人間達の軍勢を見て呟く。
クリスチャン=ローゼンクロイツに無言で付き従っているサンジェルマン達は劇症型、軍用型と呼ばれる純度が高いサンジェルマンだった。能力者も感染しているようでかつての上条当麻のように能力者が魔術を使う際の副作用で全身が血に染まっていた。
同じ『薔薇』のアンナ=シュプレンゲルがサンジェルマンウィルスを引き摺り出して、上条当麻という他者に感染させたことが出来たから、エイワスを保有していることを除いたらシュプレンゲル嬢の上位互換と呼べるローゼンクロイツが軍用型のサンジェルマンウィルスを量産できるのは至極当然のことだろう。
異なる平行世界で、クリスチャン=ローゼンクロイツの皮を被った超絶者であるヨハン=ヴァレンティン=アンドレーエは、使う魔術の種が割れて倒された後、自身の真実を語られるついでにサンジェルマンの焼き増しとアリス=アナザーバイブルに愚弄されてメンタルにダメージを負ってトドメを刺されたが。それでも技量は本物と断言できる。
「詐欺師と呼ばれた魔術師よ。この老骨が命令する、魔術を行使することを許可するぞ」
警備員による威嚇射撃を無視して進撃してきてクリスチャン=ローゼンクロイツの命令に従ってサンジェルマン達が身体にかかる負担も気にせずに一斉に魔術を行使する。
学園都市に存在する全ての大気に含まれる炭素が操作される。
サンジェルマン達の並列作業を妨害するべく動いたのは禁書目録。
インデックスが妨害の手段として選んだのは『魔滅の声』でなく『強制詠唱』。
両手を組んで高らかに歌おうとする。が、その隙を見逃すクリスチャン=ローゼンクロイツではない。
この場にいる存在の大半が反応できない速度の死の飛び道具がインデックスを襲って、その身体に風穴を開けて肩に乗っているオティヌスごと吹き飛ばす。
「インデックス!!オティヌス!!」
少年の日常の一つであり、守るべき存在の命がCRCに一瞬で無惨に奪われる。
「まずは一つ、いや・・・・二つじゃ」
本来ならあえて強制詠唱の隙を見逃して、自分にはその技術は一切効かないということを示して魔道図書館として活動していた人生を否定して誇りを侮辱したかったが、あいにく今の慢心、舐めプ少なめのクリスチャン=ローゼンクロイツはその気分ではない。
しいて言えば今は上条当麻の中にいる能力を引き摺り出したい気分だ。アレを引き摺り出したら上条当麻というヒーローは、『切り離す力』という法則によって既存のレールから脱線するのは確定だ。そこに残るのは勝っても負けても周りを巻き込んでどちらかが破滅するという確定した結末のみ。
CRCはそれを求めている。王冠を載せた竜の王に勝てる算段はある。いや、勝てて当たり前だろう。ローゼンクロイツそのものはアリス=アナザーバイブルや神浄討魔を纏めて相手できるとお墨付きをいただいている桁外れの魔術師だから。
実際にこの世界では同じく規格外の存在である埴安神袿姫を直接対決で下して一回殺害するという結果を作ったのがいい証拠だ。
「さて、上条当麻よ。幻想殺しという硝子の器を砕いて『従える力』という世界を治す秘薬の一種を取り出さないのかえ?それを取り出せばこの老骨を倒せるぞ?」
蜂蜜色の少女がサンジェルマン達やクリスチャン=ローゼンクロイツにハンドバッグから取り出したリモコンを向ける。だが、そこで彼女の動きが止まる。両目さえ見開かれたまま瞬きをしない。
少女の中で、いきなり芯が折れた。
「なっ、うそ・・・・・でしょ・・・・」
・・・・効かない。自慢の心理掌握が通用しない!
同じ『薔薇』のアンナ=シュプレンゲルに挑んだ時の状況と一緒だ!
