とある偶像の造形神   作:一般通過龍

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この話には東方Project以外の他作品要素が出てきますが、一部を除いて、すぐに物語から退場します。


被っている皮が剥がれる時

学園都市の現統括理事長こと一方通行アクセラレータは、自身が収監されている刑務所の牢の中に入ってきた。二人の超絶者と対峙していた。

 

H・T・トリスメギストスと埴安神袿姫。この二人は未だに戦闘を仕掛けてこない。一方通行アクセラレータの返事を待っているのだろう。

 

いや、違う。今の埴安神袿姫は一方通行を収監していた牢屋の素材に興味津々の様子だった。H・T・トリスメギストスの斬撃によって切り分けられた、『窓のないビル』と同質の材料で造られた耐爆壁の一部を手に持ってジッと見たり、崩れてない壁を手で触って周囲を歩き回っていた。

 

一方の陰気な青年執事はそんな行動をする主人の肉盾になれるような位置取りを常にキープしていた。

 

「オイ・・・・、オマエの主人はいったい何がしたいンだ?」

 

最初は魔術的な記号を持つ行動なのか?と思ったが、そんな警戒は無意味に終わった。こちらを害そうとする意図は感じられなかったからだ。

 

これには一方通行アクセラレータも困惑ぎみだったようで、思わず青年執事に何がしたいのか尋ねる。要約すると学園都市を寄越せと言ってカチコミをかけてきた存在が、仮にも敵がいる目の前で戦闘行為どころか戦闘態勢にも入らないで呑気に自由行動をしているからだ。

 

その姿は十二月二十九日に突如現れて、学園都市のあらゆるセキュリティや『暗部』を無いものとして自由に歩き回っていたアリス=アナザーバイブルを思い出させる。

 

ただ、埴安神という神格が何を司っているかを知っていたら、一方通行はなんでこのような行動を彼女が取ったのかをすんなりと理解できただろう。彼女という神様は色々な建物を作る建築家達に崇められる、造形神イドラデウスでもあるから。

 

 

「完璧ではないとはいえ、これまで私達、『橋架結社』の情報を仕入れてきたあなたなら分かるでしょう?彼女、埴安神袿姫様はもう一人の主君でもあるアリスと同じようにフリーダムな行動をよく取る超絶者なんですよ」

 

トリスメギストスが一方通行に向けて困った表情を見せた。哀愁漂うそれはどこか打ち止めの行動に振り回されていた時の自分とどこか重なって見えて、思わず一方通行アクセラレータは同情してしまいそうになったのであった。

 

こんな非常時に出会わずに、一方通行アクセラレータとH・T・トリスメギストスがどこかで出会っていたら、どこか似たもの同士として理解しあえたかもしれない。

 

新統括理事長の部屋になっている牢屋を充分に調査した埴安神袿姫が語りかける。

 

語りかける対象は自身に付き従っている青年執事ではなく、一方通行。

 

「この部屋を形作っている演算型・衝撃拡散性複合素材カリキュレイト=フォートレスにはがっかりだわ。私の知らない、とんでもない性質を持っているのかと期待していたのに」

 

その目は学園都市の科学力に対する失望に満ちていた。

 

元々、魔術と科学は一つの存在とはいえ、人間達の文明や科学に深く関わる造形神イドラデウスである以前に、月読尊ツクヨミノミコトの姉である天津神で東方Project世界で高い科学力を持つ月の住人の関係者疑惑がある埴安神袿姫という偶像の存在だから、外より20、30年分ぐらい文明や科学力が進んでいると言われていた学園都市の科学力に期待しまくっていたのだろう。

 

イレギュラーな超絶者埴安神袿姫としての隠された特性か、学園都市と言う環境とクリスチャン=ローゼンクロイツが作り出した世界の完全なる縮小模型という霊装の合せ技で彼女が持つ叡智の量や造形術、偶像の理論を筆頭とした魔術等が更に強化されたおかげで。学園都市に対する期待値が下がってしまったが。

 

だが、直接学園都市の科学技術を見るまで分からないと思って、今の学園都市の中心である一方通行アクセラレータの元まで彼女は来たのだ。結果は変わらず期待外れだったが。

 

しかし、そうなると疑問が残る。そう、世界の過去未来現在に関する事象を検索できる霊装をその身体に取り込んで、極めに極めまくった偶像の理論の悪用で擬似的な全知全能になった彼女の目的だ。

