視界がぶれる。それは片目が義眼である事、銃弾が掠りマスクが割れた事、頭部から流れた血が眼球へと流れてくる事。それらのどれかが理由なのかもしれない。もしくは全てか。
だがそんな事は気にならない程、マスクを通して見る光化学的な視界よりも遥かに鮮明に、かつての戦友であり宿敵である男が映る。それはザンジバーランドで見た彼の姿を重ねて見ているだけなのかもしれない。脳が最後に見せた淡い幻想か、それとも死の直前の走馬灯か。
それでも男は思う、最後の光景としては悪くないと。自身を踏み潰そうとしている鉄の巨人すら忘れて。
「スネーク。俺達は、政府や誰かの道具じゃない」
その男―――グレイ・フォックスは軋む首を無視しながら顔を呆然と立ち尽くす男へと向ける。その顔は、笑いながら苦言を呈してしまうくらいに彼らしくない顔だったが、気にしている暇も、猶予も無い。助言者でありファンであるディープ・スロートとして最後に伝えなければならない事がある。どうやら自分を殺そうとするもう一人の蛇も最後の時間を許してくれているようで、踏み潰そうとする力は強まらない。
その男の気が変わらない内に、スネーク。一つだけ教えてやろう。
「戦うことでしか自分を表現できなかったが…」
一呼吸置いてから再び話し出す。これはどうしようもない俺の人生で、足掻きながら戦い続けた戦場の中で、ようやく見つけた答え。
「いつも自分の意志で戦って来た…!」
この言葉が終わると同時に、鉄の巨人―――メタルギアの足がFOXの背から離れる。ショーは終わりだと言わんばかりに彼を踏み潰そうとしているらしい。今度は何の慈悲も無く、ただ狐を駆るように。
やり残したことが無いと言えば嘘になる。血は繋がってこそいないが確かに自分の事を兄と慕ってくれる妹の事、そして目の前の英雄が作り上げていく伝説の行く末も見ていたかった。しかし、不思議と悔いは無い。モザンビークの時から最後まで自分の行動を間違ったとは思わなかった。
残り数秒。別れの言葉を残すことぐらいは出来るだろう。
「スネーク!」
俺を踏み潰さんとすメタルギアの足に気を取られている間抜な男の名を呼ぶ。最後ぐらい友に見送って欲しい、これぐらいの我儘は許されるだろう。
誰に許しを求めているのか、自分の思考に思わず苦笑して。
その顔は晴れ晴れしいほどに間抜だった。
「さらばだ」
迫り来る鉄の巨人の足。
全てを終えたFOXが見たのは、それともう一つ、不思議な光を放つメタルギアの足と同サイズの鏡。
メタルギアによって潰される前に、FOXの身体はその鏡に吸い込まれていった。
吸い込まれると同時に朦朧としていく意識の中、彼は自分を求める声を聴いた。幼い頃の妹の様な、遊んでほしいと駄々をこねる様な声を。
懐かしい、出来る事ならこの手でもう一度、我が妹を抱きしめたい。そう願いながら彼の身体と意識は鏡の本流のその奥へと沈んでいった。
運命の歯車は、まだ彼に休息を与えはしない。
おかしい。何かが。
もはや動ける程の力は残っていないはず。強化骨格の恩恵も失われている筈だ。
ならば何故、奴を踏み潰した感触が伝わらない。何故、この俺が奴の息を止める前に生体反応がロストした。
「どういう事だスネェェェークッ!!」
思わず我が兄弟に八つ当たりするかのように問いかけてしまう。だが兄弟の顔を見れば奴もこの状況に困惑していることに気付いた。
何故なら兄弟は親父の遺伝子を引いているとは思えないほどの間抜面をしていたからだ。