遅れてすみません。
正義について考えてみた。
それは不確かな故に各々によって定義は変わるけど、一人の絶対的な存在が基準点となって正義を決めて導けばよいと思った。
平和について考えてみた。
きっと、正義がなくても力さえあれば無理矢理でも作れるだろう。善人でも悪人でも。
頭に思い浮かべた景色を作るための条件を、一つ一つ並べていく。どうやったら世界の平和を作れるかというのを。そしてやっぱりこの結論になる。
やはり、世界には人々の運命を勝手に決めて管理出来ることが出来る絶対者が必要だ。そう、ユートピアな管理社会を造れる絶対的な存在が。
見る人によっては、それをユートピアという名のディストピアと言うだろう。邪神と呼ばれたこともあったが、私という超絶者、埴安神袿姫を更に酷く非難することだろう。
だが、もうなんと言われても気にしない。理想の世界を創造してやる。造形神という覇道の色でみんなという世界を染めてやる。
「・・・・・ハッ!?」
埴安神袿姫が主導の既存の世界の終わりと変貌を見届けて意識を消失させた上条当麻は目を覚ました。
少年が目覚めた場所は柔らかい日の当たる公園だった。
彼は真っ白なベンチに座り、背もたれに体重を預けたまま、うたた寝をしていたようだ。どれくらい寝ていたか、という疑問は意味を持たないだろう。世界五分前仮説と同じように上条当麻の意識が覚醒した瞬間に『ここ』が生まれたかもしれないから。
この世界は上条当麻は知っている。
だって、絶望のあまりにこの手で自殺しようと思わせた世界だから。
「ミナ」
「あなた」
そう、誰もが『しあわせな世界』。
『魔神』オティヌスとの戦いで味わった、地獄のような黄金色の世界。
絶対的な存在によって管理されたユートピア。
自身の目の前をサミュエル=リデル=マグレガー=メイザースとミナ=メイザースが幸せそうな顔で手を繋いで歩いていたのを見て、少年はここはそういう世界であると確信した。
ただ一つ、前に体験した『しあわせな世界』と違うことがあるとすれば・・・・。
「とうまー、どこに行っていたの?心配していたんだよ?」
あの時の『しあわせな世界』と違って、この世界に上条当麻という存在がちゃんと組み込まれて受け入られていることだ。
ステイル=マグナス。
神裂火織。
アウレオルス=イザード。
名も知らない神父や修道女達。
「おい、僕らの救世主様。随分と探したんだぞ、そんなことで寝るよりもしかるべきところで寝たらどうだ?」
その証拠にインデックスを救うという役目を奪われなかった彼らが笑顔で上条当麻という存在を受け入れているではないか。
銀髪の少女が真っ白なベンチに座っているツンツン頭の少年を立ち上がらせようと手を差し伸べてくる。
その手を・・・・・。
少年は取らなかった。
「すまん、インデックス。まだ外にいたいんだ。許してくれるか?」
「・・・・?別にいいんだよ。ただ、日が沈む前に家に帰ってくること」
インデックス達の手を取って、帰るべき我が家に行くことを拒否した少年は去っていく者達の背中を見送ると・・・・。
この世界を探索し始めた。
『橋架結社』に所属する超絶者埴安神袿姫が中心となって造形した『しあわせの世界』を。
「わしのレディバードを直してくれてありがとうな」
真紅の髪のアンドロイドの少女を連れた老人から感謝された。
「子供達を助けるのを手伝ってくれて助かりました」
同じように半袖短パンのサファリジャケットにラッシュガードの組み合わせの服装をした優男にも感謝された。
少年は言いようのない気色悪さを感じてしまった。出会う人々が尽く、笑顔で上条当麻を崇拝という感情がこもった感謝の言葉を送ってくるから。
これは上里翔流という少年が自身の周囲にいる女の子達の好意に対して抱いてしまった、かつての気持ちと同じなのだろうか?