 

世界を『救済』して、自分好みに新しくクリエイトするには事足りるスペックをしているのではないか。何故、学園都市を手に入れようとするのだろう。

 

その理由は、学園都市そのものにあった。クリスチャン=ローゼンクロイツことヨハン=ヴァレンティン=アンドレーエに殺されて、外の世界からやってきた転生者としての魂が追儺されて世界の外側にいた時に、とある魔術の禁書目録世界を同じように外側から観測していた時空因果律制御機構タングラムとそれと接触しようと活動していたブルーストーカーを、一瞬見てしまったのである。

 

並行世界パラレルワールドの世界線を見て、『ドラゴン』と造形術という祈りの力で蘇った彼女は、こう思った。

 

なるほど、この世界の文明や技術レベルが高くなるほど強くなっていったのは、ものづくりの神でもあるイレギュラーな超絶者としての特性でもあるけど、自身が学園都市というプラジナーと繋がるタングラム的な立ち位置でもあったのかと。

 

だが、時空因果律制御機構タングラムと比べるには烏滸がましいほどスペックに開きがある。故に彼女という神様は、ブルーストーカーのように学園都市という世界を手中に収めようとしたのだ。

 

偶像崇拝という概念に密接に関わっていて、偶像の理論を拡大解釈した魔術と新たな神を作り出すことが出来る造形術が使える自分とアリスの『ライブアドベンチャーズインワンダーランド』を組み合わせれば、埴安神袿姫という偶像をタングラム並の無法な性能にバージョンアップ出来ると信じて。

 

「ご期待に応えられなくて残念だな」

 

「ええ、とても残念だわ」

 

一方通行アクセラレータは目の前にいる超絶者という存在について考える。

『橋架結社』についての情報はある程度集めたが、こちらはまだ超絶者がどういう定義に入っている魔術師なのかは分からない。いっそのこと、直接本人達に聞いてみるのもありか?

 

「なあ、超絶者というのはどういう存在なンだ?」

 

「別に教えてあげてもいいけど・・・・トリスメギストスはどう思う?」

 

「一般的に考えたら、敵対することになる者に自分達の情報を教えることは駄目ですが、袿姫様が教えたいなら教えればよろしいかと」

 

「そうよね。でも、目の前の人間に超絶者の定義を知られても、こちらが別に損をするわけでもないですから教えましょう。ちゃんと聞いてね、超絶者というのは━━━」

 

一方通行アクセラレータが質問を埴安神袿姫に投げかけたら、あっさりと超絶者について教えてもらえた。どうやら彼女は、魔術サイド特有の教えたがりの先生気質も持っているらしい。

 

埴安神袿姫の解説を聞いた一方通行アクセラレータはクリファパズル545の補助もあって超絶者についてすぐに理解した。

 

超越存在と何かしらの接点を持った者。あるいは、人の手に余る上限越えの術式を手に入れてしまった運のない魔術師。あるいは、最初から人間ですらない何か。あるいは、そういった異形なる存在の力を外から安全に引き出している狡猾な巫女達。それらが超絶者という存在だということを。

 

 

『(ご主人様ぁ・・・・埴安神袿姫と呼ばれる超絶者、人間に見えますが波邇夜須毘売神はにやすびめのかみこと埴安神その人ですよ。創造神としての格なら日本神話の最高神である天照大神よりも上の神格がなんで受肉しているんですか・・・・?)』

 

クリファパズル545曰く、どうやら埴安神袿姫は最初から人間ですらない分類に入る超絶者らしい。同じように超絶者に分類できるアンナ=シュプレンゲルとは違うカテゴリに入る超絶者とは違うようだ。

 

ただ、埴安神袿姫という超絶者は、全ての条件に当て嵌まる人間の魔術師でもあり人外の神様でもあるという矛盾したイレギュラーな超絶者だから、クリファパズル545の見立ては正確には正しくないが。

 

そして、埴安神袿姫の語った超絶者の内容に、個人で魔術サイド全体に匹敵し、世界を相手取れるというのがあったが、あながち嘘ではないように感じる。

 

少なくとも一方通行アクセラレータの目の前で軽々と演算型・衝撃拡散性複合素材カリキュレイト=フォートレスを斬るという芸当を披露したH・T・トリスメギストスという超絶者は、未元物質そのものになったことで同じように世界と戦える学園都市第二位を完全に殺害できる規格外側の魔術師と確信できる。