「この老骨にかような児戯が通じると思ったのかえ?むっ?」
銀の青年の眉が動いた。効いたのだ。食蜂と呼ばれる少女の攻撃ではなく、同じ非物理攻撃が得意なボロニイサキュバスと吉弔八千慧の『攻撃』が。ただ、何故かサンジェルマン達は微動だにしなかった。効いた素振りを見せたのはCRCだけ。
しかし、収穫はあったようだ。金髪の悪魔と竜を思わせる尻尾を生やした少女がサンジェルマン達に効かなかった理由を掴んだ。
「非物理攻撃で対象に干渉する存在でも超絶者のお嬢ちゃん達と違って、超能力は遠く及ばないのう?上条当麻の役に立ちたいと思っているが、役立たずじゃぞ。ふははは。この老骨に自慢の能力を活かしたければ、人間を辞めることをおすすめするぞ?」
サンジェルマン達に干渉が出来なかったカラクリを二人の人物に見破れそうになっているが、それを知った上でCRCは蜂蜜色の少女を煽る方を優先する。
お前の力は上条当麻を助けることはできません、足手まといです。第五位という肩書きの力より貴様がライバル視している人物の方がよっぽど役に立っているぞ?
同じような攻撃が出来る二人の存在が通用しなかったら、アレはそういうモノだと認識できたが、なまじ中途半端に同系統の能力とも言える二人の攻撃がアレに通じた事実が蜂蜜色の少女に重くのしかかる。
クリスチャン=ローゼンクロイツは人を苦しめて追い詰める方法を熟知していた。世界の完全な縮小模型という霊装による全知を利用して。
ただ、埴安神袿姫による検索妨害と本人の舐めプ癖で真なる全知とは全く言えないが。
「三つめ」
「食蜂ォ!!」
CRCに無力感を感じさせられた蜂蜜色の少女が、同じように自慢の能力の産物である超電磁砲を弾かれた学園都市第三位の目の前で撃ち抜かれる。
名前を聞いた瞬間に酷く懐かしいような、悲しいような、そんな複雑な感情がインデックスとオティヌスを失ったばかりの上条当麻を支配する。
アレイスター=クロウリーとアンナ=シュプレンゲルが何らかの魔術を行使してサンジェルマン達の動きを止めようとしたが無理だった。ローゼンクロイツに魔術を使用不可にされたから。
「おっと、せっかく面白い光景が見れるというのに何度も妨害するとは関心しないのう」
「なっ!?」
「やっぱりッ!?」
クリスチャン=ローゼンクロイツがアレイスターとシュプレンゲル嬢に使った術技にはトリテミウスといった名があった。対象の魔術にランダムな暗号化を施し永遠にロックをかけて使用不能に追い込む技だ。
対象の魔術に干渉する術はたくさんあるが、エリファス・レヴィやブラヴァツキー夫人等の近代魔術史に関する偉人達に大幅に影響を与えたクリスチャン=ローゼンクロイツことヨハン=ヴァレンティン=アンドレーエが使用したらこの通り。『黄金』と『薔薇』、『人間』と薔薇十字の重鎮、近代魔術に大きく影響を与えた二人の魔術師がいとも容易く無力化された。
幸い、お互いに力を供給する存在として大悪魔コロンゾンや聖守護天使エイワスがいるから、魔術を行使することはまだ可能だが。
そしてクリスチャン=ローゼンクロイツの演算能力の手助けもあってサンジェルマン達の作業が終わる。
顕現するのはダイヤモンドの雨という異常気象。海王星や天王星で引き起こされているそれと同じものだ。
死の雨が第二三学区に存在するモノの命を全て刈り取ろうと降ってくる。
ダイヤモンドの雨を確認したエイワスが急いで宙に飛び上がる。
青褪めた白鳥のようなプラチナの翼を大きく広げたエイワスがダイヤモンドの雨を全て消失させて、聖守護天使という肩書きに相応しいように第二三学区に存在する全ての生命体を守りきったが。代償は重かった。
今までの犠牲者と同じようにクリスチャン=ローゼンクロイツに撃ち抜かれたから。
鷹頭の天使が霧散して主であるアンナ=シュプレンゲルにただの力の塊として還っていく。
死んではないが、しばらくの時間、この世界に顕現するのは不可能な状態になっているだろう。
クリスチャン=ローゼンクロイツの暴挙は止まらない。近くにいた、あるサンジェルマン達を警備員達に向けて、プロ野球選手の投手のように素早く投げつける。
ある警備員は見た。見てしまった。そのサンジェルマンの姿を。正確に。
「「「「「痛い・・・・。痛いよぉ・・・・せんせい・・・・。どうして・・・・・私・・・・私達を殺したの・・・・?」」」」」
ローゼンクロイツに投げられたサンジェルマン達がこの時、初めて言葉を発する。
