瀬人VSキサラ~時空を超える記憶~【完結後、後日談ぼちぼち執筆】   作:生徒会副長

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TURN0-1「奪われたブルーアイズ」

*本格的なデュエルは次の話からです。
*9月15日、修正。デュエルディスクは左腕につけるものでしたね。


TURN0-1「奪われたブルーアイズ」

 気がつけば、海馬瀬人は見知らぬ砂丘に独り立っていた。照りつけるような日差しと全てを焦がすような陽炎が目に映るにもかかわらず、何故か熱さに対する感覚は鈍い。

 風が吹き荒む向こうに、黒いマントと仮面の男の姿がおぼろげに見えた。男が手を空に掲げると、そこから妖しい雷光が発せられる。

 瀬人の手に武器はない……。ただ身構えることしか出来ない彼が覚悟を決めたその時ーー。

 1人の、銀髪の美女が前へ躍り出た。

 彼女は、瀬人を護るために、瀬人の盾として、その身を雷光に貫かれた――。

 倒れる彼女を、すかさず受け止める。

すると彼女は――生来蒼く澄んでいる筈の眼を血で紅く染めて、瀬人を睨みつけた。

 

「――? ――――ッ!?」

 

 何を叫んでいるかはわからない。しかし、彼女の絶望と、瀬人に対する想いの強さだけは分かった気がした。

 次の瞬間――。

 

「――――――!!」

 

 断末魔を上げる彼女の身体から青い焔が燃え上がり、断末魔は巨龍の咆哮となった。

 

『なっ……!?』

 

 今まで明確に分かる音がなかった空間に、彼自身の驚きの声が洩れる。

 何故ならその巨龍の姿は――。

 

(ブルーアイズ!?)

 

 自分が最も信頼するしもべ、青眼の白龍に他ならない。それが自分に牙を剥いている……。

 なぜ? どうして?

 理由が分からないまま、瀬人の身体はブルーアイズの光撃に飲み込まれた――――――。

 

**

 

「――――ッ……!」

 

 目が覚めると、そこはいつもと変わらない、社内の仮眠室だった。瀬人の額に、汗が鬱陶しくへばりついている。枕元のデジタル時計は、午前2時を知らせていた。

 

「また、あの夢か……」

 

 彼――海馬コーポレーション社長、海馬瀬人は、数日前から悪夢にうなされていた。夢は儚く、そのヴィジョンはおぼろげにしか覚えていないが、はっきり覚えていることが1つある。

 

(ありえん。俺が、ブルーアイズに殺されるなど!)

 

 所詮はくだらない夢に過ぎぬと、瀬人はいつものように切り捨てることとした。

 瀬人には目標があった。彼が生涯のライバルと認めた決闘者――アテムが冥界に還った今こそ、『世界海馬ランド計画』という人生最大の目標を、一層推し進めていかなければならない。こんな幻影に気を遣っている余裕など、彼にはないのだ。

 

(もう一度眠り直すか……。)

 

 一度払いのけた布団に手をかけた時、仕事用の電話がけたたましく鳴りだした。

 

「チッ……」

 

 世界を股にかける大企業には、よくあることである。

 

(面倒なことだ。仕方ないとはいえ……)

 

 彼は渋々受話器を取った。

 

「俺だ。何の用だ?」

 

 受話器の向こうにいるのは、彼の一番の腹心――磯野のはず。そう見越して簡潔に訊ねた。しかし――。

 

「こんばんは……。海馬瀬人」

 

 何故だろう。女の声がした。

 

「貴様は何者だ」

「貴方に名乗れる名前はない……。まあ仮に、シンと名乗っておきましょうか」

 

 あまり女らしくない名前だ……という感想を抱く。思い当たる節もなかった。

 

「……要件はなんだ」

「今から、私とデュエルをして下さらない?」

「デュエルだと?」

 

 『デュエルにおいて、いつ何時であろうと、誰の挑戦でも受ける』――そういう信念を、彼は一応持っている。しかし今は、草木も眠る丑三つ時だ。

 

「休養も仕事の内……。俺は忙しい。その挑戦、日を改めれば、受けてやってもいいぞ?」

「負けるのが怖いのかしら? それとも、貴方のしもべには雑魚しかいないのかしら?」

 

 その挑発は、海馬瀬人の闘争心に火を灯すには十分だった。

 

「ふぅん! ブルーアイズの存在を無視して俺のカードを雑魚呼ばわりするとはいい度胸だ!」

 

 一瞬、あの悪夢のことが瀬人の頭をよぎったが、関係のないことだと思っていた。次に、相手が言葉を発するまでは。

 

「青眼の白龍? そんなカード、貴方のデッキに入ってないわよ?」

 

 ブルーアイズの悪夢。こんな深夜の挑戦者。意味ありげな口振り。

 

(……まさか!?)

