「私が造形した『しあわせの世界』を上条当麻という存在はどう思っているのかを聞きに来たわ」
冷たい風が吹いてくるビルの屋上にて、造形神が上条当麻に向けて『しあわせの世界』で暮らしてみた感想を訪ねてくる。
彼女が造形した『しあわせの世界』に対する少年の感想は・・・。
「住み心地は良かったのと同時に気色悪かったよ」
上条当麻は素直に埴安神袿姫製の『しあわせの世界』に対する感想を吐いた。
「まあ、そうよね。貴方は頑張って色々な存在や世界を救済してきたから、多くの人間達に感謝されても良い。報われても良いと思ってこんな世界を造形したけど、間違っていたわね。ごめんなさい」
そんな少年の感想を目の前の造形神は怒らずに受け止めて謝る。当たり前だろう。世界中の人間が崇めてきたら、誰だって気色悪いと感じるはずだ。埴安神袿姫と名乗る女の子もそういう事態に直面して、そんな感想を抱いた過去があるから。
「いや、良いよ。今までの俺の行動は自己満足に近いものだから、感謝は無くてもいいよ」
「本当に感謝がいらなくても良いの?流石は超絶者になれるかもしれない適性がある上条当麻という人間ね。私や『橋架結社』に所属している超絶者達と同じように狂っている」
褒めているか貶しているのかが分からない評価を埴安神袿姫は上条当麻に下してきた。表情を見る限り、本人は褒めているつもりなのか?
「埴安神袿姫。この世界はアンタが体験してきた出来事を元に構成した『しあわせの世界』で合っているか?」
『魔神』オティヌスの時の経験や渋谷で身体を弄られて埴安神に関する知識を植え込まれたこともあるかもしれないが、少年はこの世界が何を元に造形されたのかを完全に理解していた。
上条当麻が『魔神』オティヌスと一緒に幾千億も言えるほど繰り返して見てきた数多の世界は、オティヌスの人生経験を元に構築された世界でもあった。ならば埴安神袿姫が創造した世界も同じはずだ。
「合っているわよ」
造形神、埴安神袿姫と皆に呼ばれ続けた超絶者は、少年が投げかけた疑問に青いロングヘアーを風に揺らせながら答えを返す。
埴安神袿姫と上条当麻の会話はスムーズに成立していた。持っている視点が大幅にズレていた時の超絶者としての彼女だったら、少年との話し合いは『橋架結社』の領事館の時みたいに平行線ですれ違ったままだったのだろう。けれど今は違う。勝負事に発展しても理解し合えることができるはずだ。少年はそう信じている。
「埴安神袿姫にお願いがある。この『しあわせの世界』を元の世界に戻してくれないか?」
このままでは、大切にしている『当たり前』ではない日常に順応して、大多数の存在が人間の手なしでは生きられなくなった愛玩用の動物みたいになるという少年の危惧している未来が訪れるだろう。
「『しあわせの世界』を自分好みに造り変えることはあっても、世界を元通りにするつもりはないわ。・・・・・ただ、超絶者埴安神袿姫という神を構成した背景を見て知って上で私好みの納得のいく理由を出したら、元に戻してあげる」
少年の願いを埴安神袿姫は条件付きとはいえ聞き届けた。本来なら、彼女はシステマチックで理解の取っ掛かりを見つけるのも難しい造形神を続ける予定の超絶者だった。その時の埴安神なら、上条当麻の言葉に聞く耳を持たないですぐさま断っていたかもしれない。
だが、色々な要因で素の性格を取り戻しつつある彼女は、ギリシア神話や北欧神話、日本神話など、多神教の神々が持つ特徴みたいに親しみやすい、理解しやすい神様になっている。つまりは、だ。今の埴安神袿姫は、人間達を管理しながらアップグレードして導く造形神という機械的な神としての側面だけでなく、人間味が大幅にあり、寄り添ってくる埴安神こと波邇夜須毘売神という側面も大きく露出させて両立させていることになる。
「いいよ。埴安神袿姫という神様を理解して、アンタの納得いく理由を出してやる」