 

「ついでにコタツシンドロームという社会現象の収め方も教えてあげる。私とアリスを倒せば解決するわよ」

 

一条の光となって地球の外に向かっていくクリスチャン=ローゼンクロイツを観測しながら超絶者埴安神袿姫は語る。

 

CRCに対する皆の勝率を上げるためとはいえ、コタツシンドロームが劇症型になるレベルまで自分達の影響力を高めて『共鳴』という補正をかけていたことを。今は発生していないから大丈夫だが、このままだと皆が劇症型コタツシンドロームという社会現象に呑まれてローゼンクロイツ関係なしに世界が滅びると。

 

「そうかよ。教えてくれて感謝するぜ」

 

一方通行アクセラレータが足元にある全ての瓦礫をベクトル操作で、無防備に背中を晒して宙を見ている埴安神袿姫に向けて射出する。

 

それをH・T・トリスメギストスが自慢の斬撃で主人に届く前に全て粉微塵にして消し去る。続けて周囲に斬撃を飛ばして、刑務所内にある通信機器や電子機器を全て壊すことでノイズをばらまいて行動を阻害するという誰でもできる『一般的』な方法で一方通行アクセラレータを攻略しようとしたが、埴安神袿姫に止められた。

 

「トリスメギストス。この程度の存在は貴方でも勝てると思うけど、この戦いは私に譲りなさい」

 

埴安神袿姫の纏う雰囲気が大きく変わっていく。

 

彼女という人間という皮が剥がれて、埴安神という神様の側面が露出していく。

 

これは、人間達の祈りによって生まれた理想の埴安神袿姫という偶像になる戻るための、彼女という超絶者なりの『人域離脱』なのだろうか?

 

「御意」

 

それに反応したH・T・トリスメギストスが『人域離脱』でわざわざ人間を辞めて、全力でこの場所から離脱した。のと同時に一方通行アクセラレータに衝撃が襲いかかった。

 

「オ、ば・・・・・っ!?」

 

学園都市第一位の『反射』を貫通してダメージを与えたのは、彼女の右手だった。ただ、当の彼女はこちらに向き合っているが動いてない。右手の拳を突き出して、殴るポーズをしていただけだ。

 

『殴る』。

 

対象がどのような防御をしていようが、問答無用で距離ごと無視して最適な威力で倒す。

 

それは、アリス=アナザーバイブルという超絶者が使う魔術の一つであった。あらゆる神話や伝説に登場する神様や聖者が体一つで行った意味を表に引きずり出して再現する奇跡の一つでもある。

 

今の彼女の右腕は幻想殺しイマジンブレイカーや右方のフィアンマが持っていた聖なる右と似たような性質を持っていた。

 

しかし、何故、埴安神袿姫がアリスの魔術を使えるのだろう?

その答えは簡単だった。超絶者達は繋がっているのだ。だから『共鳴』による補正が発生するのだ。故に偶像という概念そのものの領域まで達している埴安神袿姫はアリス=アナザーバイブルの魔術を偶像の理論で使えるのだ。

 

その逆もしかり。変速カバラ式創作ブリッジ連結作業という一種の極まった偶像の理論と言える魔術を使うアリスも同じように造形神イドラデウスの造形術が使えるだろう。

 

尚、彼女はこれ以外にも一方通行アクセラレータの『反射』を攻略出来る方法を幾つも持っていた。カオス理論も演算出来る頭脳を上回る演算能力と演算速度、造形術、ドラゴン、等。

 

 

 

地面に倒れている一方通行アクセラレータに向けて、埴安神袿姫がトドメを刺そうとゆっくりと歩いてくる。

 

 

魔術の自由は科学の秩序に勝る。科学の檻では魔術を捕らえておくことはできない。埴安神袿姫は科学や秩序と密接に関係あるが、本人の存在そのものがオカルトなため、アンナ=シュプレンゲルと同様に学園都市の刑務所に入れることはできないだろう。軽々と抜け出してくるのが予測できる。

 

手加減はナシだ。全力で行く。

 

「貴方という超能力者は10対0と言いたいくらいに私と相性が悪いから大人しくすることをおすすめするわ。そうしてくれたら殺さないで済むから。そして、造形神イドラデウスという偶像を倒したければ幻想殺しやそれに値する追儺が出来るモノや神浄の討魔を持ってきなさい」