それは彼にとって罪の証だった。
十二月二十五日。誰にとっても等しく悪夢と化した血まみれの夜。暗部を一掃しようとした『オペレーションネーム・ハンドカフス』という計画が失敗した日。ニコラウスの金貨という呪われたクリスマスプレゼントが学園都市の住民達に広まった日。
ある警備員の彼、いや、彼らと言ったほうがいいか。彼らはその作戦に参加して『暗部』との戦争に不幸にも生き残ってしまった人間達だった。
そんな彼らが相対するのは、自分達の罪の象徴とも言える、図らずとも殺してしまった人間達。
本来、『ハンドカフス』というイベントは、比較的温和で社会のためになる必要悪の『好普性』と根っからの悪党で手の施しようがない『嫌普性』に分別された人間達を穏便に対処して『暗部』を平和的に解体する予定だったのだ。
そもそも『暗部』には何らかの理由で表の社会にいられず、裏の社会に堕ちてしまったワケアリの人間がたくさんいるのだ。元来、闇はただ恐れるために存在するわけではない。人を優しく包み込んで安寧と眠りをもたらすためにある不可欠なものなのだ。そうでなければ、今も異界でローゼンクロイツ=ダミーと分身体同士で戦っているヘカテみたいな闇を司る神様が生まれるはずがないから。
予定外の要素が入ったとはいえ、『暗部』という暗闇で傷ついた心と体を癒やしている人間達を優しく拾い上げるのが『オペレーションハンドカフス』に課せられた警備員の役目だった。そうだったはずだ・・・・。
だが現実は非情だった。『暗部』との戦争と呼べるレベルまで発展したから。暴走する正義。単純に死にたくないと抵抗するもの。ただ単に悪意をもって暴れるもの。守りたい存在の為に戦うもの。等、色々な存在の思惑が絡み合ってハンドカフスというプランは失敗したのだ。
みんな先生だったのだ。
こどもたちを守りたい。頼れる先生になって笑顔に囲まれたい。この街を平和にして、誰もが安心できる場所を作りたい。
警備員はそう思っていた人達が多かった。それ故にハンドカフスに参加した自分達の手で追い込まれていき、最後に破滅していく『暗部』の子供達を見て、壊れてしまったのだ。
あの時の地獄から復帰した警備員達が、己が犯した罪に迫られる。
再び砕ける。
「いや、だ・・・・」
見えないナニカがまた砕けてゆく。
「なんで!!俺たちが、いつも!!こんなことをやらなければ!!ならないんだッ!!クソッ!!違うっ。ごめん、なさい。ゆるして・・・・」
爆発性の流行のように、この場にいた警備員全体に罪の意識が急速に波及していく。
迫ってくる罪から逃れようとして、死んだ子供達の皮を被っているサンジェルマンに持っていた銃を向ける者。自分の頭を撃ち抜こうとする者。脇目も振らずひたすら無様に逃げようとする者。等、クリスチャン=ローゼンクロイツによって、あの時の悪夢、悲劇の空間が再形成されようとした。
「はい、そこまでです」
だが、その空気を断ち切った存在がいた。その人物の正体は吉弔八千慧である。
第二三学区にいた警備員全体を自身の能力で操作して、ハンドカフスの悪夢が再び顕現するのを防いだのである。
「ハンドカフスというイベントは情報としては知っていますが、既に死んでいる肉塊ごときにパニックになるのは、大変よろしくありません。こういう感想を持ってしまうのは、私という存在がこの世界に生まれたばっかりかもしれませんが」
吉弔八千慧が使えなくなった警備員達を操作して、撤退させている間に、杖刀偶磨弓がサンジェルマン達を次々と斬り伏せていく。
「やはり既に死んでいましたか・・・。皆様、あのサンジェルマンの軍勢は、クリスチャン=ローゼンクロイツによって全員殺されています」
「ママ様は既に分かっていましたよ」
主である埴安神袿姫の造形術の力が込められている霊装の仕込み刀でサンジェルマン化が解除された人間達を、挂甲を着た少女は確認する。
サンジェルマン達に精神攻撃が効かなかった仕掛けが超絶者達に暴かれる。意志がない伽藍洞の存在ということを。
サンジェルマンの皮を被った軍勢の正体はCRCに殺された死者の群れだったのだ。炭素を操る魔術とあらゆる死病を克服し寿命そのものを操作できる赤き秘薬という術式の応用の重ね技。サンジェルマンそのものと言えないペテンな存在。
しかし、サンジェルマン特有の服装やクリスチャン=ローゼンクロイツが発する独特の雰囲気にみんなが呑まれてたとはいえ、何故、過去に死んだ人間達が紛れているのだろう?