少年がそう宣言した瞬間に世界が純白の空間に一変した。これは今いる世界を埴安神袿姫がアップグレードされた造形術で変貌させた訳ではない。
埴安神袿姫が自分が今いる場所をずらして、霊長園と呼ばれている異界や地獄の女神と呼ばれている神がいる異界に繋がっている『位相』に上条当麻ごと移動させただけだ。元から造形術で『魔神』がする『位相操作』もどきの行為が出来るとはいえ、超絶者クリスチャン=ローゼンクロイツを参考にして、自身の性能をアップグレードした造形神は、『魔神』を上回る全能性を身に付けていた。
こうして、ギリシア神話のオルフェウスやメソポタミア神話のドゥムジや日本神話の伊邪那岐、『神曲』のダンテのような上条当麻の異界巡りが始まったのである。埴安神袿姫主導の。
「この光景は・・・・まさか・・・・!?」
上条当麻は見覚えがある世界に来たことに驚いていた。
だって目の前に広がる真っ白な光景は・・・・。
「そのまさかよ」
年末の渋谷で埴安神袿姫の手で殺された時に見た、死後の世界と思わしき場所だったから。
「あ、ちなみに貴方も私も死んでいないから、そこのところは安心して。不死性が高くて自力で蘇ることも可能な私はともかく、せっかく死の運命から脱線することが出来た上条当麻が生者から死者になったらアリスがまた悲しむでしょう?」
埴安神袿姫がにこやかに上条当麻に向けて、誰もが思わず美しいと感想を抱いて惚れてしまいような一点の瑕もなき、皆が崇める究極の偶像の如き笑みを浮かべた一瞬に。また世界が一変した。
そこは辺り一面が黒々とした岩と湿った樹木で覆い尽くされた鬱蒼な森だった。いいや、正確な色彩は知らない。そもそも分厚い闇に覆われ、黒に支配されている。月明かりはなく。遠くの方にぼんやりとオレンジの色の光が見えるだけ。だけど、上条は闇の中で光を見ても心が落ち着かない。あれは溶岩や山火事のような、人を傷つける光だ。直感で理解する。ここはあの純白の『位相』とは違うところに存在する地獄のような異界だ。
体が重い。しょちゅう死亡事故が発生している狭いトンネルの中に取り残されたような気分。見ているだけで何かがのしかかってくる。そんな闇に包まれた空間で埴安神袿姫は何かに語りかけるように呟いた。と思うと闇の質が変化した。そう、例えるなら布団の中で健やかに眠るための優しい夜の闇のように。少年の心が落ち着いて癒されていく。
「私がやったのはお願いしただけだから、そこまで大した事はやってないから勘違いしないで。そしてこの世界を掌握している神はアップグレードされているから、埴安神袿姫という神と同様に最早ただの神の領域にはいない強大な存在になっているわよ」
どうやら彼女はこの世界を支配している神様と知り合いらしい。普段ならどんな存在なのだろうか?と質問していたが、この世界の主と思わしき存在に上条は心当たりがあった。ヘカーティア・ラピスラズリという『魔神』と超絶者を兼ねた神様だ。あの神様は死後の世界を司ると自己紹介をしていた気がする・・・・多分。
「ところでなんでこの世界に俺を連れてきたんだ?」
「ここのシステムを利用して私だけでなく他の超絶者達の背景をじっくりと知ってもらうためよ」
埴安神袿姫は上条当麻の疑問に答えつつ、手を引いてリードしながら森の中をどんどんと進む。暗闇の中でも後光が差しているような絶世な美貌を持っているのもあるが、埴安神を少年はとても頼もしく感じて、ドキドキしていた。これは死後の世界という特殊な環境で起こる吊り橋効果なのだろうか?それとも好みのタイプの寮の管理人のお姉さん系に当て嵌まる神様だからこう感じているのか?
そんな思春期な少年でもある上条の気持ちを知っているのか知らないのかは分からないが、埴安神様はぐんぐんと対象との距離を体が密着するほど詰めてきて、上条当麻の心拍数を上げてきたのである。もしかしてこの神様は意外とフレンドリーな性格をしていらっしゃる!?