 

生命の樹はプラスの心。邪悪の樹はマイナスの心。そして、第三の樹は人間が作り出した最先端の文明によって揺れ動く心、火を得て鉄を打ち蒸気や石油を経て電気を支配した人間達の文明を表す歴史。後世の魂の変化を網羅した図面。

 

立ち上がった一方通行アクセラレータは、クリファパズル545とミサカネットワークの力を借りて人造の樹クロノオトと青褪めたプラチナの翼を展開をしようとしたが、それは叶わなかった。

 

「本当に人造の樹クロノオトは、ドイツ伝説集に出てくる人間の生る木や私達と共通項が沢山あるわね」

 

「ッ・・・・・!!!???」

 

『嘘でしょ!?』

 

『何でもありかよ/return。この神様!!/return』

 

 

埴安神袿姫がそう喋ったのと同時に『握る』という行為で、人造の樹クロノオトを使うことは封じられたからである。

 

何度も言うが、クリスチャン=ローゼンクロイツとアンナ=シュプレンゲル以外の超絶者達は繋がっている。

 

『補正』がかかっている埴安神袿姫が一方通行アクセラレータに対してやったことは、自分と同じように頂点の一角である超絶者のアリスとヘカーティア、三位一体で『共鳴』して、出力を更に上げた変速カバラ式創作ブリッジ連結作業で自分達の都合の良いように定義したのである。

 

『位相』とは言えない、世界観が違う異なる世界で畜生界と呼ばれる世界を自然豊かな空間からメトロポリスやサイバネティクスな世界に作り変えた実績を持つ埴安神袿姫は人間達が崇める文明の象徴そのものな古き神で最新の神でもある造形神イドラデウスだ。

 

人造の樹クロノオトと共通点を見出すことが出来る人間の成る木は魂の変化だけでなく『出産』と『生命の誕生』にまつわる超自然的な力の啓示でもある。そして、人間の成る木を纏めた論文の内容にはギリシア神話や三相女神、水に関する女神等のヘカテことヘカーティアとこじつけることが出来るワードがたくさん存在する。

 

他にもこじつけることで共通項を見出すことが出来る部分は色々あるが、人造の樹クロノオトと自分達に共通する部分がこれだけあれば、偶像の理論で掌握するには充分だったのである。

 

「ところで貴方は別の世界線ではアイドルもやっていたらしいじゃあない?私好みの偶像に土と水で造り変えてあげよう!」

 

そして、人間では不可能な人外の存在だけが可能とする動きで懐に潜り込まれて、ミナ=メイザース戦のように『反射』を機能させられずに埴安神袿姫に殴り倒された一方通行アクセラレータは、駄目押しの造形術によって、彼女に対する忠誠心を植え付けられて、都合の良い偶像に造り変えられたのであった。

 

完封だった。相手との相性や徹底的な対策をされてたとはいえ、学園都市最強という白い怪物が碌な抵抗も許されずに負けてしまったのだ。

 

 

『このっ!!』

 

主人を操り人形同然の姿にされたことに怒った悪魔の少女が造形神イドラデウスに挑みかかったが、あっけなく返り討ちにあった。

 

『がっ、は・・・・・』

 

埴安神の子供である龍神、彼女が飼っている炎の『ドラゴン』が、突然、クリファパズル545の隣に出現したと思うと、悪魔の少女を咥えて地面に叩きつけたからだ。

 

「『拡散』の性質を持つ大悪魔ならともかく、人工的に造られた矮小な悪魔如きが神に挑むなど思い上がるなよ。私の『ドラゴン』を倒せるようになってから挑むがよい。ただ、その機会は永遠に訪れさせぬがな!」

 

 

口調を変えて、敵対する者には容赦がない厳しい神としての側面を露出させた彼女の足元から、ハニヤスという名の由来の一つになった黄土が湧き出てきたと思うと、炎の『ドラゴン』に噛み焼かれながらエネルギーを吸われていくクリファパズル545を包み隠すように黄土に変換して封印していった。

 

埴安神が操る黄土は、偶像の理論でキトニタスという魔術によって発生する黄砂と同じ効果を持っていたのである。

 

 

『橋架結社』。名前の由来の通りに一見無関係のようなもの同士にも、崖と崖に橋を架けるように、偶像の理論、類感魔術で好き勝手に繋げて造形する。

 