その答えはクリスチャン=ローゼンクロイツだから。そうとしか言いようがない。蒸留器の中でゼロから人間を創れる秘宝を伝えて回った伝説を持つ『合成者』は伊達ではないのだ。
さて、当のローゼンクロイツ本人は面白くなさそうな顔をしていた。
せっかく用意してきた兵隊達が次々と無力化されて、見たいと思った光景が完全に妨害されたからだ。今を生きる『薔薇』と『黄金』にお前らの罪でもあるぞ。と、見せつける目的もあったのに。
そして、いつの間にか『復活』条件を全て満たした『旧き善きマリア』が、CRCに殺された人間達を全員蘇生させて、みんなのメンタルケアをしているではないか。
この分だと上条当麻という名前の生存領域を崩すのは難しそうだ。
場の空気の支配者がクリスチャン=ローゼンクロイツから『橋架結社』の超絶者達に移り変わっていく。
そうはさせまいと銀の青年が掌をかざして、上条当麻と超絶者達を狙い撃とうとしたが、失敗した。
ローゼンクロイツが動く前に学園都市第三位が、自身の能力で生み出した強烈な閃光で目を眩ませたり、魔女達の女神アラディアが地面そのものを操作して体勢を崩させることで死の弾幕を外させたからだ。
CRCはすぐさま復帰してくるが、一瞬の隙さえあればそれで充分。
自慢の脚力で赤衣の青年に勢いよく近づいた驪駒早鬼が、空間を歪めるレベルまで達している防御術式ごと勢いよく殴り飛ばしたからだ。
高度100、1000、5000、10000。ローゼンクロイツが第二三学区から宙に向かって急速に離れていく。
だが、銀の青年は同じようにぶっ飛ばされた木原数多のようにプラズマ化はしなかった。理由は防御術式抜きにタフだから。
「ファイア」
そんなクリスチャン=ローゼンクロイツに追い打ちがかかる。
ムト=テーベが取り込んだ学園都市製の兵器の一つで、独自に改造した四一センチ・リニア式要塞砲・改によるオゾン層まで一瞬で届く砲撃だ。その威力はツングースカ大爆発に匹敵する。
「ぬおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!?」
ムト=テーベという超絶者の演算能力とその兵器が元来持っていた精密な援護の砲撃の勢いの後押しもあって、赤衣の青年は一条の光となりながら地球という惑星から飛び出していった。
だが、そんな目にあってもクリスチャン=ローゼンクロイツは死んでないだろう。何らかの方法でこの惑星に必ず戻ってくるという確信が皆の中にあった。これは時間稼ぎだ。
コタツシンドロームという社会現象に学園都市の学生を中心とした人間達がわけも分からずに影響を受けたように、本人達は気づいてないようだがアリス=アナザーバイブルと埴安神袿姫による『共鳴』という補正がかかっている超絶者達が加わったことで第二防衛線での戦いはローゼンクロイツの一時的な敗北に終わったのであった。
物語に回復、蘇生役がいるということは便利ですよね。キャラを容赦なく欠損状態にしたり殺すことができる。