「あの〜埴安神様、なんでここまで密着してくるんですか?」
「改めて確認したら中身も含めて結構良いデザインしているなと思って、もっと近くで確認したみただけよ。気にしないで」
「あっ、はい」
よく見たら埴安神袿姫に付き従っている炎のオーラの形をしている『ドラゴン』もいつの間にか現出して、ジロジロと見ている。この目線は捕食者の目だ。おそらく年末の渋谷で死の運命を主人と共に回避させるために接触した時に上条当麻が蓄えているエネルギーに味を占めてしまったのだろう。
森を抜けたら、なにかが見えてきた。石造りだけど、建物ではない。荘厳な門だった。
「この地獄の門のデザインは・・・・まさか『後戸』?」
ただ、横にいる埴安神袿姫が驚いているようだ。しかし上条当麻は別のことで驚いていた。見覚えがある赤衣の服を着ている青年が門の正面にいたから。
「異界や『位相』は他者や自分のイメージに意外と影響を受けやすい。この場所を支配している三相の女神は色々な神格や要素を内包しているからおかしくはないじゃろう?」
そこにいたのは、神浄討魔と死闘を繰り広げたクリスチャン=ローゼンクロイツだった。
「確かに人間達にヘカテ神と呼ばれて、ヘカーティア・ラピスラズリという超絶者になった『魔神』は、私と同様にバージョンアップしたことで三相女神という概念、『法則』になったから、『秘神』の要素を持っていてもおかしくはないわね」
上条当麻が、この世界に存在しているCRCの姿に驚いていることを余所に埴安神袿姫とヨハン=ヴァレンティン=アンドレーエはヘカテ神ことヘカーティア・ラピスラズリのことで仲良く談義をする。
ヘカーティアが持つ三相女神というか属性は未だに卵が先か鶏が先かの論争の論争を引き起こしている歴史ある言葉。ただ言えるのは・・・・。
エレシュキガル、ヘカテー、ヘケト、ヌト、ヘリオス、アポロン、ミスラ、ミトラ、メタトロン、弥勒菩薩、アルテミス、セレネ、ペルセフォネ、デメテル、ヘラ、ユノ、ヘベ、ルキナ、エイレイテュイア、アフロディーテ、アテナ、メティス、アナト、アースティルティト、メドゥーサ、イシュタル、アシュタレト、アスタロト、イシス、イオ、オーディン、メルクリウス、ヘルメス、ルゴス、ルーグ、トーティタス、エスス、トート、トリスメギストス、リリス、リリトゥ、モルガン、モリガン、マルザンナ等の多岐にわたるこれらと同一視されて内包していることだ。
だから、同じように色々な神々と神仏習合しまくっている摩多羅神という『秘神』と悪魔合体、合体事故を起こしてしまうのは当たり前の結果かもしれない。
それ故に白い文字で「Welcome Hell」と描かれた黒いTシャツを着た『秘神』と北斗七星や星座が描かれている前掛けを着た三相女神が東方Projectという作品を知っている超絶者埴安神袿姫の脳内に浮かび上がってくるのも必然とも言えるだろう。隣で困惑している少年の表情を見るに何故か上条当麻の脳内にも浮かび上がっているようだが。
「しかし、なんでローゼンクロイツが世界にいるの?切り離した後、私が造形した『しあわせの世界』に配置したはずなのに」
上条当麻も思っているその疑問を埴安神袿姫に投げかけられたクリスチャン=ローゼンクロイツことヨハン=ヴァレンティン=アンドレーエは露骨に不機嫌な顔になった。
「三相の女神に気に入られた結果じゃ」
分身体同士とはいえ、学園都市で互角に魔術戦を繰り広げたせいなのか。どうやらクリスチャン=ローゼンクロイツはヘカーティア・ラピスラズリに気に入られたことでこの異界に囚われてしまったらしい。