この日、学園都市という世界が『橋架結社』という魔術結社に乗っ取っられた。

 


 

水もなければ空気もない場所、宇宙。

 

「塵も積もれば山となる。一時的とはいえ、この老骨を相手に勝利を掴み取るとは大したものじゃ」

 

そこには、出来て当然のように宇宙空間を無傷で活動している銀の青年がいた。服装も汚れ一つない。魔神『僧正』のように声を自在に伝播させて喋っていた。

 

宇宙に放りだされた程度でどうにかなるクリスチャン=ローゼンクロイツではない。

 

広大な宇宙を漂う小惑星には、炭素系の物質を主成分とする小惑星がたくさん存在する。

 

 

宇宙遊泳していたローゼンクロイツは、オールトの雲生まれの小惑星が起源の彗星を自慢の魔術で捉えて、みるみるうちに掌握すると、その上に立ちながら故郷の地球を目指し始めたのである。

 

「だが次はそうはいかん。この老骨は舐めプを更に少なめにするぞ。ただし、反比例するように情念や遊び心は大きくするがのう!!」

 

最初は40メートルの大きさがあった彗星の形が大きく変化していく。ダイヤの結晶が常に膨らみ続ける性質を持っているとはいえ、それだけでは説明できない変化だった。

 

まずは、円盤状に変化した。次はハサミがある長い尻尾とクラゲのような触手を生やし始めた。最後は蜘蛛とてるてる坊主が混じった、なんとも奇怪な姿になった。

 

「きひひっ!!地球で生きている皆様方は、この老骨が現代の娯楽からインスピレーションを得て、赤き秘宝と秘薬で造形した、なんちゃって円盤生物に対処できるかえ!?」

 

彼は全力で巫山戯ていた。学園都市を蹂躙するついでに摂取した娯楽に登場した生物達の特徴を溢れんばかりの情念と超越的な技量で再現したのである。

 

幾らなんでも、炭素が生命の素とはいえ、無機物から新しく生命を作るのは無茶苦茶だと思われるが、『合成者』であるCRCには可能だった。

 

 

 

「・・・・本当に巫山戯ているね。CRCが使う魔術の一つの正体がサンジェルマン系と分かったとはいえ、やること為すことが無茶苦茶よ。流石は『薔薇十字』の基本を作った錬金術師と言うべきかしら?」

 

小さな薔薇の悪女がクリスチャン=ローゼンクロイツを乗せて地球に迫りくる生きた凶星を見て呟いた。

 

「シュプレンゲル嬢。私達が言えたことかね?」

 

「まあ、冷静に考えたら、わらわ達もやりたい放題をしていた魔術師だから人のことは言えないわね。だけどアレは度を過ぎていると思うわ」

 

エイワスの力で構築殺しストラクスチャブレイカーという特殊な右手の持ち主になった『薔薇』の隣には、コロンゾンの力を借りて『Magick:FLAMING_SWORD』という魔術を使おうとしていた『黄金』がいた。

 

ローゼンクロイツ製の生きた彗星を地上から迎撃しようとしているのは、この二人だけではない。

 

「ローゼンクロイツを宇宙にまで殴り飛ばしたのは失敗だったと思ってしまったけど、皆はどう思う?」

 

「どうもこうもないわよ!今、善行をしている最中だから話しかけないで!!」

 

「ママ様は既に準備完了ですよ」

 

『旧き善きマリア』のトリコビスや善行によって倍々ゲームの如く強くなったアラディアの魔女の閃光や驪駒早鬼の黒翼等、宇宙まで届く術技を持っている存在は全員残らず、宇宙から母なる地球に帰還しようとするクリスチャン=ローゼンクロイツという災厄を迎え撃とうとしていた。

 

 

第二防衛線の戦いに参加しなかったアンナ=キングスフォードや超絶者達も、最低でも東京ごと学園都市を消し飛ばそうと地球に落下しようとするクリスチャン=ローゼンクロイツを各々の方法で迎撃しようとしていたのであった。

 

勿論、埴安神袿姫も例外ではない。一旦、既存の世界を壊そうと活動しているけど、今の時点で世界を壊されたらたまらないと、ダイヤノイドにある人工重力制御装置を解析、発展させて造形した重力子崩壊砲を使おうとしているから。

 

