この話までスラスラと書けました。後はゆっくりと物語を考えて投稿するスタイルになります。
べだだだだだだだだだだだだだだ ベダンッ!!と。
腐ったなめくじみたいな色彩の、澱んで濁った、白と黄色の生々しい獣の脂肪で出来た汚らわしい人面のシルエットが渋谷の建物内に、大量に発生して、そこから更に異形のシルエットに成長して練り歩く。
それは見ている側からすれば生理的嫌悪感の塊だ。実際ぎゃあ!わあ!?とあちこちで悲鳴が炸裂して、渋谷中の建物から人が吐き出される。
寒空の下でそっと白い息を吐いた夜と月を支配する魔女達の女神、アラディアは熊の脂肪を使った『検索』で、渋谷と呼ばれる界隈に存在する全ての建物の数と部屋数を正確に把握した。
「一つだけ、不自然に人がいない建物がいるね。しかも複数熊の脂肪がその建物内のある空間でばっさり切られて壊されている・・・・埴安神袿姫と杖刀偶磨弓の仕業でしょうね」
アラディアは上条当麻とボロニイサキュバスがそこにいる可能性が高いとなんとなく思った。
しかし人工の死角は全て潰したのに『検索』にはボロニイサキュバスと上条当麻は未発見という結果のままだった。
「向こうもただ表で突っ立っている訳じゃないものね」
ならば次にやるべきは、不自然に空回りしている顔面やシルエットがないかの精査だ。半分の半分の半分・・・・・。検索の基本は条件を足すことで範囲を確実に絞っていく事にある。
ボロニイサキュバスが何かをして『検索』を誤魔化しているなら、挙動のおかしい脂肪の捜索エリアに標的がいる。
「善行、善行と」
人を探したいなら、そういう結果から逆算してやればいい。
つまり誰かが求める人探しを完遂すれば、そこから三倍の払い戻しがやってくる。
アラディアは親とはぐれた今にも泣きそうな小さな男の子を笑顔と話術で宥めて、彼らの両親を捜すための簡単な占いを実行しながら渋谷の街並みを歩いていく。
「・・・・・さあて、幸か不幸か世界の運命さん。あるいは一つの魔術から生じる位相と位相の圧迫が生み出す災厄の火花よ。巡り巡って、法外な利子をつけて返してもらうけど?」
それは人捜しという親切を働いて、自らの手で善行を積んだという行為で三倍の結果を得るために。
実践魔女の世界では、常に三倍の法則が働く。
それが善行であれ悪行であれ、一人の魔女が使った魔術は巡り巡って必ず三倍の強さになって使用者に戻ってくる鉄則だ。
それに底はない。上手く活用したら魔神も撃破することも夢ではない、それほど強力な法則だ。
だがアラディアは過剰なほどに善行をして自身の術式に『装填』をするという行為をしていた。
いつか埴安神袿姫とぶつかることをアラディアは無意識に察知して、その事が起きる恐れていたかもしれない。
だが、それは正しいことだ。何事も用心するに越したことはないのだ。
現在、ボロニイサキュバスと上条当麻は、施設内で増殖して探してくるアラディアの『検索』のシルエット達と空を飛んで追いかけてくる埴安神袿姫から放たれる弾幕を躱す恐怖の弾幕鬼ごっこをしていた。
「坊や!その右手でかき消すのは埴安神袿姫めの弾幕だけにするんばい。アラディアの『検索』に触れたら、反応ありとしてアラディアが合流して来るからのう!」
「分かっている!でも消せない弾幕が紛れ込んでいるからその弾幕はそっちで避けて対処してくれ!」
埴安神袿姫が勢いよく投げつけた、ただの物体の彫刻刀や粘土ヘラみたいな幻想殺しの範囲外の弾幕はボロニイサキュバスが対処して、線を形作るように造形術で生み出されたレーザーで囲んでこちらを撃ち落とそうとする弾幕はこれは打ち消せる弾幕と上条当麻が判断し、幻想殺しで包囲網に穴を開けて突破した。
床、壁、天井に触れずにシルエットと弾幕を対処し、避けながら直線通路の空中空間に危なかっしい動きで高速で一気に突き抜けていく姿は、戦闘機を使って地面スレスレの高架下でも潜るように見えたし、シューティングゲームで画面を埋め尽くす弾幕を上手く回避するプレイ動画に見えた。
幸い舐めプか、それともこれが埴安神袿姫の飛行スピードが単にこちらよりも遅いのか、それか何かしらスピードを出せない原因があるのか。案外あっさりとボロニイサキュバスは埴安神袿姫を簡単に撒けた。
だが問題はアラディアの『検索』だ。際限なくべだんべだんと増え続けて吹き抜けの壁や天井を滑るように走ってくる、精度が強化された黄色いシルエット達のローラー作戦で特定されそうになっているからだ。
「なぁ、この施設で隠れ続けて逃げることを続けるのは、もう無理そうだから外に逃げた方がよくないか?」
上条当麻の提案にボロニイサキュバスは
「坊やよ、わらわもそうしたい気持ちだが、それは無理な可能性が高いぞ。埴安神袿姫が人払いをしてここにいるということは、ここは対象の人間以外が脱出できないように、造形術でこの建物が丸ごとそういう風に作り変えられている可能性があるばい。まぁ、埴安神袿姫が使ったのがただの人払いの魔術で、建物を作り変えていない可能性に賭けるしかないの」
と答えた。
そう、精度が上がってこちらを『検索』条件に当てはまる黒に近い灰色状態の対象として認識して追いかけてくるシルエットを雷みたいなジグザグ移動で避けながら『検索』を妨害出来る目的の場所に向かっている途中で上条当麻とボロニイサキュバスは脱出をどうしようかと話し合っていたのだ。