「この老骨はヘカーティア・ラピスラズリと魔術戦を繰り広げることに疲れた・・・。友人となった造形神のお嬢ちゃんや上条当麻、三相の女神を説得をしてくれないかのう・・・」
そこには疲れ切った社畜のような雰囲気を出しているローゼンクロイツがいた。
思わず同情してしまいそうだ。かつての『魔神』オティヌスと戦い続けた上条当麻に通じるモノがあるから。ヘカーティア・ラピスラズリという神様も少年の好みのタイプに当てはまるお姉さん系とはいえ、流石にこれは羨ましくはない。
「分かったわよ。貴方のためにやるだけやってみるわ」
「それは頼もしいのう。ところで未来は見えるか?」
「今代の幻想殺しの所有者の上条当麻と世界の外側に存在する地獄の支配者と言えるヘカーティア関連の未来はあまり見えないわね」
「こちらもそうじゃ」
世界の完全な縮小模型を作り出すことができる二人の超絶者は一部の過去現在未来の事象が見えなくなっても気にしないようだ。遠慮なく『後戸』の要素がある地獄の門を潜る。
地獄の門を潜った瞬間にがさりと物音がした。上条がそっちを見ると馬鹿デカい斧を持った、牛頭のムキムキマッチョがいた。ミノタウロスだ、ミノタウロスが目の前にいる。
「この地獄は十字教だけでなくギリシア神話もベースにしているわね」
「造形神のお嬢ちゃんの影響で神道や仏教の死後の世界観も混じっていそうじゃがのう」
ミノタウロスと言うギリシア神話に登場するモンスターが登場しても二人の超絶者は呑気に話している、その横でツンツン頭の少年は右手を固く握る。
この巨体の怪物に幻想殺しは通じるのか!?どうみても幻想っぽくない筋肉と武器を所有しているぞ!!
だが、そんな少年の不安は杞憂に終わった。ミノタウロスがサイコロステーキのように何者かの手によって切り分けられて死んだからだ。
ミノタウロスを薄っぺらな暗い影として虚空に消滅させた者の正体は杖刀偶磨弓であった。
「ローゼンクロイツ殿、探しましたよ。ヘカーティア殿が呼んで・・・・って、袿姫様!?」
「磨弓ちゃんもここにいたのね」
どうやら杖刀偶磨弓という少女は、ヘカーティアの元から逃げ出したローゼンクロイツを連れ戻すための一時的な使い走りになっていたらしい。
「ちょうどいいところだわ。上条当麻を護衛してくれる?」
「『ドラゴン』や幻想殺しがあるから充分に自衛できると思いますが・・・・分かりました。上条当麻殿、私の側を離れないようにしてください」
いつの間にか上条当麻という呼び捨てから殿扱いに変化している。ステイルに匹敵するくらいにこちらの当たりも強かったのに。杖刀偶磨弓という少女にどんな心の変化があったのだ?
杖刀偶磨弓が上条当麻に対して態度を軟化させた理由は色々あるが、一番の理由は主人が世界ごと再構成する時に自意識が大きく変わることをその存在だけで防いでくれたのが大きいだろう。
そして自称当たり前の高校生が超絶者達の過去を知るための死後の世界旅行が始まった。
「上条当麻よ。地獄の食べ物を口にしてはいけないや後ろを振り向くな等の死後の世界では破ってはいけないルールが幾つかある、もしかしたらこの老骨と同じように囚われるかもしれないから気をつけるじゃぞ?」
「日本でもそういうのはあるわね。もしもの話だけど、私の伊邪那岐が死んだ伊邪那美を黄泉の国から連れ出すことに成功していたらどうなっていたのか気になるわね・・・・。人間達の生と死が完全に断絶する事は無く曖昧なままでいて、寿命の定義も発生しなかった世界が訪れたのかしら?」
ちょっと待ってほしい。そんな場所に連れてきたのですか!?埴安神様!?