転生者である彼女の魂の輝きを糧にして活動している、炎の『ドラゴン』も、主人を手伝うために無限熱量の温度を誇る竜の閃光ドラゴンブレスを宙に向かって吐こうとしている。

 

 

 

その頃、第二三学区で、宙から地球に迫ってくるCRCを迎撃しようとするグループから離れた場所でたった一人、少年は考えごとをしていた。

 

今回の事態はスケールが違った。敵も味方も上澄みを超えた上澄みの存在ばかりだ。闇雲に右手を握って戦場に突っ込んでもただ単にあっけなく死ぬだけだし、足手まといになって流れ弾で死ぬだけだ。それに『旧き善きマリア』のおかげで『復活』したとはいえ、インデックスやオティヌスを筆頭とした色々な人間達がCRCに殺されているのだ。

 

(俺には何ができる?)

 

第二防衛線での戦いは超絶者達のおかげで結果的に犠牲者なしの結果が出来たが、次のCRCとの戦いは勝つにせよ負けるにせよ、取り返しのつかない被害が出るのは明白だ。

 

ふざけるな。

犠牲になるのは俺だけでいい。

 

上条の胸の奥で激しく鼓動が鳴った。

 

上条当麻にはCRCに対抗できる手札はあるだろう?それが反則とも言える手段でも。何もしていないのに諦めるな。死力を尽くして足掻け!!

 

(・・・・そうだ)

 

周りにいる人達、みんなに無理をさせたくない。自分とも無関係な人達も理不尽な脅威から守りたい。そのためには何としてでもクリスチャン=ローゼンクロイツを倒さなければ!!

 

(こんな右手があるから・・・・)

 

あらゆる幻想を殺す力。世界の基準点だけどそれ以外の何もできない最弱さいきょうの力。自分の選択肢可能性を封じる蓋。

 

上条当麻は知っている。この世界は本当に残酷だということを。悪意を善意が上回る世界とはいえ、突出した力を持つ個人が悪意を持って暴れたら大多数の善意は踏み潰されて、世界に悲劇が撒き散らされることを。『橋架結社』の領事館で埴安神袿姫と問答をするまでもなく分かっていたことではないか。

 

(ああ・・・・そうだな・・・・・。神様、こればかりはアンタが正しかったよ)

 

そして、上条当麻は宙に右手をかざしていた。

 

『・・・・良いよ』

 

どこから声が聞こえた。それは上条当麻の頭の中だった。

上条当麻の中にいる、もう一人の少年は明確に言った。

 

『こっちだって、インデックス達を殺される事態を引き起こされて、いい加減にムカついていたところだ。我慢はナシ。CRCにどんな事情があろうが、ぶっ飛ばしてやる』

 

ピシリピシリと右腕を中心に上条当麻という人間の皮が剥がれていく。

 

上条当麻の変化には誰も気が付かなかった。いや、超人になっている最中の少年があえて気づかせないようにしていたのだろう。

 

 

幻想殺しイマジンブレイカーという硝子の器を砕いて出てきたのは『ドラゴン』。それは『魔神』を世界の歯車にして採点する存在であり、真のグレムリンの『魔神』からも、その気になれば自分達を抹消できる牙を持つと語られた『法則』。王冠を載せた竜の王、『従える力』を持つ神浄の討魔だった。

 

超人となった上条当麻が宙に向かって軽くジャンプした。たったそれだけで全ての距離を一瞬で縮めて、宇宙空間にいる銀の青年の位置までくると、『ドラゴン』を差し向ける。

 

それは本当に冗談みたいな光景だった。赤き秘宝と秘薬によって作られた宇宙怪獣とも呼べる存在だったモノが、瞬きする暇もなく。右腕から生えた多数の『ドラゴン』や上条当麻自身の口によって、大きさや特性を無視されて跡形もなく全て喰われたから。

 

 

「遂に現れたかえ!?上条当麻神浄討魔よ!!」

 

『ドラゴン』の牙から無事に逃れることができたクリスチャン=ローゼンクロイツが超人に向けて叫ぶ。

 

「・・・・・・・」

 

この日、ありふれた高校生はただの無能力者レベル0であることをやめた。人外の怪物となったのであった。

 




活動報告や14話の後書き通りにとある魔術の電脳戦機の要素を本編に入れて、変速カバラ式創作ブリッジ連結作業という偶像の理論で時空因果律制御機構タングラム=埴安神袿姫にしていきます。
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