ただ、比較に出来ないほど、上条当麻が味わっている今のこれは規模が違う。まだ、この『しあわせな世界』ではそれほど多くの人間達には出会っていないが、こう短時間で色々な人々に感謝されると、もしかして世界中の人間が上条当麻を崇めてくるのでは?と少年に思い知らせる。
「・・・・・おい、これはどういうことだ・・・・」
少年は天に向かって呟くように喋る。この世界を作ったと思わしき埴安神袿姫に向けて。
少年に対しての返事は返ってこない。マイノリティの声がマジョリティの声に押し潰されるように、その声は埴安神袿姫に届かないだろう。もう彼女の目標は達成している。後は、上条当麻という人間が自身が造り上げたこの『しあわせな世界』に一人の住民として順応するのを待つだけだ。
後、少年はまだ知らないだろうが、ある系統を継いでいる魔術や能力といった概念は一部の存在を除いて使えなくなって、埴安神袿姫によって辻褄合わせとして作られたモノの代わりに世界から忘れ去られて無かったことにされている。ヨハン=ヴァレンティン=アンドレーエの『薔薇十字』の痕跡を世界から消し去るという願いを汲んだために。
つまりは、だ。薔薇十字団の亜流である黄金の夜明け団関係者が作った、今の魔術や能力がこの世界では存在しないモノと扱われるのは当たり前の帰結になるだろう。これではオティヌスが作った『しあわせな世界』で上条当麻に発破をかけた『総体』のように第三者に介入できる余地はない。絶対に。
・・・・・一応できる方法や例外はあるが、この世界を完全に掌握して管理している埴安神袿姫の許可を取らなければならないから無理に等しい。
チェックメイト。詰みである。
上条当麻がこの世界を探索している最中、木原乱数と呼ばれる科学者が少年が座っていた真っ白なベンチに座ると、笑顔を浮かべた。
「俺の専攻の世界平和がこうも簡単に叶ってしまうなんて夢みたいだ。しあわせだなぁ・・・・・・」
この世界には悪性はない。全ての悪性は不要なモノとして取り除かれた。どうしても科学に愛され、科学を悪用してしまう業を背負った『木原』という性質を持った存在達も造形神によって、善性の存在に造形されていた。
いや、性質に手を加えられているのは『木原』だけではない。この管理された『しあわせの世界』に住んでいる存在は大なり小なり、埴安神袿姫に遍く『救済』という名のアップデートを受けて、完全に作り変えられていた。これからも彼女は段階を踏んでアップグレードを続ける予定だ。造形神たる埴安神袿姫を構成するモチーフ元により良い理想社会を追求するために絶えずアップグレードし続けるホモデウスが入っているために。
そこがかつてのオティヌスが創造した『しあわせの世界』と違うところと言えるだろう。
畜生界霊長園と呼ばれたサイバネティクスな異界に造形神はいた。いや、そこは畜生界という名前そのものではないだろう。数多の『位相』が重なってできている、この世界の構造体の核となるような場所で、そういう名前の世界に似せて造られた異界が正体だ。
そもそも現世と違って異界とは見る者によって異なる世界が広がる場所だ。例えば、天国や地獄の風景は一つに統一されない。各々の神話宗教の視点や想像図によって変わってくるだろう。もしかしたら、自分だけの現実と『位相』。この二つの概念が似ていると感じてしまう理由はそれかもしれない。
少なくとも言えることはただ一つ。このサイバネティクスな異界は埴安神袿姫という神様を体現している世界だ。
「どうすればいいのかしら・・・・」
そんな世界で彼女は悩んでいた。
上条当麻のことでだ。
最初は上条当麻を死の運命から救うついでに自身が飼っている『ドラゴン』を強化する時、次に学園都市に訪れた時のコタツシンドローム、最後は対クリスチャン=ローゼンクロイツ戦。三度も上条当麻と繋がって『共鳴』したのが悪かったのか、上条当麻が自身が造形した世界に中々満足してくれないのだ。
これでは住民幸福度100%の世界にするといった自身に対する決め事が守れてないのではないか。『橋架結社』の領事館で上条当麻に向けてそう話したのに。
理由と原因は分かっている。上条当麻はそういう人間だということと自分と繋がって『共鳴』したことで、神浄討魔だけでなく幻想殺しもアップグレードされたことで、自身の影響をあまり受けなくなったのが一因だろう。
ただ、彼女にとって嬉しい誤算があった。『共鳴』によって強化された幻想殺しのおかげで、再構成という名の性能のアップグレードをしても、自意識は前の自分と変わらずに済んだのである。
そもそも今代の宿主の上条当麻の中に潜んでいる能力と存在の蓋になっているせいで、幻想殺しの処理能力は落ちているが、それを抜きとした場合の本来の能力は凄まじいと言える。『黄金』や右方のフィアンマ、オッレルス、『魔神』等の一定以上の強さを持つ存在が適切な使い方をすれば、基準点以外の使い方も出来るからだ。