「上条当麻殿。安心してください。今のところ、この世界に囚われているのはローゼンクロイツ殿だけですよ」
「それでも上条さんは不安なんですよ!!」
今、上条当麻達はアケロン川こと三途の川をカローンと呼ばれている存在が漕いでいる渡し船で渡っている最中だった。だが、死後の世界の渡し守たるカローンは何故か女性の姿をしていた。
「老人の姿をしているはずなのに女体化しているとは不思議じゃのう?」
「(このカローンの姿・・・・心当たりがある。小野塚小町だ)」
超絶者ヘカーティアや埴安神袿姫や杖刀偶磨弓のせいでこの世界は東方Project世界の死後の世界も混ざってごちゃ混ぜの異界になっていた。東方Projectの世界観を知っている埴安神袿姫になってしまった転生者だけがこんな世界になってしまった訳を即効で理解したが。
三途の川を渡る際の渡し賃問題はすぐに解決した。埴安神袿姫が造形術で人数分の渡し賃をすぐに生み出したから。地獄の沙汰も金次第と言うが偽金作りはアウトな行為では?クリエイターなら容易いこと?私がルールだ?それはいけませんよ、埴安神様。
「だったらギリシアのヘラクレスのように殴って言うことを聞かせた方が良かったかしら?」
そこには自慢の腕っぷしでどこかニホンオオカミの毛色が入っているような三つの首を持つ魔犬。ケルベロスの群れを杖刀偶磨弓と一緒に服従させにかかっている埴安神がいた。
そう言えば、火之迦具土神の死因は一説によれば波邇夜須毘売神が関わっていると聞いたような気がするが、もしかして殴り殺したのか!?それだったら荒魂と化して上条を遥か上空まで殴り飛ばした領事館の件といい、フィジカルがその見た目から想像できないほど高いのも納得する!!
「(若造に嬉しい報告がある。世界の完全なる縮小模型で検索した限り、超絶者埴安神袿姫本人は処女みたいじゃぞ?ふむふむ、皆に望まれた理想の偶像故に、そこら辺は処女神という肩書きを持って信仰されたこともあるヘカーティアと同じということかのう?)」
「(なんと!!)」
黄泉の国の主イザナミの無尽蔵の穢れが人の形になった黄泉醜女をガラスでできた古いランプからさらけ出された永遠に消えることのない光と揶揄される紅蓮の蛇と
ただ、この話を当人達。特に埴安神袿姫に聞かれたら、赤面になりつつ杖刀偶磨弓と一緒に全力でCRCと上条をシバきにいくだろう。だが安心してほしい。ケルベロスと
上条当麻一行の死後の世界巡りは続く。オオワシとハーピーを従えて血の池地獄で元気にやっている饕餮尤魔を発見して仲良く話した。内容は埴安神袿姫関連が中心だったが、二人共殺し合った仲なのに、そのことは綺麗さっぱりに水に流していた。
上映される。
「アリスのやんちゃを止めるのを手伝ってくれませんか?」
吉弔八千慧のお願いで上条当麻達と同じように超絶者達を引き連れて地獄巡りをして楽しんでいたアリス=アナザーバイブルを説得して現世に帰還させた。ついでに本命とも言えるアリスとの仲直りも出来て良かった。
異界に投影される。
超絶者達の秘匿された過去が死後の世界に具現化されていく。
今度は大量の血の色をした火の粉が吹雪のように降り注いでくる地獄だった。ここを切り抜けるのが一番大変だと感じた。安全地帯がない密度たっぷりの難易度ルナティックの弾幕シューティングゲームのようにこちらに向かってくるし、遥か上空で驪駒早鬼の誘いに付き合わされたH・T・トリスメギストスの両者の全力戦闘の余波で発生した殺意たっぷりのレーザーと斬撃の弾幕も追加で襲いかかってくるからだ。
「あばばばばっ!!燃え焼けばばばばっ老骨のひげが焼け切れる!!??」