上条当麻と女悪魔は『検索』を妨害出来る目的の場所、ホットスパに辿り着いた。
ボロニイサキュバスの話では、アラディアの『検索』は対象の肌の上にある顕微鏡サイズの雑菌やバクテリアが築いている小さな生態系のパターンを識別して追いかけてくるらしい。
だから生態系を洗い流して、液体の被膜で全身を包んだら『検索』を妨害する対処法を実行しようということだ。
急いでいるので服を着たまま、シャワーを浴びて洗い流そうとしたらぼたっと、お湯の代わりに頭の上から何か落ちてきた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
熱湯の代わりに落ちてきたのは、黄土色の物体だった。
天井をべっとりと隙間なく黄色いシルエットが埋め尽くして、そこから垂れた一滴が頭の上に落ちてきたのだ。
そして思わず手で触れてしまった。しかも幻想殺しで。
ぱんっ、と小さな音を立てて何か汚い液体が弾けた。
映像に映らず防犯カメラを壊しても、何者かが壊した結果が残るのと同じように、不自然に壊れたという情報はアラディアに伝わった。
「いかん」
その一言をボロニイサキュバスが言うのと同時に、魔女の閃光という虫除けの術式がゴッッッッバッッッッッ!!と建物の壁を貫いて上条当麻達に襲いかかってきた。
一方、埴安神袿姫は大量の『検索』のシルエットと自身が時折、放った弾幕を物凄い勢いで避けて、時に上条当麻の幻想殺しが自身の弾幕を打ち消し、対処して逃げるボロニイサキュバス達の姿を見て、懐かしい気持ちを感じて楽しんでいた。
そう、それはまるで畜生界霊長園の中で展開される自分の弾幕から動物霊と一緒に逃げながら戦闘を行う博麗の巫女を思い出すようで・・・・
「あれ?私にこんな記憶あったけ?」
突如、自分の中に経験したことがないはずの存在しない記憶があることに疑問を持ち、埴安神袿姫は立ち止まって、一時的に行動を停止して考えごとをした。
何故、このような記憶が出てきたのだろう?もしかして、私が接点を持っているシークレットチーフの東方Project世界の埴安神袿姫と混じっている?それか、かつての私の記憶と纏っている理想の埴安神袿姫が融合して本物の埴安神袿姫らしい、身に覚えがない記憶を生み出されたのかしら?それとも造形術で私を模倣先の皆の理想の偶像の神、埴安神袿姫として洗練させるために、自己改造したことが原因?いや、それとも・・・・
身に覚えがない記憶がなんで生えてきたのかをひとしきり考察した後、彼女は問題がないように動いた。人々に崇められている偶像はその偶像と繋がろうとする信仰している信者に影響されて変わることが多いものだ。例外はないと言っていいだろう。そう彼女は認識している。
故に答えが何であれ、多少変質することなどは彼女にとっては、深刻なモノではない。自分が皆に崇拝される偶像の埴安神袿姫であることには変わらないからだ。
しかし、いきすぎた偶像崇拝は、恐ろしいものだ。例え信仰される対象の偶像がどんなことになっても、ファンによって勝手に都合のよいストーリーを見出されながらキャラ付けされて、情報が何も知らない第三者に伝わってそれが歴史に残って歪んだ偶像が真実になるのだから。
実際に偶像の理論という偶像崇拝に関係する魔術理論があって、超精巧なレプリカに手を加えることでオリジナルを書き換えて都合よく解釈する魔術が存在するのがそれを物語っている。
信仰する対象がそれで変質して、ありのままの姿で伝わらずに歪んだ姿で歴史に残るのを恐れて偶像崇拝を規制し、禁止する集団が発生するのも納得するものだ。
だが偶像崇拝は消えない。
結局、人間は各々の中にある理想の偶像を信仰して押し付ける習性を持つ生き物と言えるだろう。いや・・・・たとえ祈る対象が実在しなくても、崇拝して偶像という本物を自ら動いて造れるのが人間の特権で、誇るべき特徴とも言えるかもしれない。
そういう意味では神という偶像を作ることが出来る造形術という能力を持っている埴安神袿姫は人間と呼べるかもしれないだろう。
おかしい。いつまでたっても上条当麻とボロニイサキュバスがいるところに見つからない。
そして、こちらが人払いをしているとはいえ、ここまで静かなのはおかしい。
上条当麻とボロニイサキュバスの追跡を再開した埴安神袿姫がそう思いながらこの仕掛けの正体を見破って、自分がいる『位相』を造形術で造り直そうと思って動こうとした時、埴安神袿姫がいる施設の通路の目の前にベージュ色の修道服を着た一人の金髪の女性が姿を現した。
その正体は大悪魔コロンゾンの肉の器を乗っ取った『人間』アレイスター=クロウリー、その人であった。
上条当麻達にとって幸運だったのは、アンナ=シュプレンゲル対策に渋谷の大型商業施設ミヤシタアークに眠るアンナ=キングスフォードの永久遺体を再起動しに来た魔術師アレイスター=クロウリーが同じ施設にいたことだ。
「残念ながら埴安神袿姫よ。ここからは通行止めだぞ」
『人間』アレイスター=クロウリーが『造形神』埴安神袿姫に立ち塞がった。
アレイスター=クロウリーとの絡みをどう書くか迷っています。