超絶者埴安神袿姫も幻想殺しの本来の性能を引き出せる存在と考えると、これは誤算でなく必然の結果かもしれない。
全魔神達の祈りが結集した『力』は伊達ではないのだ。
「袿姫!!世界が変貌しても、いつも通りの姿を見せてくれて嬉しいのですし!!」
上条当麻に対して悩んでいる彼女の世界に姿を現した人物がいた。アリス=アナザーバイブルである。見れば何人か引き連れているようだ。
埴安神袿姫は自身に勢いよく駆け寄ってきたアリス=アナザーバイブルを受け止めて、抱きしめる。
「心配させてごめんね。アリス」
「いいのです。少女はとってもしあわせですし!!」
思えば、私はなんて馬鹿なことをしていたのだろう。アリスという個人をちゃんと見ていなかったなんて。超絶者として世界を救済するための活動はアリスのためもあったのに、それを忘れてしまうなんて。
とにかく今の埴安神袿姫は、クリスチャン=ローゼンクロイツが放った対超絶者用の魔術と思わしき閃光と幻想殺しを所有している上条当麻のおかげで、彼女本来の素の性格に近い状態まで戻っていた。
『パナケア』という世界の治療薬に値する二人の存在だから、埴安神袿姫という世界を癒やすことが出来たかもしれない。それでも人間達に埴安神と信仰されて、この世界に埴安神袿姫として祈りの力で産み落とされたという特殊な出生をしている転生者である以上、彼女という超絶者の『特別性』を切り崩すことはできないと思われるが。
アリスと戯れ終わった埴安神袿姫に声をかけた者がいた。
「埴安神袿姫。今ノ状況ヲどう思っているノですか?」
薔薇十字の達人の魔術師の一人であるアンナ=キングスフォードである。
何故、勝負に敗れて世界の変貌を止められなかったアンナ=キングスフォードがいるのだろう?ヨハン=ヴァレンティン=アンドレーエの願いで薔薇十字の痕跡は埴安神袿姫によって造られた代用品に取って代わられて消え失せたのに。
「不満だわ。後は彼が満足してくれるだけなのに」
口を尖らせながら、彼女は知の大女神と呼ばれた女魔術師に返事を返す。
「あらあら」
アンナ=キングスフォードはにこにこの笑顔を浮かべていた。
「そういえば聞きたいことがあるわ。私が造形した世界で暮らしてみた感想はどう?」
「住み心地ハ良かったですよ」
今のアンナ=キングスフォードは、造形神という偶像を中心とした世界に生まれた社会のテクノ宗教ことデータ至上主義、トランスヒューマニズムのカースト上位の超人。つまりは例外として認められたモノ、管理された存在より優れたアップグレードの恩恵を受け取ることが出来る存在の一人である。だから、行動方針も気に入った埴安神袿姫によって、異界という名の神域にいることをアリス達同様に許されているのである。
「ところデ、納得ガしたければ、あの♂を連れてきてもっと語り合えばよろしいと思い〼わ」
「そうよね。上条当麻から直接意見をもらいましょう」
埴安神袿姫が異界から消えてしばらくした後、アンナ=キングスフォードは小さくこう呟いた。
「神様だけデなく、一人の女の子としてものびのびト生きれるような行動ヲとれ〼ように・・・・・」
善なる達人の女魔術師の行動方針は周囲への奉仕のために。その対象は埴安神袿姫も例外ではない。彼女が見た未来の一つでは、アップグレードし過ぎて埴安神袿姫という偶像の姿を崩して超絶者として破滅する女の子がいた。既に一種のポストヒューマンといえる概念になっている造形神だが、このまま彼女による世界のアップグレードを進めたら、既存の人間の形状や心は失われて全く別の物に変貌することになるだろう。
人類の定義が変わる事態が未来に発生するのは問題ない。本来ならば自分は既に死んでいるはずの魔術師だから文句言う筋合いはないし、星々を見て世界の情報を集めていたところ、そういうIFの世界が存在することを確認したからだ。だから、これはわがままに等しい個人的な肩入れだ。埴安神袿姫や彼女と相対することになる上条当麻に対しての。
あれから何日も経った・・・・。
「どうした?人間?」
「なんでもないよ。外を歩いてくる」
「ご飯の時間帯には帰ってくるんだよ。とうま」
少年を取り巻く環境は今のところあまり変わっていない。この世界を造ったと思わしき埴安神袿姫とも出会ってもいない。冷静に考えれば会えないのは当たり前だろう。そもそも『魔神』オティヌスの『しあわせの世界』の時の状況とは違うのだ。
だから上条当麻の目の前に姿を現す理由なんてない。そう思っていた少年の考えはいきなり変化した。
「私が造形した『しあわせの世界』を上条当麻という存在はどう思っているのかを聞きに来たわ」
ふと立ち寄った大きなビルの屋上、『魔神』オティヌスが作った『しあわせの世界』の時に上条当麻が飛び降り自殺を図った、かつての場所に埴安神袿姫が姿を現したから。
造形神に入っているモチーフ元のホモ・デウス要素も出しています。