信じられない・・・夜や死を司る女神ニュクスの件といい、あのクリスチャン=ローゼンクロイツ、いやヨハン=ヴァレンティン=アンドレーエがいとも簡単にダメージを受けることになるなんて・・・・これが死後の世界。あれ?よく見たら結構余裕そうにしてないか?すごい・・・・これが規格外の領域に入っている達人の魔術師・・・・。
ナーフされた状態とはいえ、完全に異なる世界に存在する神格を超えた未踏級と呼ばれた『紫電の淑女』の力を受け流した実績がある、造形術で簡易的に再現されたパンデモニウムという漆黒の移動要塞の中に避難された上条当麻は感嘆していた。
人間離れした超絶者達の肉体構造に。杖刀偶磨弓は驚異的な再生能力で降り注いでくる火の粉と斬撃とレーザーの弾幕を無理矢理進んでいたし、埴安神袿姫はそもそも無傷で余裕そうに歩いていた。
「ヨハン=ヴァレンティン=アンドレーエ。待っていたわ」
地獄の最下層。ジュデッカと呼ばれる場所にヘカーティア・ラピスラズリはいた。最初に見た時とは随分違う。ただの神様の領域にいない。その先の領域にいると少年に思わせる。
「それはそれとして、埴安神袿姫。私の支配領域はどう思う?ちゃんと各々の超絶者達の過去を再現したけど満足かしら?」
地獄とは個々の罪を晒して責める場所。閻魔大王が亡者達の善悪を見極めるために浄玻璃の鏡で一挙手一投足を映し出すように。
ここまで来るのに、色々な超絶者達の過去を見てきた。過去が映し出されない例外もいたが、埴安神袿姫を構成した背景は未だに上映されていない。何故だ?CRCことヨハン=ヴァレンティン=アンドレーエが作った『
「充分よ。ただ私の過去がこの異界に投影されなかったね」
「貴方の過去は貴方自身で上条当麻に語った方が良いと判断したからね。そしてCRC、私との魔術戦を終わらせたいならもう一回戦いなさい。まだまだ本気を出していないことは丸わかりですよ」
その言葉を聞いた瞬間にクリスチャン=ローゼンクロイツは、両手を大きく広げ『悪魔大王』、または『地獄大王』と呼ばれている存在がいる闇の奥に向かって跳躍した。
「この老骨はクリスチャン=ローゼンクロイツという皮を一時的に脱ぎ捨てて生まれ変わるぞッ!!」
それほどまで、CRCはヘカーティア・ラピスラズリとの戦いを終わらせたかったのだろう。
「常人がこの光景を見たら破滅するから避難しましょう。上条当麻殿」
杖刀偶磨弓と上条当麻が霊長園と呼ばれる異界に繋がっているゲートに避難したが、埴安神袿姫はその場にまだ残っていた。
まともに見たら存在そのものが腐食して破滅する世界の汚物。分厚い暗闇のヴェールから出てこようとする、ヨハン=ヴァレンティン=アンドレーエと悪魔合体した『何か』を直接この目で見たかったから。
埴安神袿姫が見た、十字教の全知全能たる神の計画の裏側に位置する地獄の核の正体とは━━━?
「神綺・・・・?」
銀髪のサイドテールをしたロングヘアーに、赤いロープを着た女性だった。唯一、悪魔っぽいと言えるのは背中に生えている六枚の翼だけだった。
暗闇の奥にいる『何か』と悪魔合体したヨハン=ヴァレンティン=アンドレーエの新生した姿は、東方旧作と呼ばれるシリーズに出てきた、あるキャラと似たような姿をしていたのであった。
相手は地獄を支配する『法則』そのものとなった神。ならば、こちらは魔界の創造主という『法則』に自身をバージョンアップさせて対抗する。というのがCRCの魂胆だったのだろう。
超絶者埴安神袿姫やヘカーティア・ラピスラズリと『共鳴』していた&異界や『位相』は他者や自分のイメージに意外と影響を受けやすい等の超絶者神綺になりやすい条件が整っていたとはいえ、ヨハン=ヴァレンティン=アンドレーエの目論見は無事に成功したのである。
超絶者という存在とはいえ、こうして魔界の神VS地獄の女神という夢のような対戦カードが生まれた。
完結という名のゴールが遂に見えてきた・・・・。