 

 彼はすぐにデッキを確認した。ブラッド・ヴォルス、X-ヘッド・キャノン、収縮、エネミーコントローラー、最終突撃命令、異次元からの帰還……。

 ……ない。

 海馬瀬人が最も信頼するカード、青眼の白龍は――どこにもなかったのだ!

 

「貴ッ様ァァアア!! 俺のブルーアイズを何処へやった!? 絶対に許さんぞ!!」

 

 深夜であることなど意識の外にやって、瀬人は怒声を上げる。

 

「ふふっ……。取り返したければ、屋上にいらして下さい。そして運命のデュエルを愉しみましょう? 

 貴方とブルーアイズの――運命を決めるデュエルを!!」

「ちぃっ!」

 

 乱暴に瀬人は通話を切る。

 自分で決めたものならいざ知らず、他人に決められた運命のデュエルなど、彼にとっては至極どうでもよかった。しかし、それでも彼を突き動かしたのは――。

 

(ブルーアイズこそ俺の光。ブルーアイズこそ俺の魂。そして――俺とモクバの、絆の象徴。何としても取り返す!!)

 

 彼の意志は刀より鋭く、ダイヤモンドよりも固かった。

 瀬人は、己の象徴のひとつである白いコートに袖を通し、気を引き締める。ブルーアイズを取り戻す為、デッキを再編成する。

 左腕に決闘者の盾、デュエルディスクを装着すると、彼は戦場へと、走り出した――。

 

**

 

 屋上にやってきた彼を迎えたのは、黒雲渦巻く暗い空と……。

 

「お待ちしておりました……。海馬瀬人」

 

 モノクロ模様の仮面を被った女だった。声だけでなく、腕の細さや衣服の凹凸を見れば女であることはわかる。仮面の外には長い銀髪が、黒のグラデーションを深めながら真っ直ぐ下りる。うなじと美しく張り出した乳肌に目をやれば、そのいずれもが、大理石のような輝く白さを見せている。乳肌は途中から、蝙蝠の翼のような暴力性と身軽さを孕んだ黒のドレスで隠されていた。

 

「ふぅん……。逃げることなくデュエルに臨む潔さは誉めてやる。だが、俺のブルーアイズを奪った罪は言い逃れできんぞ!」

「罪から逃れられないのは貴方のほうよ!」

 

 瀬人に心当たりはなかったが、相手の気迫に一瞬気圧された。

 

「貴方はかつて、大きな罪を犯した。貴方だけじゃない。私も含めて……全ての人、全てのカードは今、大きな罪を背負っている。私は、それを無に帰すためにここへ来た……」

「そんな戯れ言はどうでもいい。過去の罪など俺には関係ない。俺が見据えるものは、未来へのロードのみ! 俺の未来を照らす光、ブルーアイズは返してもらうぞ!」

 

 瀬人は空に左腕を掲げる。その動作に反応し、デュエルディスクは臨戦形態に変形した。

 

「いいえ……。未来に光などないわ。あるのは底知れぬ罪と絶望だけ……。それを、デュエルで教えてあげる!」

 

 いまこの時の両者間においては、理解にも交渉にも至る余地はない。互いに、考えることは同じだった。

 

((――決闘者なら、カードを以て己を語るのみ!))

 

 青眼の白龍を巡るデュエルが、幕を開ける――。

 

『『――デュエル!!』』

 

海馬瀬人/LP4000(先行)

《VS》

シン/LP4000

 

「俺の先行、ドロー!

 手札から『サンダー・ドラゴン』を捨てることで、デッキから新たな『サンダー・ドラゴン』を2枚、手札に加える!

 ブラッド・ヴォルスを召喚!

 これでターンエンドだ!」

 

瀬人LP4000/手札6枚/伏せ0枚

ブラッド・ヴォルス/攻1900




【注意】
*デュエルSSです。
*キサラが悪堕ちした過程については、以下の小説をご覧下さい。
『罪に堕ちるブルーアイズ』→http://novel.syosetu.org/32132/3.html
*興味があれば、私が書いた古代編の短編小説も併せてお読みください。
『いつか、友としてディアハを』→http://novel.syosetu.org/33588/1.html
*ルールは、5D’s時代のOCGに準拠
*起動効果の優先権と、ダメステに関する新改訂は無関係(関係するカードは出ない)
*禁止制限(リミットレギュレーション)も上記に準拠しますが、例外もあります。具体的には以下の通りです。

《瀬人が使用する》
超再生能力、異次元からの帰還、増殖するG、大嵐
《キサラが使用する》
超再生能力、OCG効果のSin、蒼眼の銀龍、伝説の白石、青き眼の乙女
《使用しない》
アニメオリカ全て、征竜、殿堂入り禁止カード(強欲な壺、混沌帝龍など)

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